◇SH0788◇企業内弁護士の多様なあり方(第33回)-シニアな弁護士を採用する企業の期待(下) 本間正浩(2016/09/07)

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業内弁護士の多様なあり方(第33回)

シニアな弁護士を採用する企業の期待(下)

日清食品ホールディングス

弁護士 本 間 正 浩

 

 前号の末尾に触れたように、シニアな企業内弁護士に求められる中でもっとも重要なものは「決断」をする力である。

 企業はさまざまな法律問題に直面するが、その一つ一つについて企業は意思決定を行い、対応をしなければならない。結論が出せないからといって、何も決められない。(仮に、対応を起こさないというのであれば、それ自体が一つの意思決定である。)経営レベルになればなるほど、その意思決定が企業の利害に影響するところが大きくなる。一方で、企業が現実に直面する法律問題においては、一義的かつ明確に出せるということは少なく、多くはリスクの程度問題になる。取り得る選択肢の全てに何らかの法務リスクが伴うことも珍しくない。このような状況にあって、シニアな弁護士は、企業の最後の砦として、結論を出さなければならないのである。もし、問題解決の困難さのゆえに、決断を投げてしまうようなことがあっては、専門家ですら解決できない困難な法的問題について、解決を非専門家に委ねることになり、これは背理に他ならない。決断力を涵養する要素のうち、重要なものはやはり深く長い経験であろう。どの選択肢を取るとどういう結果が生じるか、「先読み」する力は経験を通してしか得られないものがある。

 種々の要素を適切に較量するためのバランス感覚も必須である。法的な分析におけるバランス感覚も重要であるが、特に重要であるのは、ビジネスに対する感覚である。企業として考えなければならないのは法務リスクだけではない、財務リスク、オペレーションリスク、レピュテーションリスク等々、検討しなけばならないリスクは多様である。営業部門は営業のこと、財務部門は財務のことだけを考えていればよいというのでは企業経営は成り立たないのと同様、法務も法務以外の諸要素を無視してよいものではない。非法務要素を考慮したうえでのバランスのある決断が要求されるのである。

 経営の一翼を担うのであれば、外せない資質は「実行力」である。評論家であることはできない。一旦決めたことを実現するところまで、シニアな企業内弁護士は責任を負うのである。そのためには企業内外の人々を説得する能力、あるいは種々の利害関係を調整する能力もまた不可欠であり、広い意味での「リーダーシップ」と「政治力」が必要になろう。

 

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