◇SH0738◇法務省、「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」に関する意見募集 鈴鹿祥吾(2016/07/19)

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法務省、「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」に関する意見募集

岩田合同法律事務所

弁護士 鈴 鹿 祥 吾

 

 法制審議会民法(相続関係)部会は、13回にわたる会議で審議された結果を中間的に整理した「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」(以下「中間試案」という。)を取りまとめ、法務省はこれにつき意見募集を開始した。

 民法の相続法制は昭和55年改正[1]以来、大きな見直しがされてこなかった。しかしながら、平成25年9月の非嫡出子の法定相続分に関する最高裁決定[2]を受けなされた同年12月の法改正の過程で、相続法制全体の見直しについて指摘がなされ、WGや法制審議会で議論が行われてきた。

 今回の中間試案は、高齢化社会が進展して、相続開始時点での相続人(特に配偶者)の年齢が従前よりも相対的に高齢化していることに伴い、配偶者の生活保障の必要性が子のそれに比較して相対的に高まり、また要介護高齢者や高齢者の再婚が増加するなど、相続を取り巻く社会情勢の変化を受けて、所要の相続法制の見直しを目指すものである。

 

 中間試案で取り上げられている論点は大きく5点あるが、以下では、大きく取り上げられている2点を紹介する。

 1点目は、配偶者の一方が死亡した場合に、他方配偶者(以下、このような配偶者を単に「配偶者」という。)に対して、それまで居住していた建物(以下「居宅」という。)に継続して居住する権利(居住権)を認めるかという点である(図・概要記載1)。配偶者は居宅に居住することを希望することが通常であるし、高齢の場合には引越が精神的・肉体的負担になるから、居住を認めるべき必要性はある。この点、最高裁は被相続人の許諾を得て遺産である居宅に同居していた場合には、特段の事情のない限り、被相続人との間で相続開始時から遺産分割時までの使用貸借契約が成立していたものと推認すると判断を示している[3]。もっとも、被相続人が配偶者以外に居宅を遺贈していた場合などは遺産分割時まですら居住することができないし、より長期の居住は上記判例の射程外であるから、法律の規定により短期居住権、長期居住権を認める考え方が提案されている。

 なお、この短期居住権は、配偶者と居宅所有者(配偶者以外の相続人)との間の債権関係と整理されており、相続開始後に設定・登記された抵当権に劣後し、被相続人の一般債権者が、相続開始後に居宅を差し押さえた場合にも対抗できないなど相続債権者が不測の損害を被る恐れがないよう配慮されている。一方、長期居住権は、居宅所有者が第三者へ居宅を売却した場合に配偶者の居住権を保護する観点から、第三者対抗力のある用益物権と整理されている[4]ため、上記抵当権や差押えに対抗し得ることになる。

 

 2点目は、遺産分割に関し、相続人となる配偶者に、被相続人の財産形成・維持への貢献を反映した相続分の設定を認めるかという点である(図・概要記載2①)。現行の相続法においては、配偶者の法定相続分が一律に定まっており、寄与分においてこれらの貢献が考慮されるに留まっているところ、これでは実質的公平を欠くとの考え方に基づくものである。具体的には、婚姻後に被相続人の財産が一定割合以上増加した場合に具体的相続分を増やす案(甲案)や、一定の婚姻期間(20年や30年)を経過した場合には貢献があったとみて配偶者の法定相続分を増やす案(乙案)が検討されている。 

 加えて、遺産分割との関係においては、預貯金等の可分債権について現在の判例[5]と異なり遺産分割の対象に含むものとするとの提案がなされている(図・概要記載2②)ことも注視すべきであろう。

 

 本件の相続法改正が行われた場合には、長期居住権の成否により建物の担保価値が変動するなど債権管理業務を中心に大きな影響が生じることが考えられるし、可分債権の取扱いは金融実務に影響することが予想される。民法の改正は、債権法がクローズアップされがちであるが、相続法改正も実務上の影響は極めて大きいと思われることから、ご紹介する次第である。



[1] 配偶者の法定相続分を3分の1から2分の1へ引き上げる、寄与分制度を新設する等の改正であった。

[2] 最高裁平成25年9月4日大法廷決定・民集67巻6号1320頁。最高裁は、嫡出でない子の相続分を嫡出子の2分の1と定めていた民法900条4号ただし書前半部分の規定が憲法に違反する判断を示した。

[3] 最高裁平成8年12月17日第三小法廷判決・民集50巻10号2778頁

[4] 法制審議会民法(相続関係)部会第6回会議 部会資料6・2~3頁参照

[5] 最高裁昭和29年4月8日第一小法廷判決・民集8巻4号819頁、最高裁平成16年4月20日第三小法廷判決・裁判集民事214号13頁参照。なお、この論点に関して当該判例と同様の判断を示した審判に対する許可抗告審が最高裁大法廷に回付され、弁論期日が本年10月19日に指定されている(「預貯金の遺産分割、最高裁大法廷弁論は10月19日」(産経ニュース)http://www.sankei.com/affairs/news/160616/afr1606160034-n1.html)。

 

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