◇SH0866◇ミャンマー:新投資法の成立(上) 長谷川良和(2016/11/04)

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ミャンマー:新投資法の成立(上)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 長谷川 良 和

 

1 はじめに

 2016年10月18日、ミャンマー投資法(「新投資法」)が成立した。新投資法は、従来、外国投資家のための投資優遇措置等を規定していた外国投資法と国民投資家の投資に係る事項を規定していた国民投資法を統合し、ミャンマー投資に係る一元的な法的基盤を提供するものである。新投資法の下では、ミャンマー投資委員会(「投資委員会」)への投資申請が義務づけられる投資承認ルートと、それ以外の場合で同法に定める優遇を受けるために必要となる優遇付与ルートの2類型が設けられており、投資承認と各種優遇付与が一体化していた従来の外国投資法の枠組と異なるアプローチが取られている。新投資法は、ミャンマー投資において重要な役割を果たす法令と位置づけられることから、以下、日系企業によるミャンマー投資という観点から新投資法のポイントを2回に分けて簡潔に紹介することとしたい。

 

2 新投資法のポイント

(1) 新投資法の位置づけ

 従来、ミャンマーにおいて日系企業が経済特区外で大規模な事業投資や土地の長期利用を必要とする投資を行うような場合、外国投資法に基づく投資委員会の投資承認を得て投資を行う場合が多く、その意味で外国投資法は重要な役割を果たしてきた。新投資法は、従来の外国投資法を国民投資法と統合して投資に関する基本法としてその一元化を図るものであり、新投資法により外国投資法及び国民投資法はいずれも廃止されることとなった。なお、従前の外国投資法に基づいて付与された投資委員会の投資承認は、当該投資承認の期間満了まで有効に存続する。

(2) 投資承認ルートと優遇付与ルート

 新投資法上、投資家は、以下の事業に関しては投資委員会に投資提案を提出し、投資承認取得後に投資実行しなければならないとされている。

  1. (a) 国家戦略的な事業又は投資活動
  2. (b) 大規模な資本集約的投資案件
  3. (c) 環境及び地域社会に重大な潜在的打撃を生じさせる案件
  4. (d) 国家保有の土地及び建物を使用する事業又は投資活動
  5. (e) 投資委員会への提案の提出が必要であるとして政府により指定された事業又は投資活動

 他方で、上記の場合を除き、投資家は投資委員会に対し投資提案を提出する義務を負わないこととされた。もっとも、この場合に同法上の土地使用に係る権利及び税優遇を受けるためには、投資承認申請とは異なる投資委員会に対する優遇付与(endorsement)申請を行う必要がある旨が規定された。

新投資法ルート

投資承認ルート

上記(a)~(e)に定める投資活動に関して投資承認を受けて投資する方法

優遇付与ルート

土地使用に係る権利及び税優遇を受けるために必要となる優遇付与手続

(3) 禁止・制限対象投資

 新投資法の下では、投資が禁止又は制限される活動が規定されている。

 新投資法上の禁止対象投資は以下のとおりである。

新投資法に定める禁止対象投資
  1. 1. 有害・有毒廃棄物を持ち込み又は生じさせる可能性のある事業又は投資活動
  2. 2. 外国において未だ試験中の技術、医薬品、動植物若しくは器具を持ち込む可能性があり、又は使用、植栽若しくは耕作のための承認を取得していない事業又は投資活動(研究開発目的投資を除く)
  3. 3. 国内の民族グループの伝統文化及び慣習に影響を及ぼす可能性のある事業又は投資活動
  4. 4. 公衆の健康に影響を及ぼす可能性のある事業又は投資活動
  5. 5. 自然環境及び生態系に重大な損傷を生じさせる可能性のある事業又は投資活動
  6. 6. 適用法令に従って禁止された製品の製造又は役務の提供に係る事業又は投資活動

 また、新投資法上の制限対象投資は以下のとおりである。制限対象投資に関しては、今後、投資委員会による通達によりその詳細が定められる予定であり、個別案件が制限対象投資に該当するかの具体的な判断基準については、今後出される通達をあわせて検討する必要がある。

新投資法に定める制限対象投資
  1. 1. 政府による実施のみが認められる投資活動
  2. 2. 外国投資家に対し制限されている投資活動
  3. 3. 国民所有企業又は国民との合弁事業形態による場合に限り認められる投資活動
  4. 4. 関連省庁の推薦を得て認められる投資活動

 

(下)につづく

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