◇SH0934◇カジノ法(IR推進法)の成立(1)―IRの意義― 渡邉雅之(2016/12/16)

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カジノ法(IR推進法)の成立(1)

―IRの意義―

弁護士法人三宅法律事務所

弁護士 渡 邉 雅 之

 平成28年12月15日未明に、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(以下「IR推進法案」といいます。)が成立いたしました。筆者も同月12日に参議院内閣委員会の参考人質疑において、参考人として答弁して参りました。

 同法は、カジノを含む統合型施設(Integrated Resort(IR))の設置を目指す法律です。IR推進法自体は、基本法であり、政府に対して1年以内に「必要となる法制上の措置」(同法5条)すなわち、「IR実施法案」の策定を求めるものです。

 今国会での主要な論点は、①IRの意義、②民営カジノの合法性(賭博罪)、③ギャンブル依存症、④マネー・ローンダリングでした。これから数回にわたってこれらの論点について解説いたします。

1 なぜ今IRが必要なのか?

 特定複合観光施設(IR(Integrated Resort))は、国際会議場、展示場、レクリエーション施設、宿泊施設、文化施設、カジノ施設などから構成される複合型観光施設であり、シンガポールなどアジアの各地域で戦略的な国際観光の振興を図るため、IRが導入、計画されています。

 シンガポールは2カ所のIRを設置することにより観光を飛躍的に伸ばしている。そのシンガポールのIRの施設の中には、ごく一部にカジノという非常に収益力の高い施設が設けられています。それが加わることにより、国際会議場や展示場、単体であれば不採算になるような施設も含めた施設全体が円滑に運営でき、さらに集客力を飛躍的に伸ばしています。したがって、日本のMICEの機能を強化していくためにも、一部にカジノ施設を含むIRというものを認めていく必要があります。

 政府においては、日本再興戦略(平成25年6月14日策定)において、2030年までに訪日外国人観光客3000万人を目標として、新たなツーリズムの創出や国際会議(MICE)の誘致、投資の促進を重点施策として掲げていますが、IRの整備は、まさに税負担なき経済対策、都市政策として、また、2020年東京オリンピック・パラリンピック後(アフター・オリンピック・パラリンピック)の国際観光政策として、国の成長戦略の一つに位置付けられるものです。

2 今さらIR・アジア市場は飽和であるとの批判について

 IRの導入に批判的な意見としては、米国のニュージャージー州(アトランティックシティー)やマカオのカジノにおいてカジノ収益が落ちていることがよく理由として挙げられます。また、アジア各国で現在カジノの設置が進められていることからアジア市場は飽和しているとの批判もあります。

 米国のニュージャージー州(アトランティックシティー)でカジノ収益が落ちているのは、米国北東部の各州でIR(カジノ)の導入ラッシュ(ニューヨーク州やマサチューセッツ州等)により競争が激化したことによるものです。米国北東部全体でのカジノ収益は伸びています。また、ネバダ州のラスベガスではカジノ収益が伸びています。

 マカオは、中国本国の反腐敗政策により、VIP顧客の勘定がかなり減少していますが、マカオ政府は、いわゆる一般観光客の方に相当政策をシフトしており、観光客は相当ふえています(2年連続観光客三千万人達成)。すなわち、一般大衆の観光客は増えており、極めて健全なレベルになってきています。カジノ収益に関しても2016年8月以降は3ヵ月連続でプラスに転換しています。

 ラスベガスやマカオは、IR施設が全くないときに比べれば、はるかに地域の経済は活況になっています。特に、我が国の場合は初めてのケースになるわけですから、過当競争ということは全くないのであり、ビジネスとしては極めて有望であると考えられます。

3 IR成功の鍵

 最近の傾向では、IR統合リゾートとして、総合的なエンターテインメント施設として整備をし、シンガポールの例でいえば水族館や劇場があったり、ファミリー層も含めて幅広く観光客を引きつけるものが非常によい集客をしています。一方で、カジノに特化したようなところは少し厳しい状況にあります。

 シンガポールのマリーナ・ベイサンズの3つのホテル棟の上に船を乗せたようなプールの非常に特徴のある施設を含めて、統合リゾートとして特徴を出すことが鍵です。

 米国のニュージャージー州のアトランティックシティーは、カジノ施設、IRが乱立をして過当競争に陥りました。そこで、日本におけるIRの整備に当たっては、まず、その区域数を、最初はやはり2、3カ所からスタートをして、そして、その効果や課題を十分に認識して検証しながら着実に施行していき、段階的に、希望する自治体が出てくれば過当競争にならないように慎重に検討しながら数を増やしていく方向性が重要です。

 衆参の内閣委員会の附帯決議においても、「特定複合観光施設区域の数については、我が国の複合観光施設としての国際的競争力の観点及びギャンブル等依存症予防等の観点から、厳格に少数に限ることとし、区域認定数の上限を法定すること。」とされています。

 わが国ならでは、日本ならではのクールジャパンの発信、日本の伝統文化の発信であったり、あるいは、地方で地域の特色を生かしたIRであったり、外国人観光客にも日本の魅力を十分に伝えることができる、そうした施設が期待されます。

 この点、歌舞伎役者の市川染五郎氏が、平成27年8月に、ラスベガスのホテル『ベラージオ』(映画『オーシャンズ11』の噴水でも有名なホテルです。)の噴水の前で、歌舞伎の演武をして注目されました。

4 周辺地方公共団体への影響について

 IR推進法案の反対派から、『カジノ開設地における雇用や税収の増加は、「共食い」(カニバリゼーション)と呼ばれる周辺地域等からの所得(購買力)の移転によるものに過ぎず、国民経済的には「ゼロサム」に過ぎないのではないか。』、『観光客の消費はIR内に留まり、周辺地方公共団体には及ばないのではないか』との懸念が呈されています。

 本法案は特定複合観光施設区域の整備の推進によって、主として国際観光を振興することを目的とするものであり、周辺地域から所得を奪うものではありません。また、IRに来た観光客は、IR内に留まらず、周辺地域も含めた回遊型の観光をすることが期待されます。すなわち、スピルオーバー効果(拡散効果)があるものと考えられます。

 もとより、IRの設置にあたっては、当該IRが設置される地方公共団体だけでなく、周辺の地方公共団体の協力が不可欠であり、周辺の地方公共団体にもプラスの経済効果をもたらすものであると考えられます。

 なお、平成28年12月13日の参議院内閣委員会で採択された附帯決議では、納付金の使途として、周辺地方公共団体等に十分に配慮した検討を行うこととされています。

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