◇SH0707◇企業内弁護士の多様なあり方(第24回)-第9 弁護士の性格(上) 田中 努(2016/06/22)

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企業内弁護士の多様なあり方(第24回)

-第9 弁護士の性格 – ゼネラリストvs スペシャリスト(上)-

株式会社北陸銀行コンプライアンス統括室

弁護士 田 中   努

1 はじめに

 企業内弁護士はゼネラリストか、それともスペシャリストか。両者は相対的なものであり、一概にいずれかであると言うことは難しい。ここでは、企業内弁護士のスペシャリストとしての側面、ゼネラリストとしての側面についてそれぞれ紹介したい。

2 スペシャリストとしての側面

 スペシャリストについて、特定分野に深い知識や優れた技術を持った人と定義すると、企業内弁護士は法律事務所の弁護士(以下「外部弁護士」という。)よりもスペシャリストになりやすいといえる。外部弁護士は自分が希望しても、クライアントが一定の決まった専門的法律分野の仕事を継続して依頼してくれないと、その分野のスペシャリストになれないし、収益を上げる必要から自分が専門的分野としたい分野以外の案件でも、クライアントからの依頼が来れば断るのは難しい。一方、企業内弁護士の扱う法律実務分野は、雇用主である企業(あるいは、その法務部門)のニーズ・意向により決まり、企業の行うビジネスの内容・性質により、自ずと限定される。複数の企業内弁護士が雇用されている企業では、弁護士ごとに担当業務・分野を分けることによっても、取り扱う法律実務分野の限定が生じる。

 例えば、証券会社に勤務する弁護士であれば、証券会社が行うビジネスに関連する法律実務分野しか担当しないのが原則であり、不動産に関連する業務を営む会社に勤務する弁護士は、不動産取引や不動産の証券化等不動産に関わる法律実務分野を中心に仕事をし、エンターテイメント系の企業の社内弁護士であれば、知的財産権に関わる法務や契約書の作成が自ずと自己の中心的な業務となる。証券会社の法務部門に勤務する弁護士であっても、当該法務部門に複数の弁護士がおり、株式部門の担当弁護士、債券部門の担当弁護士、資本市場部門の担当弁護士、M&A部門の担当弁護士というように社内のビジネス・ライン毎に担当分野を分けると、自分の担当のビジネス・ラインから持ち込まれる相談案件、取引案件を集中的に担当することになるため、スペシャリスト化していく。

 なお、企業内弁護士がスペシャリストになることは、外部弁護士へ案件を依頼する必要性を減らすことにはならない。企業内弁護士は、社内で日々依頼される多数の案件をスピード感をもって処理することが求められ、一つの案件につき、時間をかけて法的に掘り下げた検討をすることや、集中的に特定の案件にのみ時間を割くこと、短期的に大量の書類を作成・レビューする仕事等へは対応することは難しい。また、重大案件や企業にとってリスクの高い案件の場合、外部弁護士から客観的な意見をもらったうえで会社として慎重な判断をしようということになることが多い。そのような場合に依頼する外部弁護士は、スペシャリストである企業内弁護士から見てさらに高い専門的知識・能力を持ち、質の高いリーガル・サービスを提供できる弁護士ということになる。

(次号に続く)

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