◇SH3900◇最一小判 令和3年6月24日 相続税更正処分等取消請求事件(深山卓也裁判長)

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 相続税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)55条に基づく申告の後にされた増額更正処分のうち上記申告に係る税額を超える部分を取り消す旨の判決が確定した場合において、課税庁は、国税通則法所定の更正の除斥期間が経過した後に相続税法32条1号の規定による更正の請求に対する処分及び同法35条3項1号の規定による更正をするに際し、当該判決の拘束力によって当該判決に示された個々の財産の価額等を用いて税額等を計算すべき義務を負うか

 相続税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)55条に基づく申告の後にされた増額更正処分の取消訴訟において、個々の財産につき上記申告とは異なる価額を認定した上で、その結果算出される税額が上記申告に係る税額を下回るとの理由により当該処分のうち上記申告に係る税額を超える部分を取り消す旨の判決が確定した場合において、課税庁は、国税通則法所定の更正の除斥期間が経過した後に相続税法32条1号の規定による更正の請求に対する処分及び同法35条3項1号の規定による更正をするに際し、当該判決の拘束力によって当該判決に示された個々の財産の価額や評価方法を用いて税額等を計算すべき義務を負うことはない。

 相続税法(平成18年法律第10号による改正前のもの)32条1号、35条3項1号、相続税法(平成23年法律第114号による改正前のもの)55条、行政事件訴訟法33条1項

 令和2年(行ヒ)第103号 最高裁令和3年6月24日第一小法廷判決
 相続税更正処分等取消請求事件(民集75巻7号3214頁)

 原 審:平成30年(行コ)第46号、令和元年(行コ)第166号 東京高裁令和元年12月4日判決
 原々審:平成28年(行ウ)第344号 東京地裁平成30年1月24日判決

1 事案の概要

 X(被上告人)は、亡母の相続について遺産分割未了の段階で相続税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)55条の規定に基づく申告(以下「本件申告」という。)をしたが、遺産に含まれる株式(7銘柄。以下「本件各株式」という。)の一部の価額が過少であるとして増額更正処分(以下「前件更正処分」という。)を受けた。Xが前件更正処分の取消しを求める訴訟を提起したところ、前件更正処分のうち本件申告に係る税額を超える部分を取り消す旨の判決(以下「前件判決」という。)が確定したが、前件判決においては、本件各株式について、本件申告における価額を下回る価額が認定されるなどした。

 その後、遺産分割がされたため、Xは、本件各株式の価額を前件判決が認定した価額(ただし違算があった点を修正)として税額等を計算した上で同法32条1号の規定による更正の請求をしたが、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)を受けるとともに、同法35条3項1号の規定による増額更正処分(以下「本件更正処分」といい、本件通知処分と併せて「本件更正処分等」という。)を受けた。

 本件は、Xが、Y(上告人。国)を相手に、本件更正処分等の取消し(ただし、Xによる相続税法32条1号の規定による更正の請求に係る税額を上回る4億4689万9300円を超える部分)を求めた事案である。

 

2 事実関係の概要

 ⑴ Xは、平成16年12月27日、Xの母が同年2月28日に死亡したことにより開始した相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、共同相続人であるきょうだい6人と共に本件申告をした。本件申告においては、遺産分割が未了であったため、相続税法55条により法定相続分(各7分の1)に従って財産を取得したものとして課税価格の計算がされ、Xの課税価格は22億6374万4000円、納付すべき税額は10億7095万円とされた。

 ⑵ 江東東税務署長は、平成19年2月13日、Xに対し、本件相続に係る遺産に含まれる本件各株式の一部の価額が過少であるなどとして増額更正処分をした。

 Xは、平成21年1月21日、東京地方裁判所に対し、Xの異議申立てを受けて東京国税局長により一部が取り消された後の上記増額更正処分のうち納付すべき税額が本件申告に係る納付すべき税額(10億7095万円)を超える部分の取消しを求める訴えを提起した。なお、江東東税務署長は、平成23年2月28日、Xに対し、課税価格を40億6089万円、納付すべき税額を19億7000万9300円として、上記の東京国税局長による一部取消し後の増額更正処分の一部を更に取り消す減額更正処分をした(この減額更正処分により一部が取り消された後の上記増額更正処分が前件更正処分である。)。

 ⑶ 東京地方裁判所は、平成24年3月2日、前件更正処分のうち納付すべき税額が本件申告に係る納付すべき税額を超える部分を取り消す旨の判決を言い渡した。東京高等裁判所は、平成25年2月28日、Yの控訴を棄却する旨の判決を言い渡し、同判決は確定した(この判決が前件判決である。)。

 上記訴訟においては、本件各株式のうち、いわゆる取引相場のない株式であるA社の株式(以下「A社株式」という。)及びB社の株式(以下「B社株式」という。)の価額が争点となった。具体的には、①A社株式については、A社が財産評価基本通達(昭和39年4月25日付け直資56、直審(資)17国税庁長官通達。以下「評価通達」という。)にいう大会社(その株式の原則的な評価方法は類似業種比準方式とされている。)であることを前提に、例外的に純資産価額方式等により評価すべきものとされている株式保有特定会社に当たるか否かが争われ、②B社株式については、純資産価額方式で評価することを前提に、B社が保有しているA社株式の価額を踏まえた価額が争われた。前件判決は、評価通達における株式保有特定会社に関する判定基準の一部について合理性を認めることはできず、そのことを前提とするとA社が株式保有特定会社に当たるとは認められないから原則的な評価方法である類似業種比準方式により評価すべきものとした上で、A社株式の価額を1株当たり4653円、B社株式の価額を1株当たり3万1189円とそれぞれ認定した。これらの価額(ただし、B社株式については、前件判決に違算があり、前件判決における説示を前提に正しく計算した場合の価額である1株当たり1万9132円)は、前件更正処分における価額(A社株式につき1株当たり1万9002円、B社株式につき1株当たり6万4908円)のみならず、本件申告における価額(A社株式につき1株当たり1万1185円、B社株式につき1株当たり2万1009円)をも下回るものであった。また、本件各株式のうちその他の株式については、前件更正処分における価額とすることに当事者間に争いがないとして、前件判決においても当該価額を用いることとされ、その結果、Xの納付すべき税額は本件申告に係る税額を下回ることから、前件更正処分のうち本件申告に係る税額を超える部分が取り消された。

 ⑷ 国税庁長官は、前件判決を受けて、評価通達における株式保有特定会社に関する判定基準の一部を改正し、平成25年5月、これを公表した。

 ⑸ 本件相続に係る遺産分割申立事件について、平成26年1月16日、東京家庭裁判所において調停(以下「本件調停」という。)が成立し、Xは、本件各株式につき各銘柄の7分の6を取得した。

 ⑹ Xのきょうだいのうち2名が、平成26年2月21日、本件調停の成立により取得した財産に係る課税価格が本件申告に係る課税価格と異なることを理由として相続税法32条1号の規定による更正の請求をしたところ、江東東税務署長は、同年6月20日、それぞれについて減額更正処分をした。

 ⑺ Xは、平成26年5月16日、江東東税務署長に対し、本件調停の成立を理由として、課税価格を9億6080万5000円、納付すべき税額を4億4199万0400円として、相続税法32条1号の規定による更正の請求をした。その際、Xは、本件各株式の価額を前件判決において認定された価額と同額(ただし、B社株式については前記 ⑶ のとおり前件判決における説示を前提に正しく計算した場合の価額)として、税額等の計算をした。

 ⑻ 江東東税務署長は、平成26年11月12日、Xに対し、前記(7)の更正の請求のうち株式の価額の減額を求める部分は、本件申告における株式の価額に係る評価の誤りの是正を求めるものであり、相続税法32条1号の規定する事由に該当しないこと等を理由として、更正をすべき理由がない旨の通知処分(本件通知処分)をするとともに、前記 ⑹ の各減額更正処分に伴い、Xの本件申告に係る課税価格及び相続税額が本件調停により遺産分割が行われたことを基礎として計算した場合における課税価格及び相続税額と異なることとなるとして、同法35条3項1号に基づき、課税価格を49億0410万9000円、納付すべき税額を23億2567万1800円とする増額更正処分(本件更正処分)をした。本件更正処分等においては、本件各株式の価額を本件申告における価額と同額として税額等の計算がされた。

 

3 争点及び原審の判断

 ⑴ 本件では、本件更正処分等が、本件各株式の評価額につき、前件判決に示された価額(ただし、B社株式については、前件判決における説示を前提に正しく計算した場合の価額。以下同じ。)ではなく本件申告における価額に基づいて税額等の計算をした点の適否が争われた。

 争点は、大要、 課税庁は、相続税法32条1号の規定による更正の請求に対する処分及び同法35条3項1号の規定による更正をするに当たり、従前の申告や更正によって一旦確定していた相続税額の算定基礎となった個々の財産の価額に係る評価の誤りを是正することができるか(争点㋐)、 従前の更正処分について、個々の財産の価額について当該更正処分における価額とは異なる価額を認定して当該更正処分を取り消す判決が確定した場合には、課税庁は、当該取消判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)により、相続税法32条1号の規定による更正の請求に対する処分及び同法35条3項1号の規定による更正において、当該取消判決に示された個々の財産の価額を用いて税額等の計算を行うことを義務付けられるか(争点㋑)という各点に分けられる。

 ⑵ 原審(東京高判令和元・12・4平成30年(行コ)第46号、令和元年(行コ)第166号)は、大要、以下のとおり判示して、本件通知処分に係る請求及び本件更正処分のうち本件申告に係る納付すべき税額(10億7095万円)を超える部分の取消請求を認容し、その余の請求を棄却した。

 ア 争点㋐

 申告後に更正処分の取消訴訟において遺産の評価が改められたという事情は、申告時に内在していた事情であって、相続税固有の後発的事情とはいえず、相続税法32条各号にこれに当たる事由は規定されていないから、本件各株式の評価方法及び価額に係る前件判決の判断を理由に、同条1号の規定による更正の請求をすることはできないと解するのが相当である。また、同法35条3項も相続税固有の後発的事由を理由に増額更正することを認めたものと解されるから、同項による増額更正処分の取消しを求める場合には、相続税固有の後発的事由を原因としない事情を違法の理由として主張することはできない。

 イ 争点㋑

 前件判決は、遺産である本件各株式のうちA社株式及びB社株式の評価方法について判断し、それを用いるなどして算出した本件各株式の価額を基礎として課税価格及び納付すべき税額を計算して、前件更正処分のうち本件申告に係る納付すべき税額を超える部分が違法であるとの判断を導いたものであるから、本件各株式の評価方法ないし価額に係る前件判決の判断に行政事件訴訟法33条1項所定の拘束力が生ずる。したがって、課税庁は、相続税法32条1号の規定による更正の請求に対する処分及び同法35条3項1号の規定による更正をするに当たり、前件判決における本件各株式の評価方法ないし価額を基礎として遺産分割後の課税価格及び納付すべき税額を計算しなければならない。

 ⑶ これに対し、Y(国)が上告受理の申立てをした。最高裁判所第一小法廷は、上告を受理した上で、判旨のとおり判示して、原判決を破棄し、本件訴えのうち本件通知処分に係る訴えを却下し、本件更正処分に係る取消請求のうち原審が認容した部分を棄却した。

 

4 説明

 ⑴ 遺産分割と相続税の申告

 ア 相続税法は、相続税額の計算について、① 同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格(その者が当該相続等により取得した財産の価額の合計額)に相当する金額の合計額から基礎控除額を控除した金額を当該被相続人の民法所定の相続人が同法900条及び901条の規定による相続分に応じて取得したものとした場合における各取得金額に所定の税率を乗じて計算した金額の合計額である相続税の総額を算出した上で、② これに、各相続人等に係る課税価格が当該財産を取得した全ての者に係る課税価格の合計額のうちに占める割合(以下「取得割合」という。)を乗ずることにより各相続人等に係る相続税額を算出するとの方法を採っている(11条、11条の2第1項、16条、17条等)。

 イ 相続又は遺贈により財産を取得した者等は、被相続人からこれらの事由により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額が、その遺産に係る基礎控除額を超える場合において、その者に係る相続税の課税価格に対する相続税額があるときは、その相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内に申告書を提出しなければならないが(相続税法27条1項)、上記申告期限までに相続により取得した財産の全部又は一部が未分割の場合には、その未分割財産については、各共同相続人が法定相続分に従って当該財産を取得したものとして、その課税価格を計算する(同法55条)。これは、遺産分割が行われない限り相続税の課税ができないとすると、遺産分割を恣意的に遅延して相続税の課税を遅らせることができることになり、遺産分割を早期に行った者とそうでない者との間で不公平が生ずることとなるため、それを防止するための規定であるとされている(武田昌輔監修『DHCコンメンタール相続税法』(第一法規、1981)3454頁)。

 そして、その後、上記と異なる遺産分割がされた結果、共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従って計算された課税価格と異なることとなった場合には、相続税について申告書を提出した者又は決定を受けた者は、国税通則法所定の期間制限にかかわらず、当該事由を知った日の翌日から4月以内に、更正の請求をすることができる(相続税法32条1号)。また、税務署長は、相続税法32条1号等の規定による更正の請求に基づき更正をした場合において、他の相続人の申告又は決定に係る課税価格又は相続税額が、当該請求に基づく更正の基因となった事実を基礎として計算した場合におけるその者に係る課税価格又は相続税額と異なることとなる場合には、その事由に基づき、前記の国税通則法所定の更正の除斥期間にかかわらず、当該他の相続人に係る課税価格又は相続税額の更正又は決定をする(相続税法35条3項1号)。これらの規定は、同一被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者の間の税負担の公平を求めるために設けられたものであるとされている(前掲・武田2690、2816頁)。

 ⑵ 相続税法32条1号及び35条3項1号における更正と個々の財産の評価の誤りとの関係について(争点㋐)

 ア Xの主張

 Xは、相続人が遺産分割後に相続税法32条1号の規定による更正の請求をする際には、改めて個々の財産の価額について適正な評価をして課税価格及び納付すべき税額を計算することができる旨、また、同法35条3項1号に基づくものであっても税額を増額する処分は新たな課税であって正しい評価額により行うべきであるから、増額更正処分の取消しを求めるに当たっては本件申告に係る税額を下回ることとならない範囲において後発的事由以外の事由も主張できる旨等を主張した。

 イ 本判決の考え方

 (ア) 本判決は、まず、「相続税法32条1号及び35条3項1号は、同法55条に基づく申告の後に遺産分割が行われて各相続人の取得財産が変動したという相続税特有の後発的事由が生じた場合において、更正の請求及び更正について規定する国税通則法23条1項及び24条の特則として、同法所定の期間制限にかかわらず、遺産分割後の一定の期間内に限り、上記後発的事由により上記申告に係る相続税額等が過大となったとして更正の請求をすること及び当該請求に基づき更正がされた場合には他の相続人の相続税額等に生じた上記後発的事由による変動の限度で更正をすることができることとしたものである。その趣旨は、相続税法55条に基づく申告等により法定相続分等に従って計算され一旦確定していた相続税額について、実際に行われた遺産分割の結果に従って再調整するための特別の手続を設け、もって相続人間の税負担の公平を図ることにあると解される。」として、相続税法32条1号及び35条3項1号に基づいて行われる更正が、相続税特有の後発的事由に限られる旨を明らかにした上で、「相続税法32条1号の規定による更正の請求においては、上記後発的事由以外の事由を主張することはできないのであるから、上記のとおり一旦確定していた相続税額の算定基礎となった個々の財産の価額に係る評価の誤りを当該請求の理由とすることはできず、課税庁も、国税通則法所定の更正の除斥期間が経過した後は、当該請求に対する処分において上記の評価の誤りを是正することはできないものと解するのが相当である。また、課税庁は、相続税法35条3項1号の規定による更正においても、同様に、上記の評価の誤りを是正することはできず、上記の一旦確定していた相続税額の算定基礎となった価額を用いることになるものと解するのが相当である。」とした。

 (イ) 本件については、前件訴訟において前件更正処分におけるA社株式及びB社株式の価額が改められ、それは本件申告における価額をも下回るものであったという事情が存するものの、本件申告における評価の誤りという事情は、本件申告時に内在していた事情であって、相続税特有の後発的事由とはいえないこととなろう。

 ⑶ 取消判決の拘束力と当該行政庁が有する法令上の権限について(争点㋑)

 ア 取消判決の拘束力

 (ア) 取消判決の拘束力の法的性質については、既判力説と特殊効力説の対立があるが、このうち、特殊効力説は、拘束力について、「取消判決により行政処分が取り消され、当該処分が違法であることが確定しても、それのみでは原告の救済が十分には行われず、行政庁に判決の趣旨に従った行動を義務付けることによって初めて救済の実効性が保障される場合が少なくないため、拘束力を特別に法定した」ものである(宇賀克也『行政救済法〔第6版〕』(有斐閣、2018)276頁)などと説明する。

 (イ) また、拘束力が生ずる範囲については、「主文に含まれる判断を導くために不可欠な理由中の判断であり、法的判断のみならず事実認定にも及ぶが、判決の結論と直接に関係しない傍論や要件事実を認定する過程における間接事実についての認定には拘束力は生じない」(前掲・宇賀277頁)とする見解が一般的であり、最三小判平成4・4・28民集46巻4号245頁(以下「平成4年最判」という。)も、「拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、審判官は取消判決の右認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない」、「審判官が当該取消判決の主文のよって来る理由を含めて拘束力を受けるものである」とし、判決理由中の判断にも拘束力が生ずることを判示している。

 (ウ) 取消判決の拘束力の具体的内容については、消極的行為義務(不作為義務)として①反復禁止効、積極的行為義務として、②再度考慮機能(案件処理のやり直し義務。行政事件訴訟法33条2項、3項)、③不整合処分の取消義務、④原状回復義務が議論されている(神橋一彦『行政救済法〔第2版〕』(信山社、2006)181頁以下、南博方編著・高橋滋ほか編『条解 行政事件訴訟法〔第4版〕』(弘文堂、2014)664頁以下等。ただし、②は、論者によっては反復禁止効に分類されることもある(大橋洋一『行政法Ⅱ 現代行政救済論〔第3版〕』(有斐閣、2018)201頁以下、高橋滋『行政法〔第2版〕』(弘文堂、2018)391頁以下))。

 このうち、反復禁止効は、取り消された行政処分と同一事情の下で同一理由に基づいて同一内容の処分を行うことを禁止する効果であるとされている(室井力ほか『コンメンタール行政法Ⅱ 行政事件訴訟法・国家賠償法〔第2版〕』(日本評論社、2006)363頁、塩野宏『行政法Ⅱ 行政救済法〔第6版〕』(有斐閣、2019)200頁等)。

 イ 課税庁が権限を有しない場合と反復禁止効

 前述のとおり、取消判決の拘束力により、処分をした行政庁等は当該判決の趣旨に従った行動をすべき義務を負うこととなるところ、裁判所は、新たな実体法規範を創設する権限を有しているものではなく、判決によって行政庁に対して法令上の根拠を欠く行動を義務付けることができるとは解されない。したがって、取消判決により行政庁が負う「義務」は、飽くまでも当該行政庁がそれを行う法令上の権限を有するものに限られると解される。原田尚彦「取消判決の拘束力」ジュリ925号(1989)210頁は、「取消判決の『拘束力』は、個別事例について具体的に実体法上の義務を確認して行政庁の将来の行動規範を個別的に明らかにするところにある。判決はすべて既存の実体法上の義務を個別的に確認するのがその職務であって、法秩序のうえに存在しない義務を創設するものではない」、「『拘束力』は、まさに実体法上の一般的な義務を個別具体的に定立し、これを明確にするところにある。」としており、上記の見解に沿うものといえよう。

 したがって、納税者が当初の申告における個々の財産の価額に係る評価の誤りを理由とする更正の請求を行うことができず、課税庁も上記誤りを理由とする更正をする権限を有しない場合に、後発的事由に基づく更正等を行うに際して、課税庁は、取消判決の拘束力により、取消判決の理由中の判断と異なる価額を用いることを義務付けられることはないものと解される。

 ウ 本件において課税庁が有する権限の内容 

 (ア) 前記 ⑵ のとおり、相続税法32条1号の規定による更正の請求に対する処分及び同法35条3項1号の規定による更正においては、遺産分割によって財産の取得状況が変化したという相続税特有の後発的事由以外の事由である当初の申告における個々の財産の価額に係る評価の誤りの是正は許されていないものと解される。したがって、課税庁は、同法32条1号及び35条3項1号に基づいては当初の申告における上記の誤りを是正する権限を有しないものと解される。

 そして、当初の申告における個々の財産の価額に係る評価の誤りは、本来、納税者が行う国税通則法23条1項の規定による更正の請求に対する同条4項の更正又は同法24条の更正において是正されるべきものであるが、本件のように国税通則法上の更正の請求の期間及び更正の除斥期間が経過している場合においては、相続人は、更正の請求において、後発的事由以外の事由を理由とすることはできず、課税庁も、後発的事由以外の事由を理由として更正処分をする権限を有しないものと解される(仮に後発的事由に基づく相続税法32条1号の規定による更正の請求を契機として行われた調査の過程で当初の申告における財産の評価の誤りや申告漏れの相続財産を発見したとしても、課税庁は、国税通則法上更正が可能な期間を経過した後であるならば、それを理由に更正することはできないこととなろう。)。

 (イ) Xは、原則的な理解は以上のとおりであるとしても、本事案の前件判決のように、既に更正処分を取り消す判決がされ、その中で個々の財産の価額が認定されている場合には、相続税法32条1号の規定による更正の請求に対する処分及び同法35条3項1号の規定による更正において当該判決に示された個々の財産の価額を用いることができるとすべきである旨主張した。これは、当初の申告における個々の財産の価額に係る評価の誤りが上記の相続税特有の後発的事由には当たらないことを前提としつつも、既に判決によって上記の誤りについて是正がされた以上、その後は、課税庁は、当該判決に示された価額を用いるべきであり、その権限を有する旨をいうものと思われる。

 しかしながら、本事案のように、相続税法55条に基づく申告の後にされた増額更正処分の取消訴訟において、個々の財産につき上記申告とは異なる価額を認定した上で、その結果算出される税額が上記申告に係る税額を下回るとの理由により当該処分のうち上記申告に係る税額を超える部分を取り消す旨の判決が確定した場合には、税額は上記申告に係る税額として一旦確定しているが、上記判決に示された個々の財産の価額を基礎として計算しても、上記申告に係る税額を算出することができない。申告や更正によって個々の財産の価額が確定するものではないが、個々の財産の価額が変動すれば税額も変動する関係にある以上、課税庁は、同法32条1号及び35条3項1号の適用においては、前件判決により確定した税額すなわち本件申告に係る税額の算出過程において基礎とされた個々の財産の価額等に依拠して税額等の計算をするほかないものと解される。

 したがって、上記の場合には、判決により増額更正処分の一部取消しがされたことにより確定した税額が当初の申告における個々の財産の価額を基礎として計算されたものである以上、課税庁は、国税通則法所定の更正の除斥期間が経過して通常の更正を行うことができなくなった後においては、当初の申告における個々の財産の価額を基礎として税額等を計算すべきであり、上記判決に示された価額や評価方法を用いて相続税法32条1号の規定による更正の請求に対する処分や同法35条3項1号の規定による更正をする権限を有していないものといわざるを得ない。

 エ 本判決の考え方

 (ア) 本判決は、まず、「処分を取り消す判決が確定した場合には、その拘束力(行政事件訴訟法33条1項)により、処分をした行政庁等は、その事件につき当該判決における主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に従って行動すべき義務を負うこととなる」とし、従来の平成4年最判における拘束力についての判示を踏襲した上で、「上記拘束力によっても、行政庁が法令上の根拠を欠く行動を義務付けられるものではないから、その義務の内容は、当該行政庁がそれを行う法令上の権限があるものに限られるものと解される。」として、拘束力によって行政庁が負うこととなる義務の内容は、法令上の権限を有するものに限られることを明らかにした。

 そして、本判決は、「相続税法55条に基づく申告の後にされた増額更正処分の取消訴訟において、個々の財産につき上記申告とは異なる価額を認定した上で、その結果算出される税額が上記申告に係る税額を下回るとの理由により当該処分のうち上記申告に係る税額を超える部分を取り消す旨の判決が確定した場合には、当該判決により増額更正処分の一部取消しがされた後の税額が上記申告における個々の財産の価額を基礎として算定されたものである以上、課税庁は、……国税通則法所定の更正の除斥期間が経過した後においては、当該判決に示された価額や評価方法を用いて相続税法32条1号の規定による更正の請求に対する処分及び同法35条3項1号の規定による更正をする法令上の権限を有していないものといわざるを得ない。」として、本件のような場合においては、課税庁は、前件判決に示された価額等を用いて更正等をする権限を有していないことを明らかにした。

 その上で、本判決は、これらの帰結として、「上記の場合においては、……課税庁は、国税通則法所定の更正の除斥期間が経過した後に相続税法32条1号の規定による更正の請求に対する処分及び同法35条3項1号の規定による更正をするに際し、当該判決の拘束力によって当該判決に示された個々の財産の価額や評価方法を用いて税額等を計算すべき義務を負うことはない」旨を判示した。

 (イ) 本件は、前件判決の時点で既に国税通則法所定の更正の除斥期間が経過していた事案であったため、本判決もそれを前提とした判断をしている。

 なお、Yは、上告受理申立て理由において、前件判決の理由中の判断のうち、本件各株式の価額等の判断部分については拘束力が生じない旨も主張したが、本判決は、この点については何ら判断を示していない。取消判決のどの部分に拘束力が生ずるか(拘束力の生ずる範囲)については、前記のとおり、主文に含まれる判断を導くために不可欠な理由中の判断にも生ずるとする見解が一般的であるが、本件のような課税処分取消訴訟については、実務上いわゆる総額主義が採られていることとの関係で別途検討を要するようにも思われる。

 ⑷ 本判決の意義

 本判決は、従前から最高裁判例の乏しかった取消判決の拘束力に関するものであり、拘束力の効果にも一定の限界があることを示したものであるということができる。また、申告納税制度を前提とした課税処分取消訴訟の場合の取消判決の拘束力については、今後も議論が期待されるところであり、理論上も実務上も重要な意義を有するものと考えられる。

 

 

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