◇SH3571◇eスポーツを巡るリーガル・トピック 第10回(完) eスポーツに係るその他の問題(eスポーツとSDGs等) 長島匡克(2021/04/12)

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eスポーツを巡るリーガル・トピック

第10回(完) eスポーツに係るその他の問題(eスポーツとSDGs等)

TMI総合法律事務所

弁護士 長 島 匡 克

 

  1. 第 1 回 eスポーツを巡るリーガル・トピックの検討の前提として
  2. 第 2 回 eスポーツと著作権(1)――ゲームの著作物性とプレイ動画
  3. 第 3 回 eスポーツと著作権(2)――eスポーツの周辺ビジネスとゲームの著作権
  4. 第 4 回 eスポーツと著作権(3)――eスポーツ選手と著作権
  5. 第 5 回 eスポーツとフェアプレイ(1)――ドーピング等
  6. 第 6 回 eスポーツとフェアプレイ(2)――チート行為と法律――著作権を中心に
  7. 第 7 回 eスポーツとフェアプレイ(3)――チート行為と法律――その他の法令や利用規約を巡る論点
  8. 第 8 回 eスポーツにおける契約上の問題点(1)――大会参加契約・スポンサー契約・未成年との契約
  9. 第 9 回 eスポーツにおける契約上の問題点(2)――eスポーツにおける選手契約
  10. 第10回 eスポーツに係るその他の問題(eスポーツとSDGs等)

 

1 eスポーツとSDGs

 最近では、ESGやSDGsという言葉を聞かない日はないほど、地球環境や人権に関する危機感が共有され、持続可能な社会の実現が共通の関心となっている。そのため、ビジネスにおいてSDGsを意識することが求められている。

 こういった流れの背景には、2011年に国連の人権理事会においてビジネスと人権の指導原則が全会一致で採択され、国家のみならず企業も人権を擁護する義務を負うことが確認されたことや、2015年には2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として国連サミットで加盟国の全会一致で「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(SDGs)が採択され、17のゴール・169のターゲットが策定されたことが大きい。同アジェンダは、「誰一人取り残されない」持続可能でよりよい世界を2030年までに目指すと謳っており、持続可能性は一つの重要な評価軸となっている。

 スポーツは、国際的な一定の価値や理念を世界的に実現するうえで有益な役割を果たす[1]。たとえば、IOCや、FIFAはその活動にSDGsやビジネスと人権の指導原則の内容を取り入れており[2]、スポンサー、ファンを含めた関与する多くの利害関係者に、人種、国籍、性別、性的指向等による差別の禁止等といったこれらの理念の意識づけが行われる。このようなスポーツが有する価値にスポーツ庁も着目し、スポーツの力でSDGsの達成に貢献することを宣言している[3]

 eスポーツは、ゲームを通じて行うという特性を有するため、人種、年齢、国籍、性別や障害[4]の有無を問わず公平に競争ができる。この点において、SDGsのゴールに含まれるDiversity and Inclusion(多様性及びその受容。以下「D&I」という。)[5]に資する競技であるといえる。JeSUの報告書によると、eスポーツはSDGsの目標17項目中14の項目が合致すると考えられる旨の記述があり[6]、eスポーツはSDGsに貢献する社会的意義のあるエンタテインメントであるといえる。もっとも、このeスポーツの持つ価値を最大限に活かすためにも、以下の点は特に留意が必要ではないかと考えられる。

⑴ 障害者のアクセシビリティの促進

 アクセシビリティとは、情報やサービスに対するアクセスの容易さのことをいう。ゲームをプレイするためには、ゲーム画面を見て、音を聞き、指先でコントローラー等の入力装置に信号を入力する必要がある。そのため、視覚障害、聴覚障害、手先が不自由な障害のある者はそのゲームにアクセスできないまたはアクセスが困難であるという問題がある。特に近年は、ゲームが高度になり精緻な動きが可能になる反面、その操作も複雑化している側面があるため、アクセシビリティへの配慮は一層重要になる。この問題に対して、各ゲーム機は、ボタンの割り当てを変えられる機能や、読み上げ機能、変換器の開発・販売、オート機能等によって対応している。

 日本のeスポーツ(ゲーム)に関連しうるアクセシビリティに関する法規制に目を転じると、以下のとおりである。

 障害者基本法において、「情報の利用におけるバリアフリー化」が定められ、「電気通信及び放送その他の情報の提供に係る役務の提供並びに電子計算機及びその関連装置その他情報通信機器の製造等を行う事業者は、当該役務の提供又は当該機器の製造等に当たつては、障害者の利用の便宜を図る」努力義務を負う旨が規定されている(障害者基本法22条3項)。また、障害者差別解消法が、「その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害」することを禁止し、「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をする」努力義務を課している(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律8条)。このように、アクセシビリティの提供に関する義務は日本法上明記されていない。

 また、ウェブアクセシビリティ[7]については、WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)2.0を踏まえて、JIS規格(日本工業規格。JIS X 8341-3:2016)が制定されているが、ゲームに係るアクセシビリティについては、一般社団法人コンピュータエンタテインメント協会(CESA)や、一般社団法人日本オンラインゲーム協会(JOGA)が発行しているガイドラインを含め、特段の規定はなされていない。このように、具体的な対応は各ゲーム機のメーカーの努力義務とされているにとどまっている。

 米国の状況を見てみると、21世紀における通信と映像アクセシビリティに関する2010年法(S.3304)(Twenty-First Century Communications and Video Accessibility Act of 2010、以下「CVAA」という。)が制定され、全ての障害のあるアメリカ人が21世紀の新しいテクノロジーによるコミュニケーションに合理的にアクセスができる権利が保証されている。ゲーム・ソフトウェアについては、研究開発の必要性からFederal Communications Commission(FCC)と協議の上、2018年末までその適用が延期されていたが、2019年から適用になり、ゲーム会社はFCCが定めるアクセシビリティに関するルールに従う必要があり、違反行為にはFCCからの制裁もなされうる[8]。CVAAはコミュニケーションに関する規制であるので、ゲーム内でのコミュニケーションがあるゲームについてのみに適用される。そのため、ゲームそのもののアクセシビリティに関する規定ではない。直接の法規制がないという点は日本と同様である。

 一方で、eスポーツの大会は、健常者を対象とする環境づくりがなされている場合が多く、障害者はeスポーツを始めることすら難しい現状がある。この現状を打破するために、一般社団法人ユニバーサルeスポーツネットワーク[9]が設立される等の動きがみられており、今後多くの障害者が大会に参加可能になることが望まれる。D&Iの促進というeスポーツの価値を最大限に活かせるよう、今後のeスポーツの環境が整備されることが期待される。

⑵ 女性のD&Iの促進

 従来型スポーツの多くが体格差といった生物学的な違いを理由に男女別に競技が行われる一方、男性女性ともに同じ土俵で競うことができることがeスポーツの特徴の一つである。しかしながら、例えばJeSUのプロライセンス保持者全231人中[10]、女性はごくわずかである事実が示すように、圧倒的な男女差があることが実情である。

 世界に目を転じると、2018年の10月から12月におけるeスポーツゲームの女性プレイヤーは、35%、女性のeスポーツゲームの視聴者は30.4%、女性のeスポーツゲームのリーグの視聴者の20.3%は女性である旨の報告がある[11]。ここから、さらに女性の関与を増やすべく、例えばBritish Esports Associationは、Women in Esportsと題する、気づきのレベルを向上させ、UKにおけるeスポーツの標準を向上させ、将来のタレントを啓発することを目的とするキャンペーンを行っている[12]

 一方で、上述のJeSUの報告書には、SDGsに関する一般的な言及はあるものの  具体的な女性のD&Iへの取組みに関する言及はない。しかしながら、前述のとおり、eスポーツの魅力は性別を問わずゲームを通じて公平に競争ができるという点にあり、この点が他の従来型スポーツにはない大きな魅力であり、価値であろう。この魅力や価値を最大限に活用するためにも、女性の参加を促す取組みが喫緊の課題であると考える。

⑶ 青少年保護(ゲーム障害対策)

 オンラインで楽しめるeスポーツは、場所・時間の制約なくプレイすることができる。2019年5月にWHOが“Gaming disorder(ゲーム障害)”を国際疾病分類に含めており、ゲーム中毒、ゲーム障害に関する研究が行われている。eスポーツは、未成年者のプレイヤーが多い特徴があるため、学生のプレイヤーに対する教育の機会の確保や、ゲーム障害の原因等を科学的に分析の上での適切な対応といった観点から、青少年の保護を図っていくべきであろう。

 この点、香川県ネット・ゲーム依存症対策条例が2020年3月18日に可決・成立し、同4月1日から施行されており、話題となっている。同条例は、18歳未満の子どものスマートフォンの利用時間やゲームのプレイ時間の上限を定め、これを遵守させる努力義務を保護者に課している他、県、学校等の教育機関、ゲーム会社等の事業者に対して、罰則はないものの、ネット・ゲーム依存症の防止に係る責務を定めている。同条例に対しては、様々議論がなされており、憲法違反を理由として訴訟提起もなされているため、今後の展開が注目に値する。

⑷ 小括

 以上のように、eスポーツは、D&Iを含め、SDGsを促進する価値を有している。SDGsの推進は、一つの成長戦略であり、産業の活性化にもつながるものである。したがって、eスポーツの有する価値が最大化されるように、様々な取組みがなされることを期待する。

 

2 eスポーツとその他の論点

⑴  eスポーツと新しいテクノロジー

 eスポーツは、ゲームの進化と共に発展していくことになるだろう。たとえば、近年ブロックチェーンやVR・ARといったテクノロジーを用いたゲームが開発されており、このような新しいテクノロジーがeスポーツの世界に入ってくることになる。

 例えば、ブロックチェーン技術により、アイテムやキャラクターがNFT(ノンファンジブル・トークン)として取引の対象になり、デジタルコンテンツが、例えば「著名eスポーツ選手が育てたキャラクター」といった形で資産性を生じさせ、新たなマーケットが生ずるといわれている。この場合は、「暗号資産」(資金決済に関する法律2条5項)該当性等の問題が生じ得るが、新しいテクノロジーについては従前の規制との関係が不明確な場合も多く、法的な問題が生じやすい。この点は、契約においても同様である。実際に、映画の著作物の譲渡契約において、「放送権」が譲渡の対象として規定されていたが、その後衛星放送や有線放送という新しいテクノロジーが登場した場合に、譲渡の対象であった「放送権」に衛星放送権や有線放送権を含むものと解釈できるか、が争われた裁判例がある[13]。未知のテクノロジーを想定しての契約は容易ではないが、新しいテクノロジーに関する契約は、慎重なワーディングが求められるというべきであろう。

⑵ eスポーツとベッティング

 eスポーツとベッティングは海外では近い関係にあり、eスポーツの議論に対する関心が高い分野である。特に米国においては、各州においてスポーツベッティングを認めることを禁止している連邦法のプロ・アマスポーツ保護法(Professional and Amateur Sports Protection Act of 1992)を、2018年5月22日に米国連邦最高裁が違憲無効と判断したことから[14]、米国全土でスポーツベッティングの規制緩和の動きが進んでいる。

 日本においては、原則としてベッティングは賭博行為として刑法上処罰対象となるが、例外的に法律上ベッティングが認められているものもある(競馬、競輪、競艇等。)。その一つに、スポーツ振興投票の実施等に関する法律によるスポーツ振興投票(toto)がある。同法は、その対象をサッカーに限定していたが、2021年に同法が改正されバスケットボールが含まれるようになった。しかし、極めて慎重にその範囲が拡大されているため、eスポーツへの拡大は現時点では考え難いと言わざるを得ないだろう。また、カジノ施設が今後作られる関係で、IR整備法による例外が適用になる可能性も考えられるが、現時点での検討ではスポーツベッティングはその対象から外れている。このような流れからすると、日本においてeスポーツへのベッティングが認められるまでには相応の議論と産業の健全な発展が必要になるように思われる。

 

3 本連載のまとめに代えて

 eスポーツに関する論点を第10回にわたり整理し、筆者の国内・海外での知見をもとに分析を進めたが、依然として十分な議論がなされていない点も多く、今後の議論の集積が待たれるところである。また、景表法、刑法、風営法に関する論点を含め、本連載において触れていないeスポーツに関する論点も存在しているため、この点も今後さらに検討を進めていきたい。

 内閣府は、人類の進歩に合わせて、それぞれの社会を狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)と定義し、Society 5.0をサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)と定義する[15]。このような整理を前提にすると、時代に応じてスポーツも変革をしており、狩猟社会においては格闘技、農耕社会においては集団スポーツ、工業社会においてはモータースポーツが発展したことを考えれば、情報社会である現在においてeスポーツが注目されていることは必然に思える。そうだとすると、今後、Society 5.0の定義を前提とすると、eスポーツとフィジカルスポーツが融合し、社会的課題を解決しつつ発展するスポーツが誕生すると推測される。次なるスポーツの礎を築くためにも、eスポーツの発展と社会課題の解決が両立されることが強く期待される。このために法律及び法律家が果たせる役割は大きいように思われる[16]

以 上

 


[1] 山崎卓也「スポーツ法のこれからの役割――スポーツを通じて人権保障を実現する時代」法学セミナー764号(2018)19頁は、このスポーツの持つ力を「価値実現力」という。

[2] 例えば、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、「持続可能性に配慮した調達コード」を策定、公表している。

[3] スポーツ庁ホームページ「スポーツSDGs」(https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop08/list/1410259.htm

[4] 「障害」の表記については、障害者基本法の記載に従っている。

[5] SDGsの5「ジェンダー平等を実現しよう」や10「人や国の不平等をなくそう」等。

[6] eスポーツを活性化させるための方策に関する検討会「日本のeスポーツの発展に向けて~更なる市場成長、社会的意義の観点から~」(令和2年3月)34頁(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2021/04/document_01.pdf

[7] 高齢者、障害者を含む全ての者が、使用端末、ウェブブラウザ等に関係なく、ウェブコンテンツ(ウェブページのある情報や機能)を容易に利用できることを意味する。

[8] Debra McGuire Mercer “Federal Communications Commission Rules Require Communications in Video Games to Be Accessible and Usable”(https://www.natlawreview.com/article/federal-communications-commission-rules-require-communications-video-games-to-be)(December 11, 2019)

[11] Dean Takahashi “Interpret: Women make up 30% of esports audience, up 6.5% from 2016”(February 21, 2019)(https://venturebeat.com/2019/02/21/interpret-female-esports-viewership-grew-6-5-percentage-points-over-two-years/

[12] British Esports Association “British Esports Association launches new Women in Esports campaign”(November 11, 2019)(https://britishesports.org/women-in-esports/british-esports-association-launches-new-women-in-esports-campaign/

[13] 東京高判平成15・8・7裁判所HP(「怪傑ライオン丸」事件:控訴審)。当該事件においては、放送権に衛星放送権及び有線放送権を含まないと判断された。

[14] Murphy v. National Cooegiate Athletic Association(May 14, 2018)

[15] 内閣府「Society 5.0」(https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/

[16] 全10回に渡る連載において、商事法務ポータルの担当者である佐藤庸平氏には大変お世話になった。この場を借りて厚くお礼を申し上げたい。

 


(ながしま・まさかつ)

2010年早稲田大学法務研究科修了。2011年に弁護士登録。2012年からTMI総合法律事務所勤務。スポーツ・エンタテインメントを中心に幅広く業務を行う。2018年にUCLA School of Law (LL.M.)を終了。その後、米国・ロサンゼルス所在の日系企業及びスウェーデン・ストックホルム所在の法律事務所での研修を経て帰国。2020年カリフォルニア州弁護士登録。米国Esports Bar Association(EBA)の年次総会でパネリストとして登壇するなど、日米のeスポーツに関する知見を有する。eスポーツに関する執筆は以下のとおり(いずれも英語)。

TMI総合法律事務所 http://www.tmi.gr.jp/

TMI総合法律事務所は、新しい時代が要請する総合的なプロフェッショナルサービスへの需要に応えることを目的として、1990年10月1日に設立されました。設立以来、企業法務、M&A、知的財産、ファイナンス、労務・倒産・紛争処理を中心に、専門化と総合化をさらに進め、2021年1月1日現在、弁護士494名、弁理士85名、外国弁護士37名の規模を有しています。クライアントの皆さまとの信頼関係を重視し、最高レベルのリーガルサービスを提供できるよう努めております。

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