◇SH0825◇冒頭規定の意義―典型契約論― 第16回 冒頭規定の意義―制裁と「合意による変更の可能性」―(13) 浅場達也(2016/10/04)

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冒頭規定の意義
―典型契約論―

冒頭規定の意義 -制裁と「合意による変更の可能性」-(13)

みずほ証券 法務部

浅 場 達 也

 

Ⅲ 冒頭規定と諸法

 上において、金銭消費貸借契約と請負契約を例として、「当事者の合意による変更・排除がどの程度可能か」について検討してきた。「ポイント(7) (8) (9)」をやや一般化すれば、次のようにいうことができよう。

ポイント(10) 諸法上の典型契約と合意による変更・排除
「冒頭規定の要件に則った」契約が、制裁を有する法以外の法律の適用対象とする典型契約に該当することを、当事者の合意により変更・排除することは難しい。

 この「ポイント(10)」を踏まえると、次のように考えることができよう。

ポイント(11) 「合意による変更・排除の可能性」の意識化
「当事者の合意によりどの程度の変更・排除が可能か」について、契約書作成者は、常に意識する必要がある。特に、民法と他の制裁を有する法律との組み合わせによって生まれる「合意による変更・排除が難しい規律」は、民法の条文解釈から直接的に導かれるわけではないので、契約書作成者が自らの頭の中で常に意識して契約書を作成することが重要である。

 以下、各典型契約につき、冒頭規定が民法以外の法律にどのように取り込まれているかという観点から、簡単に諸法の概要をみておこう。これらは、あくまで検討の端緒というべきものであり、本格的な検討は、今後の課題である。(なお、印紙税法については、「諸法」に続いて、項を改めまとめて扱う。)

 

1. 諸法

 これまでの検討を踏まえると、契約の成立要件に関する「当事者の合意の内容」と、冒頭規定の要件との関係については、まず次のようにいえよう。

ポイント(12) 当事者の合意と冒頭規定の要件
契約書作成者は、「リスク増大の可能性」を回避する観点から、多くの場合、「冒頭規定の要件に則った」契約書を作成する(「ポイント(3)」)。そして、「冒頭規定の要件に則った」契約書が制裁を有する民法以外の法律の適用対象とする典型契約に該当することを、合意により変更・排除することは難しい(「ポイント(10)」)。この結果、契約の成立要件に関する「当事者の合意」の内容は、多くの場合、「冒頭規定の要件に則った」内容となる[1]

 その一方で、例外的ではあるものの、別の方向の働きもある。例えば、贈与と売買を考えてみよう。両者の冒頭規定をみれば、それらの境界は明瞭であるようにみえるが、(下で検討するように、)当事者が売買としていても贈与と扱われることがある。その限りで当事者が選択した形式が強制的に変更・修正されることがある。

ポイント(13) 当事者が選択した形式の否定
「冒頭規定の要件に則った」契約書であっても、別の規律によって、当該典型契約に該当しないとされ、契約の成立に関して当事者が選択した形式が否定されることがある。

 「ポイント(12)」は、「冒頭規定の要件に則る」方向の働きであり、「ポイント(13)」は、「冒頭規定の要件に則る選択を否定する」方向の働きである。いずれも、「当事者の合意に対し、何らかの影響を及ぼす規律」であるが、方向としては、ポイント(12)とポイント(13)は逆を向いているといえよう。以下では、この2つ方向に焦点を当てながら、各典型契約を概観してみよう。



[1] この点は、後に「契約の拘束力の根拠」の検討において、参照することになる。

 

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