日鉄鉱業、海外子会社の会計不正を巡り再発防止策を発表
――子会社経理部門の独立性確保、社長等の再任制限、現地リソース活用による内部監査充実など――
石灰石・タンカル・砕石等の生産販売を主軸として国内外で鉱山開発も手掛ける日鉄鉱業(本社:東京都千代田区、東証第一部上場)は5月22日、チリ共和国所在の連結子会社であるアタカマ・コーザン鉱山特約会社(以下「AK社」という)における会計不正を巡って再発防止策を策定、同日開催の取締役会で決議したと発表した。
AK社の会計不正については、その可能性が判明したとして3月1日、特別調査委員会の設置とともに公表された。本年2月、AK社の年度決算手続において建設仮勘定および前渡金の残高が過大ではないかとの疑念が生じたことから同社で確認作業を行ってきたとされており、徹底調査・事実関係解明のため、日鉄鉱業から独立した弁護士2名・公認会計士1名による特別調査委員会を設置。類似事象の有無の調査、発生原因の究明、再発防止策の提言なども要請していた。
日鉄鉱業は4月26日、特別調査委員会からの調査報告書受領を発表。「公表版」となる同報告書においては(ア)建設仮勘定の過大計上による費用の過少計上、(イ)前渡金の精算に係る誤謬、(ウ)AK社前々副社長らによる私的流用、(エ)2月14日に提出した第105期第3四半期報告書につき、同日以前に疑義を認識しながら四半期報告書の提出期限を延期して建設仮勘定を訂正するなどの処理をせず、後に訂正する可能性があることを認識したうえで提出したことーーといった事実認定とともに、本件会計不正を「時差12時間で地球の裏側にあり、当社から目が行き届かない海外子会社において、長年にわたって副社長の地位にあった経営者が内部統制を無効化したことにより発生したいわゆる経営者不正の事案」とする総括を明らかにしたうえで、動機や機会あるいはガバナンスの観点からの多角的な原因分析を示している。調査報告書として計11点の提言を行った再発防止策については、同社として具体策を決定次第、公表するとした。
5月22日に発表された再発防止策は改善を要すべき項目ごと、調査報告書において「第12 再発防止策の提言」と題された同報告書67ページ以降の記載を引用しながら(A)AK社における再発防止策、(B)同社における再発防止策とに大別したうえで各項目について説明する体裁が採られており、関係者において内容を把握しやすいものとしている。
海外子会社たる(A)AK社については(1)ガバナンスに関する整備、(2)コンプライアンス教育の実施、(3)内部通報窓口の設置、(4)職務分掌の確立、(5)モニタリングの強化――と構成。(1)では①組織体制の見直し(経理部門の独立性の確保)、②取締役会および幹部会の監督機能強化:取締役会における決算報告の拡充、取締役会への上程・報告基準の引下げ、幹部会の活性化、③各種規程類の整備、④再任・兼務制限の新設、⑤不正・違反行為に対する処分を、また(5)では①現地リソースを最大限活用することによる内部監査の充実、②決算報告における分析手続の強化をそれぞれ掲げ、より具体化している。実施期限は今年12月31日(AK社の当事業年度末日)と設定された。
一方の(B)日鉄鉱業本体については(1)海外子会社に対するガバナンスの強化(①組織体制の見直し:内部監査室の創設、子会社管理の高度化、②AK社経営者の人材配置の適正化、③海外で活躍できる人材の確保・育成:海外赴任者の研修制度の検討、高い語学力・海外赴任経験のある社員の採用、語学力の向上支援)、(2)財務報告の信頼性確保のための意識改革(①適正な財務報告に向けた役員および社員に対する教育と周知徹底、②財務報告に係る確認連絡会の開催)、(3)内部通報制度の利用促進、(4)海外連結子会社に対するモニタリングの実施ーーと構成したうえで、来年3月31日(同社の当事業年度末日)を実施期限とした。
本件会計不正に絡み、代表取締役の異動が「内部統制体制の再構築」を理由として5月22日、同日付で発表されているほか、当該異動による新任代表取締役に対して同日、「本件不適切な会計処理が発覚した当時の当社経理部管掌役員であ」るとして「月額報酬を30%減額(7月より3カ月間)」する処分などが発表されている。