冒頭規定の意義
―典型契約論―
冒頭規定の意義 -制裁と「合意による変更の可能性」-(19)
みずほ証券 法務部
浅 場 達 也
Ⅲ 冒頭規定と諸法
2. 印紙税法
印紙税法は、契約書を作成するすべての人に何らかの形で関わる点、制裁を有するという点、単独の法ながら多数の典型契約に関連する点、そして古い歴史を持つ点において、契約書作成者にとって極めて重要な法律であるといえよう。そこで、以下では、「諸法」の中から特に印紙税法を取り出し、その現在と沿革について、概観しておこう。
(1) 現在
現在の印紙税法上の課税文書において、民法の典型契約と直接関連するのは、次のものである。
表2 印紙税法上の課税文書と典型契約
課税文書 | 典型契約 |
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これらすべてについて、「冒頭規定(549条、555条、586条、587条、601条、632条、657条)の要件に則った」契約が印紙税法上の各契約書に該当することを、当事者の合意によって変更・排除することは難しい(過怠税を課されるリスクが高い)といえるだろう。
また、1989年の印紙税法改正まで、「賃貸借又は使用貸借に関する契約書」と「委任状又は委任に関する契約書」も課税文書であったこと(使用貸借・委任の冒頭規定についても、「それぞれの要件に則った」契約が印紙税法上の使用貸借・委任に該当することを、当事者の合意によって変更・排除することが難しかったこと)に留意すべきだろう。