◇SH0932◇冒頭規定の意義―典型契約論― 第37回 契約法体系化の試み(6) 浅場達也(2016/12/16)

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冒頭規定の意義
―典型契約論―

契約法体系化の試み(6)

みずほ証券 法務部

浅 場 達 也

 

Ⅱ リスクの高低による体系化

2. 個別の典型契約の体系化 ―贈与・消費貸借・組合―

 上で検討した「体系化」について、3つの契約を例として、やや詳しくみてみよう。以下では、典型契約の中から、移転型、利用型を1つずつ(それぞれ贈与、消費貸借)取り上げ、組織型契約として、組合を取り上げる。

(1) 贈与[1]

規定等 リスク リスク・制裁に関する留意点

①冒頭規定
 549条 贈与は当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

  1. ⅰ) 贈与税の制度全体が、贈与の冒頭規定の要件を土台に組み立てられており、「冒頭規定(549条)の要件に則らない」場合、契約書作成者に対し、(基礎控除・特別控除を受けられない等の)何らかの不利益(=制裁)が課されることがある。(Ⅳ3. (1)アを参照)
  2. ⅱ)「冒頭規定(549条)の要件に則った」契約書が、相続税法・印紙税法上の「贈与」に該当することを、当事者の合意で変更・排除することは難しい。(Ⅳ3. (1)アを参照)
  3. ⅲ) 冒頭規定を通じて持ち込まれる制裁
     ・ 懲役、罰金(相続税法)
     ・ 過怠税(印紙税法)

②合意による内容変更が難しい概念  「時価」

  1. ⅰ)「時価」の内容である「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に、通常成立すると認められる価額」を当事者の合意によって変更することは難しい。(変更内容によっては、「無効」という制裁が課されることがある。)
  2. ⅱ)「時価」は売買と贈与の区別のために不可欠な概念であり、「時価」という概念の内容を知らずに贈与契約書(または売買契約書)を作成することは、リスクが高い。

③よくわからない規定
 550条 書面によらない贈与の撤回

裁判所が強行規定と解するか任意規定と解するかよくわからない規定(明治期の民法制定過程のある時期に強行規定として明記されていた規定であり、「ヨットクラブ事件最高裁判決」と同様の論旨により強行規定と解される(「無効」という制裁が課される)可能性がゼロではない規定)。

④任意規定
 551条
 552条
 553条
 554条

裁判所が任意規定と解するであろう規定。


(2) 消費貸借

規定等 リスク リスク・制裁に関する留意点

①冒頭規定
 587条 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還することを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

  1. ⅰ) 例えば、いわゆる「諾成的消費貸借」のように、当事者双方に利点・メリットがある場合、冒頭規定の要件が変更されることがある。
    しかし通常は、金銭消費貸借(特に金利規制)の制度全体が、消費貸借の冒頭規定の要件を土台に組み立てられており、「冒頭規定の要件に則らない」場合、契約書作成者に対し、(税額控除の利益を享受できない等の)何らかの不利益(=制裁)が課されることがある。(「住宅借入金」に関する「税額控除」を受けられなくなる不利益について、第7回注[4] を参照)
  2. ⅱ)「冒頭規定(587条)の要件に則った」契約書が、出資法・貸金業法・利息制限法・印紙税法の適用対象とする「金銭消費貸借」に該当することを、当事者の合意で変更・排除することは難しい。(「ポイント(9)」を参照)
  3. ⅲ) 冒頭規定を通じて持ち込まれる制裁
    懲役・罰金(出資法) 行政処分(貸金業法) 過怠税(印紙税法)無効(利息制限法)

②合意による内容変更が難しい概念 「元本」「利息」「利率」

「元本」(出資法、貸金業法、利息制限法)
「利息」(同上)
「利率」(同上)     (1Ⅰ1. (3) を参照)

③よくわからない規定
 無し

④任意規定
 588条
 589条
 590条
 591条
 592条

裁判所が任意規定と解するであろう規定。


(3) 組合

規定等 リスク リスク・制裁に関する留意点

①冒頭規定
 667条 組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。

  1. ⅰ) 民法上の組合は、法人格を有していないため、課税対象とならない。これを利用して、従来、課税の繰延べを目的としたスキームが案出されてきた。こうした目的があるとき、「冒頭規定の要件に則らない」場合、契約書作成者に対し、例えば、課税の繰延べが認められない等の不利益(=制裁)が課されることがある。
  2. ⅱ) 一定の不動産流動化に関する「冒頭規定(667条)の要件に則った」契約が、(あまり一般的な法律ではないが、)不動産特定共同事業法2条3項1号の規制対象とする「組合」に該当することを、当事者の合意で変更・排除することは難しい。
  3. ⅲ) 冒頭規定を通じて持ち込まれる制裁
    (一定の不動産流動化案件においては、不動産特定共同事業法52条から62条に規定される罰則)

②合意による内容変更が難しい概念  「共同の事業」

特に税法でより厳しい要件が求められることがある(租税特別措置法41条の4の2では、投資目的の組合員である場合、「自ら執行する」組合員のみに、課税の繰延べが認められる)。

③よくわからない規定
 673条
 675条
 678条2項
 679条
 683条

裁判所が強行規定と解するか任意規定と解するかよくわからない規定(明治期の民法制定過程のある時期に強行規定として明記されていた規定であり、「ヨットクラブ事件最高裁判決」と同様の論旨により強行規定と解される(「無効」という制裁が課される)可能性がゼロではない規定)。

④任意規定
 668条  │  680条
 669条  │  681条
 670条  │  682条
 671条  │  684条
 672条  │  685条
 674条  │  686条
 676条  │  687条
 677条  │  688条
 678条1項

 

裁判所が任意規定と解するであろう規定。

解任権(672条)については、前稿「契約法教育」(2013)(下)42頁以下にて言及したように、強行規定と解する考え方もあるため、留意が必要である。



[1] 以下、「規定等」の欄では、条文全体を引用した場合もあるが、紙幅の関係で、条文の見出しのみ(または条文番号のみ)を引用した場合もある。

 

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