インドネシア:オムニバス法の制定(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 前 川 陽 一
2020年11月2日、ジョコ・ウィドド大統領の署名を経て、雇用創出法(2020年法律第11号)が正式に公布された。通称「オムニバス法」と呼ばれる法律である。オムニバス法は、投資促進による雇用機会の創出を目的として、労働法、投資法、会社法、独占禁止法、入国管理法、所得税法等の主要な法律を含む78の法律にわたり、関係条文を一度に改廃するものであり、本文部分だけで769頁に及ぶ非常に大部の法律となっている。オムニバス法全15章の構成は以下のとおりである。
第1章
第2章 第3章 第4章 第5章 第6章 第7章 第8章 |
総則
原則、目的及び範囲 投資及び事業環境の改善 雇用 中小零細企業及び協同組合の促進、 事業促進 研究及び技術革新の支援 用地取得 |
第9章
第10章 第11章 第12章 第13章 第14章 第15章 |
経済特区
中央政府の投資及び 雇用創出支援行政 監督及び指導 雑則 経過措置 最終章 |
章立てからも窺われるとおり、改正対象の法分野は非常に広範囲にわたっているが、外国投資家の観点からは、投資法や各種業法の改正を含む第3章、労働法の改正を含む第4章、会社法、独占禁止法、入国管理法等の改正を含む第6章の内容について特に関心が高いものと思われる。今後、具体的な改正内容とその分析を順次詳報する予定である。
オムニバス法は公布の日から施行するものとされているが、オムニバス法に基づき各種の施行規則が3か月以内に制定されることになっている。実務的にはこれら施行規則の内容も重要であり、早期の成立が待たれる。
オムニバス法は、ジョコウィ政権が推進する規制改革施策の一つとして実業界からの期待が高い一方で、その内容に雇用規制の緩和を含むために労働組合が強く反発しており、国会における法案審議段階からその成立に反対するデモが繰り広げられてきた。さらに、2020年10月5日の国会での法案可決から11月2日の大統領署名までの間に、適正な手続を欠いた条文変更が行われたとの指摘もされているところである。オムニバス法それ自体の適法性が問題となる可能性も残っており、既に憲法裁判所に対しても複数の申立てがなされている。引き続き今後の動向を注視していく必要がある。
(まえかわ・よういち)
1998年東京大学法学部卒業。2006年東京大学法科大学院修了。2007年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2013年Northwestern University School of Law卒業(LL.M.)。2013年~2016年長島・大野・常松法律事務所ジャカルタ・デスク(Soemadipradja & Taher内)勤務。2019年10月~長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィス勤務。
現在はシンガポールを拠点とし、インドネシア及び周辺国における日本企業による事業進出および資本投資その他の企業活動に関する法務サポートを行っている。
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