◇SH0673◇オリンパス、当社旧監査役に対する損害賠償請求訴訟の一部和解 村上雅哉(2016/05/25)

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オリンパス、当社旧監査役に対する損害賠償請求訴訟の一部和解

岩田合同法律事務所

弁護士 村 上 雅 哉

 

 オリンパス株式会社(以下「オリンパス」という。)は、過去の損失計上先送り問題に関し、2012年1月に同社の監査役および旧・監査役に対する損害賠償請求訴訟を提起していたが、本年5月12日、その一部の被告との間で裁判上の和解が成立したことを公表した。

 過去の損失計上先送り問題とは、オリンパスにおいて、資産運用のために保有していた金融資産やデリバティブ等の高リスクの金融商品における多額の損失が、時価会計基準において評価損として計上されるのを回避するために、連結対象とならないファンドに対して約1350億円もの資金を提供して、これらの金融資産や金融商品を帳簿価格で引き受けさせ、含み損を表面化せずに簿外に移管して分離するなどのスキームが策定され実行されていたというものである(以下「本件不祥事」という。)。本件不祥事は、2011年にオリンパスに設置された独立の第三者により構成される第三者委員会の調査の過程で明らかになった。

 オリンパスは、第三者委員会の調査結果を踏まえて、本件不祥事に関する当時の現・旧監査役の善管注意義務違反の有無等を調査・検討するための監査役等責任調査委員会を2011年12月に設置し、同委員会の2012年1月16日付調査報告書は、当時の現・旧監査役のうち5名について善管注意義務違反に基づく損害賠償責任を負う旨結論付けた。これを踏まえて、オリンパスは同月17日にこれら5名の現・旧監査役に対する損害賠償請求訴訟を提起した。会社法上、監査役は、取締役の職務の執行を監査する職責を負い(会社法381条1項)、取締役の職務執行につき取締役に善管注意義務違反があると認めるときは、取締役および従業員に対して事業の報告を求め、又は業務および財産の状況を調査し(同条2項)、これらの行為により会社に著しい損害が生じるおそれがあるときは、取締役の行為の差止め(同法385条1項)をするなど、適切な監査権限を行使すべき注意義務があり、オリンパスとしては、同社の現・旧監査役がかかる注意義務に違反したことを原因に損害賠償請求訴訟を提起したものと考えられる。オリンパスの公表内容によれば、監査役等責任調査委員会が結論付けた現・旧監査役の損害賠償責任の一部の請求として、各被告に対してそれぞれ金5億円と遅延損害金の支払いを求めて訴えを提起したとされる。

 このたびオリンパスが公表した和解の内容の概要をみると、5名の被告のうち4名(うち1名は死亡しているため、その相続人2名)との間で、被告らが解決金として合計で1286万6400円を支払い、オリンパスは同被告らに対するその余の請求を放棄するということであるが、被告のうち1名のみが対象から除かれている。上述した監査役等責任調査委員会の2012年1月16日付調査報告書によれば、この1名の被告(O氏)は、1990年10月から2001年5月までオリンパスの経理部長を務めた後、同年6月からは常勤監査役に就任し、2004年6月に退任しており、損失分離スキームの構築・維持に積極的に関わったと認めるに足る証拠はないものの、経理部長時代に公表されていない損失が存在することを認識しており、監査役に就任してからも損失分離スキームに関する情報を入手することは容易であったにもかかわらず、調査を行おうとしなかったとされ、善管注意義務違反の態様・内容が、上記訴訟で被告となった他の現・旧監査役とは異なるとされている。当事者として上記損害賠償請求訴訟に携わっているわけではないため、推測の域を出ないが、この1名の被告(O氏)については、他の被告らに比してより重い注意義務違反があるものとしてより多額の解決金が提示され、和解に至らなかったということかもしれない。

 今般公表された和解の概要をみると、その他の4名の被告が支払うこととされる解決金の額は、監査役等責任調査委員会報告書が認定した損害賠償責任の額や、上記訴訟における当初の請求額に比べ、かなり低額になっているが、これは被告らの在任中に受領した監査役としての報酬額や支払能力に鑑みてのものではないかと思われる。

 近時において話題になった事件の顛末の一つとしてのみならず、会社不祥事に関する監査役の善管注意義務違反に基づく損害賠償責任が争われた事例として、参考になるものと考えられる。

以上

 

 【損害賠償請求訴訟における請求額など】

監査役等責任調査委員会報告書が認定した損害賠償責任の額

1名について金37億2556万1170円

その他の4名について、合計46億6575万9788円(ただし、連帯債務として)

オリンパスが損害賠償請求訴訟で請求した金額

5名の監査役・旧監査役に対し、それぞれ金5億円ずつ

今回の和解内容の概要

被告4名(うち1名は死亡しているため、その相続人2名)は、解決金として合計1286万6400円を支払い、オリンパスは同人らに対するその余の請求を放棄する。

 

 

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