フィリピン:ノンバンク、証券引受会社等に対する外資出資比率規制の撤廃(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
ここ数年、フィリピンはアセアン経済共同体への参加するための誓約との関係もあり、一定の業種に課された外資規制を緩和する動きを見せている。
金融機関との関係においては、2014年7月に共和国法10641号(Republic Act No. 10641)が成立し、外国銀行によるフィリピンへの進出が全面的に認められることになった。これに続き、2016年7月には共和国法10881号(Republic Act No. 10881)が施行され、ファイナンス会社(Financing companies)、貸金業者(Lending companies)、証券引受会社(Investment houses)及び保険査定業者(Insurance adjustment companies)についての外資出資比率上限規制が撤廃された。
これらの法律が施行されるまでは、貸金業者については69%、銀行、ファイナンス会社及び証券引受会社については60%、保険査定業者については40%という外資出資比率の上限が設けられていた。これらの業種について外資100%による進出が可能になったことは、日系金融機関にとってもチャンスであるといえよう。とはいえ、フィリピンに現地法人を設立してこれらの金融業務を行うためには、内国企業にも適用される、該当の金融機関としての許認可を得る必要がある。また、これらの各金融機関の概念(その金融機関が行うことができる事業の内容)は、日本におけるそれとは若干異なっている部分もある。そこで、本稿では2回に分けて、今回外資出資比率上限が撤廃された各金融機関について、それぞれの業種について適用される規制について概説する。今回はまずファイナンス会社及び貸金業者について紹介する。
ファイナンス会社
ファイナンス会社とは、直接貸付、コマーシャル・ペーパー(CP)の割引若しくはファクタリング、又はファイナンスリースにより信用供与を行うノンバンクの一形態をいう。
ファイナンス会社として事業を行うには、フィリピン証券取引委員会(Philippine Securities and Exchange Commission、「SEC」と略称される。)から許認可を取得する必要がある。また、フィリピン中央銀行当局からの別途許認可を取得すれば、信託業務及び準銀行業務(20名以上の貸主からの預金類似の借入)を行うことができる。
ファイナンス会社は原則としてフィリピン証券取引委員会の監督下に置かれるが、銀行など中央銀行当局の監督下にある金融機関の子会社又は関連会社である場合、及び上記の信託業務及び準銀行業務を行っている場合には、中央銀行当局の監督も受けることになる。
ファイナンス会社は、その本店所在地をどこに置くかにより、250万ペソから1000万ペソの最低資本金が要求される。
貸金業者
貸金業者とは、自己資金又は19名を超えない者からの資金を利用して貸金業を行う者をいう。ファイナンス会社と基本的な機能は似ているが、ファイナンス会社よりも小規模なものを想定しているように見える。貸金業者に求められる最低資本金は、100万ペソに過ぎない。
ファイナンス会社と同様、貸金業者も、フィリピン証券取引委員会から許認可を取得する必要があり、その監督に服する。但し、上記同様に、銀行その他中央銀行当局の監督下にある金融機関の子会社又は関連会社である場合は、中央銀行当局の監督も受けることになる。
貸金業者には、その資金供給源となる者が19名を超えてはならないという制約があり、これに違反する場合には銀行類似の機能を持つ者として中央銀行当局の規制に従う必要が生じるため、注意が必要である。
なお、フィリピンでは外資議決権比率が40%以上の会社はフィリピン国内の土地の所有権を取得できないという外資規制がある。しかし、土地の所有権を取得できない外資の銀行及び貸金業者であっても、土地に対する担保権を実行する場合には、自ら入札に参加できることになった。この場合で自らが落札者となったときには、土地の所有権を取得することはできないものの、占有権を取得することができ、5年以内にその土地の所有権を土地所有権を取得することができるフィリピン人又は外資議決権比率が40%未満の会社に売却することができるものとされている。