◇SH0823◇全銀協、民法(相続関係)等の改正に関する中間試案に対する意見 柏木健佑(2016/10/03)

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全銀協、民法(相続関係)等の改正に関する中間試案に対する意見

岩田合同法律事務所

弁護士 柏 木 健 佑

 

 全銀協は、9月21日、法制審議会民法(相続関係)部会が取りまとめた「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」(以下「中間試案」)に対する意見を公表した。中間試案は、配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から相続に係る規律に関し様々な見直しを提言するものであり、これに対する全銀協の意見の概要は下表のとおりであるが、本稿では、可分債権の遺産分割における取扱いを中心に紹介する。

 金銭債権等の可分債権は、判例上(最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁)、相続の開始により当然に分割されると解されている[1]。そのため、実務上、預貯金債権等は原則として遺産分割対象から除外され、相続人全員の合意がある場合に限って遺産分割の対象とされる。これに対し、中間試案においては、可分債権を遺産分割の対象に含める方向で、甲案及び乙案が併記されている。甲案は、可分債権は相続の開始により当然に分割されるとし、相続人による分割された債権の行使も認めつつ、相続開始時の可分債権の金額を具体的相続分算定の基礎となる財産に含め、かつ、遺残分割時に残存する可分債権は遺産分割の対象に含める考え方に基づく案である。一方、乙案は、遺産分割が終了するまでの間は、可分債権について原則として相続人による個別的な権利行使を禁止し、具体的相続分算定の基礎となる財産及び遺産分割の対象に含める考え方に基づく案である。但し、乙案も、相続人全員の合意がある場合などに遺産分割前の権利行使を認めることを想定している。

 かかる二案に対して、全銀協としては、いずれの案が適切かについて意見の統一を図ることは困難であるとしている。相続預金に関しては、銀行としては、預貯金債権は葬儀費用等への充当などの役割を有するため円滑な払戻しが要請される一方で、預貯金債権等に関し遺言がある場合や預貯金債権等が遺産分割協議の対象となる可能性がある場合等、法定相続分に従った払戻しを行うことで二重払いリスクを負うこともある。従前の判例法理の下でも、このような相反し得る要請とリスクの間で銀行実務が積み重ねられてきたが、相続預金を巡るトラブルに銀行が巻き込まれるケースも少なくない。甲案、乙案のいずれの考え方をとるとしても、銀行が現行の実務の下でも負っている二重払いリスク等のリスクについて、十分な手当てを求めるというのが全銀協の基本的なスタンスであると言えよう。

 具体的には、全銀協は、甲案に対して銀行に相続開始の事実を告知する前に特定の相続人が預金の払戻しを受けてしまうケースにおける銀行の二重払いのリスクについて、債権の準占有者に対する弁済(民法478条)による免責を受けられるという見解の法令上の手当ても含めた検討を求めている。一方、乙案に対しては、原則として個別的な権利行使を禁止するとしても、被相続人の預金が葬儀費用等にも充てられている実態も考慮すれば、一定の場合に権利行使を認める仮払制度が必須であるとしつつ、例えば葬儀費用等に充てる金銭の払戻しが認められる場合のその金額の妥当性等の判断を求められないことや、相続人の同意を条件とする場合の確認手続等についての検討を求めている。

 相続法改正は、国民の生活に広く関係する内容だけに、銀行をはじめとするビジネス法務への影響も想定される。今後の議論の進展が注目される。

 

 全銀協の意見の概要
Ⅰ はじめに
Ⅱ 銀行界における重要論点事項に対する意見
中間試案第2・2「可分債権の遺産分割における取扱い
意見の概要 本稿参照
中間試案第3・4「遺言執行者の権限の明確化等」
(3)個別の類型における権限の内容
意見の概要 預貯金債権の行使について遺言執行者の権限に含めるとする規定には、賛成する。投資信託等の金融商品についても原則として遺言執行者の解約及び解約金受領の権限を認めることが円滑な遺言執行に資すると考える。
Ⅲ Ⅱ以外の各論点事項に対する意見
中間試案第2・1「配偶者の相続分の見直し」
意見の概要 甲案[2]については、相続をめぐる紛争が長期化する懸念があるため実務運用面での仕組みの検討を求める。乙-1案[3]には届出の有無の確認の手続負担等により問題点がある。乙―2案[4]については婚姻期間の経過等の確認のための手段の整備等につき議論を求める。
中間試案第3・3「自筆証書遺言の保管制度の創設
意見の概要 制度創設に賛成する。検認不要とする場合の公的機関による確認手続を求める。
中間試案第3・4「遺言執行者の権限の明確化等」
(4)遺言執行者の復任権・選任・解任等
意見の概要 遺言執行者の権限喪失事由として「相当と認めるとき」と規律することは広範に過ぎると考えられる。遺言執行者の復任権を広範に認めること自体については賛成するが、委託された第三者であることが客観的に明らかとなる仕組みを設けることを求める。
中間試案第4・1「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」
意見の概要 遺留分減殺請求の物権的効果の見直しを行う中間試案に強く賛成。但し、現物返還の主張がなされたときに物権的効力が生じるとの乙案には反対。
Ⅳ その他
意見の概要 公正証書遺言に係る安定性確保、死因贈与に係る検討を要望する。

 

以上



[1] 現在、この点が争点となっている訴訟が最高裁大法廷に係属しており、判例変更の可能性もある。

[2] 被相続人の財産が婚姻後に一定の割合以上増加した場合にその割合に応じて配偶者の具体的相続分を増やす考え方

[3] 婚姻成立後一定期間が経過した場合に、その夫婦の合意により[被相続人となる一方の配偶者の意思表示により他方の]配偶者の法定相続分を引き上げることを認める考え方

[4] 婚姻成立後一定期間の経過により当然に配偶者の法定相続分が引き上げられるとする考え方

 

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