◇SH0863◇ISSの意見募集(相談役・顧問制度)について 平田和夫(2016/11/02)

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ISSの意見募集(相談役・顧問制度)について

平田総合法律事務所

弁護士 平 田 和 夫

1 はじめに

 2016年10月27日、Institutional Shareholder Services Inc.(ISS)により、ISS議決権行使助言方針(ポリシー)改定に関する日本語でのオープンコメントの募集が開始された[1]。締切は、11月9日である。

 本稿では、ポリシー改定案の概要および改定の理由を紹介したうえで、同改定案の内容を検討するうえでポイントとなる点を述べることとする。

2 ポリシー改定案の概要

 2017年2月開催の株主総会から、相談役・顧問制度を新たに定款に規定しようとする場合、その定款変更に反対を推奨する。

 ただし、相談役や顧問を取締役の役職として規定する定款変更については、必要があれば株主はその取締役に対して責任を問うことができるため、反対は推奨しない。

3 ポリシー改定の理由

  1. ⑴ 相談役や顧問は、取締役でない限り、その活動や報酬が開示されることはほとんどない。
  2. ⑵ 相談役や顧問は、株主(会社)に対し、責任を負っていない。
  3. ⑶ 社長・会長経験者などが相談役や顧問として会社に残ると、後継者である現在の社長・会長にとって、前任者が決めた経営戦略を変更することは、それが会社にとって望ましい内容でも、実行は困難である。
  4. ⑷ 社長・会長経験者などが会社に残り続けることは、そうした人たちが他の会社で社外取締役として務める機会の減少につながり、日本で社外取締役候補者の人材プールが充実しにくい一因となる。

4 ポリシー改定案に賛成する場合のポイント

 (1) 規律を設ける必要性

 上記3のうち特に⑵に関し敷衍すると、株式会社の取締役に任務懈怠がある場合、当該取締役は、会社に対し、損害賠償責任を負う(会社法423条1項)。この責任について、株主は、一定の場合に、取締役を被告として、責任追及等の訴えを提起することができる(同法847条)。取締役が敗訴した場合、当該取締役は、会社に対し、損害賠償金を支払うこととなる。このような損害賠償責任制度は、会社に生じた損害を塡補するほか、違法行為を抑止する機能を営んでおり、企業統治に関する規律の中核の位置を占めている。相談役・顧問が取締役でない場合、当該相談役・顧問は、上記の責任追及を受けることはない。それにもかかわらず、相談役・顧問は、会社の経営に強い影響を及ぼす場合がある。

 上記3⑴のとおり、相談役や顧問は、取締役でない限り、その活動や報酬が開示されることはほとんどない。

 このように考えれば、相談役・顧問制度について何らかの規律を設けるべきであるとの結論となり得、ポリシー改定に賛成する余地が生ずることとなる。

 (2) 規律の手法

 ISSは、議決権行使助言会社であり、株主総会での議決権の行使の場面について賛否の推奨をすることができるにすぎない。定款で規律する場合のみ反対の推奨をすることとなるのはやむを得ない。ポリシー改定の意図は、社長・会長経験者などが、相談役や顧問のような株主から責任を問われることのない立場から影で影響力を行使することに対して、投資家の懸念が高まっていることをメッセージとして市場に伝える点にある(「ポリシー改定の意図と影響」欄参照)。このように考えれば、ポリシー改定に賛成することとなる。

5 ポリシー改定案に反対する場合のポイント

 (1) 規律の必要性

 相談役・顧問は、その豊富な経験、知識等を活かした助言等をすることができ、これにより会社が受ける利益を無視することはできない。現行法上、株式会社に関する規律ではないが、中小企業等協同組合法43条では、「組合は、理事会の決議により、学識経験のある者を顧問とし、常時組合の重要事項に関し助言を求めることができる。ただし、顧問は、組合を代表することができない。」と規定しており、その有用性を前提に、顧問について明文の規定を設けている。

 上記3⑴については、開示をすべきかどうかは、規律の手法であって、規律の必要性を基礎付けるものではない。

 上記3⑵については、相談役・顧問も、第三者に対する損害賠償責任の制度(会社法429条1項)により、株主に対し責任を負う場合がある。

 上記3⑶及び⑷についても、そこに掲げる事態が生ずるかどうかは、ケース・バイ・ケースというほかない。

 このように考えれば、相談役・顧問制度について新たな規律を設けるべきではないとの結論となり得、ポリシー改定に反対する余地が生ずることとなる。

 (2) 規律の手法

 相談役・顧問制度は、定款だけではなく、広義の取締役会規則で規律される場合がある。ISSの調査によると、相談役・顧問制度が定款に規定されている企業は、28%にすぎない。定款で規律する場合のみ反対の推奨をする理由は乏しい。このように考えれば、ポリシー改定に反対することとなる。

6 若干の感想

 以上のとおり、とりわけ規律の必要性に関し、賛成意見は上記3(2)の点を、反対意見は相談役・顧問の有用性を特に強調することになり、規律の必要性自体に疑問を呈する見解も相当数みられると思われる。

 規律の手法についても、ISSも自認してはいるが、定款変更への反対で十分かについては、賛否両方の意見があろう。

 なお、ポリシー改定案では触れられていないが、相談役・顧問制度については、相談役・顧問の活動や報酬を開示すべきであるとした場合、事業報告、有価証券報告書、コーポレートガバナンス・コード等のいずれの手法により開示に関する規律を設けるか等の論点を検討する必要がある。

 

 

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