◇SH1165◇司法試験受験生の就活は法律事務所と企業で何が違うのか(1) 西田 章(2017/05/17)

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司法試験受験生の就活は法律事務所と企業で何が違うのか(1)

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 司法試験が終わると、企業法務を目指す受験生たちは、直ちに就活を始めなければなりません。私は、弁護士を対象とするヘッドハンティング業を営んでいるので、受験生へのキャリアコンサルティングを求められることがあります。昨年も、法科大学院主催の就職ガイダンスにスピーカーとして登壇しました。壇上からは、リクルートスーツを身にまとった若者が熱心にメモを取っている姿がよく見えました。

 私が紹介業務を始めた10年前は、企業に就職する弁護士が少しずつ増え始めた頃でした。当時は、企業の採用担当者から、「弁護士資格を持っているからって偉そうにされても困る」と愚痴を聞かされました。そのため、企業面接に臨む弁護士に対しては、「少しはマナーも意識してください」と注意しなければなりませんでした。今では、そんなアドバイスは不要になり、受験生たちは自ら「行儀よさ」を身に付けてくれています。

 

 確かに、10年前、偉そうにしている弁護士ばかりの中に、「行儀がよい弁護士」が混ざっているのは、ひとつの個性でした。「弁護士なのに謙虚である」と、「よい驚き」を与えることができました。ただ、年月が過ぎて、今では、行儀よく振る舞うことが当たり前になりました。そのため、平凡な成績の受験生が行儀よさだけを追求しても、「能力も言動も平凡」と埋没してしまいます。それでもまだ企業への応募では、司法試験受験生は特別視してもらうことができますし、書類選考で落ちても、業界研究による「学び」は残ります。しかし、法律事務所は、書類選考の落選者に対してフィードバックを与えてはくれません。徒らに法律事務所への応募を何十回も繰り返しても、「お祈りメール」に自信を失わされて、または、選考結果が届かずに放置されることに伴う精神的な疲れを溜め込んでしまいます。

 

 「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」作戦は、司法試験受験生の就活において、「愚の骨頂」です。本稿では、これから企業法務への就活を控えた受験生に対して、私の人材紹介業務の経験を踏まえたアドバイスをご紹介させていただきたいと思います。

 

1 企業と法律事務所の就活は何が違うのか

(1) 採用業務の位置付け

 企業の新卒採用は、ポテンシャル採用です。人事部は、「我が社の中長期的な成長に役立つ人材」を確保することを目指します。担当者はそれが本業ですので、妥協は許されません。できる限り幅広い候補者層から、最も優秀かつ適切な人材を選び出すことに最大限の努力を尽くします。よい人材を採れなければ、企業の発展可能性を損ないます。ミスマッチの人材を採用しても、解雇できるわけではないので、無駄だと感じながらも育成を諦めることはできず、非効率でも職務を任せ続けることになります。

 これに対して、法律事務所の新卒採用を担当するパートナーにとっては、弁護士業務が本業です。自分たちにとって適切な新人を確保できさえすれば、手っ取り早く採用選考を終わりにして本業に集中したいのが本音です。どんなに優秀な新人を採用できても、いずれは独立してしまうかもしれません。ミスマッチはお互いに不幸なので、指導しても直らない適性を欠く新人には、別のキャリアを歩んでもらうほうがよいと考えています。

 

(2) 短期的に求められる資質

 企業活動は、チームプレーです。新人には、仕事を進める上では、「報告・連絡・相談」を徹底することが最も重視されます。「働き方改革」が進められた現在は、労働法の枠組みの下でワークライフバランスを追求することは公には誰も否定することができません。

 これに対して、弁護士業務の主体は、パートナー個人名義です。そして、仕事の成果は、依頼者に対しても、裁判所に対しても、書面を介して提供されます。そのため、業務を補助するアソシエイトのコミュニケーション能力も、口頭の報告ではなく、綿密なリサーチに基づく起案力によって計られることになります。また、法律事務所は、アソシエイトを(雇用ではなく)業務委託であるという理解で採用しています。ここでは、労働者保護の理念よりも、プロフェッショナルとしての仕事の質の高さと期限遵守の要請が優先されます。

 

(3) 中長期的に求められる資質

 企業活動は、チームプレーなので、プレイヤーから管理職に昇進していく社員に求められるのは、リーダーシップです。チームをまとめて関係部署との調整を重ねながらプロジェクトを遂行していくことが企業としての成果につながります。

 これに対して、アソシエイトからパートナーに昇進していく弁護士に求められてくるのは、営業力です。法律事務所の業務は、案件を引っ張ってくるパートナーと、その仕事を補助するアソシエイトによって成り立っています。そのため、アソシエイトからパートナーへの壁を打ち破れるかどうかは、依頼者からの信頼を得て、自ら案件を獲得する営業力を身に付けられるかどうかにかかってきます。

 (続く)

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