日弁連、商法(運送・海商関係)等の見直しに関する
法制審議会の要綱採択に対する会長声明
岩田合同法律事務所
弁護士 村 上 雅 哉
日本弁護士連合会は、法制審議会が取りまとめた商法(運送・海商関係)等の見直しに関する要綱(以下「本要綱」という。)につき、法務大臣の諮問に則しているものと評価し、同要綱に基づく改正法が国会での議決を経て速やかに成立・施行されることを期待する旨の会長声明を発表した。
商法典のうち運送・海商に関する分野については、明治32年の制定後実質的改正はなされておらず、規定内容が取引実態に合っていないとの指摘がなされてきており、また、国内の航空運送等に関する規定も存在しなかった。そこで、平成26年2月の法制審議会における法務大臣の諮問を受け、同年4月から同審議会の商法(運送・海商関係)部会において審議がなされ、平成27年4月から5月にかけてのパブリック・コメントの手続の実施を経て、本年2月12日に法制審議会が本要綱を決定・公表したものである。以下、本要綱の概要について述べるが、いずれも商法に規定のある運送法制と海商法制の現代化を目的とするものである。
まず、運送関係については、現行商法は、国内の陸上運送および海上運送について当事者の損害賠償責任等の私法ルールを定めているところ、本要綱は、陸・海・空を通じた各種運送の総則的規律を新設し、陸・海・空を組み合わせた複合運送については、この総則的規律を適用した上で、複合運送の運送人の責任は運送品の滅失等の原因が生じた区間に適用される規律に従う旨の規律を新設している。また、現行商法では、危険物の運送を委託する際にその旨を荷送人が運送人に通知する義務に関する規定がなかったところ、かかる通知義務の規定を新設し、その通知義務違反を原因とする運送人の損害賠償請求の可否について、荷送人の側において帰責事由がないことを主張立証しなければならない旨定めることとしている。そのほか、運送品の損傷による運送人の責任に関する期間制限について国際海上物品運送法と同様に1年の除斥期間とする制度を新設したり、旅客運送に関し、旅客の生命身体の侵害についての運送人の責任を減免する特約は無効とするなどの改正が提案されている。
次に、海商関係については、現行の商法第三編は、海上企業取引に関する特殊な私法ルールを定めているところ、本要綱では、実務上広くみられる定期傭船契約についての規定の新設や、船長の責任・権限等の見直し、海上運送状に関する規律の新設や、船舶の衝突時における船舶所有者間の責任の分担、海難救助の場合の救助料の取扱いなどについて、国際的なルールや実務を踏まえた改正が提案されている。
本要綱に基づき、今後、改正法案が国会に提出され、審議されていくことになるものと思われるが、商事取引法分野における改正の動きの一つとして紹介する次第である。
中心的な改正対象 | 改正の影響が一部及ぶもの | |
国内運送 | 国際運送 | |
陸上運送 | 改正前の条文は商法569条~592条 | |
会場運送 | 改正前の条文は商法737条~787条 |
船荷証券統一条約 |
航空運送 | 従来は規定が存在せず ⇒ 総則的規定を適用 |