法務省、株主提案権の在り方に関する会社法上の論点の調査研究業務報告書の公表
岩田合同法律事務所
弁護士 大 浦 貴 史
法務省は、平成28年3月25日、株主提案権の在り方に関する会社法上の論点の調査研究業務報告書(以下「本件報告書」という。)を公表した。
本件報告書は、法務省民事局が、株主提案権の在り方に関し、比較法的視点に基づく基礎資料を収集することを目的として委託した調査の報告書である。アメリカ、イギリス、フランス及びドイツにおける株主提案制度の概要を確認するのに好適である上、株主提案制度の見直しの方向性(とくに、濫用的な株主提案の抑止について)についての提言もあり、参考となる。
139頁に及ぶ報告書であるため、以下では、その概要のみ説明する。
⑴ 株主提案の行使要件
日本では、議決権総数の1%以上又は300個以上の議決権を6か月間継続保有していることが要件となる(会社法303条2項、305条1項)。これに対し、イギリスでは、議決権総数の5%以上を有するか、一定金額以上の議決権付株式を有する100名以上の株主で行うことが要求されており、フランス・ドイツでも、原則として資本の5%以上を有することが要求されている。
行使要件の厳格化については、必ずしも濫用的提案の抑止に繋がるものではないとして、慎重な態度が示されている。
⑵ 株主提案の量的制限
日本では、議案の提案数について明文の制限はないが、アメリカでは、株主1人(1グループ)あたり1個に制限されている。
そこで、日本においても議案の提案数を制限することを検討する必要があろうと提言されている。
⑶ 株主提案の内容的制限
日本では、株主総会参考書類における記載に関して、議案の提案理由が明らかに虚偽である場合や、専ら人の名誉を侵害・侮辱する目的によるものと認められる場合には、提案理由の記載を要しないものとされている(会社法施行規則93条1項3号かっこ書き)一方で、議案自体についてはかかる制約が明文で定められていない。これに対し、アメリカ、イギリス、フランス及びドイツのいずれも、提案自体を含めて、会社又は第三者の権利・利益を侵害するようなものについては提案が認められないものとされている。
そこで、日本においても同様の規制を行うことが望ましいと提言されている。
⑷ 業務執行事項に関する株主提案の制約
日本では、例えば、電力会社の定時株主総会において、脱原発等といった業務執行事項に関する株主提案がされていることから、業務執行事項に関する株主提案を制約すべきとの主張がされている。
この点、アメリカ、フランス及びドイツでは、株主総会では原則として業務執行事項について決議することができないとされている。これを受け、フランス及びドイツでは、業務執行事項に関する株主提案はできないものとされている。一方、アメリカでは法的拘束力がない勧告的提案であれば可能とされ、実際にそのような株主提案が多数行われている状況にある。他方、イギリスでは業務執行事項に関する株主提案も可能とされている。
この点に関しては、現時点では業務執行事項に関する株主提案を認めることによって生じる弊害の具体的内容が明らかになっているとはいえないとして、これを制約することに否定的な態度が示されている。
本件報告書を契機として、株主提案制度の見直しに関する議論が一層活発になる可能性もあることから、今後の動きも含めて注視が必要である。