◇SH0927◇日本企業のための国際仲裁対策(第17回) 関戸 麦(2016/12/15)

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日本企業のための国際仲裁対策(第17回)

森・濱田松本法律事務所

弁護士(日本及びニューヨーク州)

関 戸   麦

第17回 国際仲裁手続の序盤における留意点(11)-仲裁人の選任等その2

2. 仲裁人選任手続の流れ

 仲裁人の選任手続の流れの概要は、以下の図のとおりである。まず、仲裁人の人数を定め(通常は1名又は3名である)、続いて、仲裁人を選任していく。

 以上の図のとおり、仲裁人の人数についても、また、仲裁人の選任についても、基本的な枠組みは、当事者の合意を優先し、当事者が合意ができない場合に仲裁機関が決定をするというものである。但し、仲裁機関が決定をする場合であっても、当事者の意見を聞き、合理的な意見は支障のない範囲で尊重するというのが一般的な実務である。

 一方、当事者が合意できた場合についても、仲裁人の選任については、仲裁機関による確認の手続があり、仲裁人として問題がない人物であることを仲裁機関としても確認することとなっている。

 

3. 仲裁人選任手続に関する各仲裁規則の定め

(1) ICC

 仲裁人の選任手続の概要は以上のとおりであるが、細部については仲裁機関毎に相違があるため、以下、各仲裁機関の規則の定めを解説する。

 ICCの規則では、仲裁人の人数について、当事者が合意をしていない場合には、原則として1名になる(12.2項)。但し、ICCには、仲裁機関の組織としてCourt(仲裁裁判所)があるところ、そのCourtが3名が妥当であると認めた場合には、例外的に3名になる(12.2項)。

 仲裁人が1名の場合、上記のとおり、誰を仲裁人とするかについて当事者間で協議がまとまればそれに従うが(但し、Courtによる確認の手続がある)、まとまらなければ仲裁機関(ICCの場合は、Court)が選任することになる(12.3項)。この当事者間の協議には期限があり、ICCの規則では、被申立人が申立書を受領してから30日以内、又は、Courtがこの30日の期限を延長した場合にはその延長後の期限までである(12.3項)。この期限までに協議がまとまらなければ、Courtが1名の仲裁人(単独仲裁人、sole arbitrator)を選任する。

 仲裁人が3名の場合、うち2名は、各当事者が1名ずつ指名する(但し、Courtによる確認の手続がある。12.4項)。この指名にも期限があり、申立人は申立書において、被申立人は答弁書においてそれぞれ指名することが求められているが(12.4項)、仲裁人の人数が3名になることがCourtの判断によって事後的に決まった場合には、申立人については当該判断の通知を受領した時から15日以内、被申立人については申立人による指名の通知を受領した時から15日以内がそれぞれの期限となる(12.2項)。各期限内に指名が行われない場合には、Courtが選任をする(12.2項及び12.4項)。

 3人目の仲裁人は、当事者が選任方法について合意している場合には、それに従うことになる(12.5項)。典型的な選任方法は、当事者により選任された2名の仲裁人が協議をして、3人目を指名するというものである。この場合も、Courtによる確認の手続がある(12.5項)。すなわち、仲裁人を誰とするかについては、Courtは選任又は確認のいずれかの形で、常に関与することとなっている。

 当事者が選任方法について合意している場合にも期限があり、2名の仲裁人が選任又は確認がされてから30日以内、又は、当事者の合意若しくはCourtにより別途期限が定められた場合には、その定めが期限となる(12.5項)。期限内に指名されない場合には、Courtが選任する(12.5項)。

 3人目の仲裁人の選任方法について当事者が合意をしていない場合にも、3人目はCourtが選任する(12.5項)。

(2) SIAC

 SIACの規則でも、仲裁人の人数について、当事者が合意をしていない場合には、原則として1名になる(9.1項)。但し、SIAC事務局が、案件の複雑さ、係争金額の大きさ等の諸事情に鑑み、3名が妥当であると認めた場合には、例外的に3名になる(9.1項)。

 仲裁人が1名の場合の選任手続は、SIACも、基本的にICCと同様である。SIACにも、仲裁機関の組織としてCourtがあり、その長(President)が、当事者が指名した仲裁人の確認や、当事者が指名しない場合における仲裁人の選任手続を行う(9.3項、9.4項、10.1項)。但し、仲裁人選任に関する当事者間の協議の期限は、ICCにおいては上記のとおり30日が基準となっていたが、SIACにおいては21日が基準となっている(10.2項)。

 仲裁人が3名の場合の選任手続も、基本的にICCと同様である(11項)。

(3) HKIAC

 HIKAICの規則では、仲裁人の人数について、当事者が合意をしていない場合には、HKIACが当該案件に関する諸事情を考慮の上、1名又は3名と定める(6.1項)。

 仲裁人が1名の場合の選任手続は、HKIACも、基本的にICCと同様である。HKIACにはCourtは設けられていないが、HKIACの事務局が、当事者が指名した仲裁人の確認や、当事者が指名しない場合における仲裁人の選任手続を行う(7.2項、9.1項)。

 仲裁人が3名の場合の選任手続は、各当事者が1名ずつ指名する点はICCと共通であるが、HKIAICでは、この指名された2名の仲裁人が協議の上、3人目の仲裁人を指名する点が、ICCと異なっている(8.1項。なお、ICCでは、上記のとおり、3人目の仲裁人の選任方法について当事者が合意をしていない場合には、Courtが3人目の仲裁人を選任する)。

(4) JCAA

 JCAAの規則では、被申立人が仲裁申立ての通知を受領した日から4週間以内に、仲裁人の数に関する合意をJCAAに書面より通知しないときは、仲裁人は原則として1名になる(26条1項)。すなわち、JCAAも、ICC及びSIACと同様に、仲裁人の人数について当事者が合意をしていない場合には、1名を原則としている。但し、上記4週間の期間内に、いずれの当事者もJCAAに対して、仲裁人の数を3名とすることを求めることができ、この場合において、JCAAが、紛争の金額、事件の難易その他の事情を考慮し、適当と認めたときは、仲裁人の数は例外的に3名になる(26条2項)。

 仲裁人が1名の場合の選任手続は、JCAAも、基本的にICCと同様である。JCAAが、当事者が指名した仲裁人の確認や、当事者が指名しない場合における仲裁人の選任手続を行う(27条3項、30条1項)。

 仲裁人が3名の場合の選任手続はHKIAICと同様であり、各当事者が1名ずつ仲裁人を指名し、この指名された2名の仲裁人が協議の上、3人目の仲裁人を指名する(28条1項、2項及び4項)。

以 上

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