インドネシア:ルピア使用義務の明確化(続)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 前 川 陽 一
中央銀行規則No. 17/3/PBI/2015(以下「本規則」という。)の非現金決済に関する規定は、2015年7月1日をもって発効し、インドネシア国内で行われるすべての決済取引について原則としてルピアの使用が義務付けられることとなった。これに先立つ同年6月1日、施行細則を定めた中央銀行通達No.17/11/DKSP(以下「本通達」という。)が公表されている。
1. ルピアによる単一価格表示義務
本通達は、商品・サービスの価格をルピアのみで表示することを義務付け、ルピアと外貨を併記する表示(デュアル・クオテーション)を明文で禁止した。たとえば、商店の店頭においてパソコンの価格をRp15,000,000/US$1,500などと記載することは許されない。
2. 戦略的インフラプロジェクトにおける義務免除の明確化
本規則においてルピア使用義務の例外として掲げられていた戦略的インフラプロジェクトの対象と義務免除の要件が本通達で明らかにされた。すなわち、①交通、②道路、③灌漑、④飲料水、⑤下水道、⑥通信、⑦電力、及び⑧石油・ガスの8つの類型のインフラプロジェクトに関しては、以下の要件を満たす場合にルピア使用義務が免除される。
(1) 管轄の省庁から当該インフラプロジェクトが戦略的インフラプロジェクトとして書面により認定されていること。
(2) 中央銀行からルピア使用義務の免除承認を受けていること。
中央銀行は、承認にあたって、当該インフラプロジェクトの資金調達手段及びマクロ経済の安定に与える影響等を検討のうえ、判断を下すものとされている。
3. 外国人駐在員の給与
ルピア使用義務の例外として「クロス・ボーダー・サプライ」という類型が掲げられ、海外親会社により特定の技能を持つ専門家をインドネシアで勤務させるため派遣する場合がその一例として本通達において示されている。難解な規定ぶりとなっているが、中央銀行が過日実施した日系企業向けの説明会において、「専門家」の範囲は各企業の判断に委ねられ、海外親会社から派遣される外国人駐在員に対しては従来通り外貨建てでの給与支払いがこの例外規定に基づき許容されるとの見解が示されたようである。他方、外国人従業員であっても現地採用された者は、2015年7月1日より前に締結された雇用契約において外貨での給与支払いが明記されていない限り、ルピアでの支払いが義務付けられる。駐在員の給与は日系企業を含む外資系企業とその駐在員にとって関心の高い問題であるだけに、中央銀行からは明確な指針が書面で示されるよう望みたい。
また本通達とは別に、中央銀行は、2015年7月1日付けでエネルギー・鉱物資源省との間でルピア使用義務に関する合意書を締結した。合意書の中で両者は、国内取引におけるルピア使用義務の原則を確認しつつ、石油、ガス、鉱業等のエネルギー・鉱物資源省が所管する事業分野における一部の取引につきルピア使用義務化を一定期間猶予、あるいは免除する旨合意した。具体的には、①オフィスや車両のリース料、現地従業員の給与については6か月の移行期間が認められ、②燃料取引、現地代理人を介した輸入取引など移行にさらに時間を要すると認められるものについては当面の間外貨使用が許容され、③外国人従業員の給与、掘削役務、船舶のリース料についてはルピアへの移行が難しいとして従来通り外貨使用が許容されることとされた。
今後、中央銀行と他省庁との間で同様の合意書が締結される可能性もあり、引き続き動向を注視する必要がある。