◇SH1342◇日本企業のための国際仲裁対策(第49回) 関戸 麦(2017/08/10)

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日本企業のための国際仲裁対策

森・濱田松本法律事務所

弁護士(日本及びニューヨーク州)

関 戸   麦

 

第49回 国際仲裁手続の終盤における留意点(4)-ヒアリングの準備その4

2. ヒアリングの準備

(6) 参加者の決定

 仲裁手続は非公開であるため、関係者以外が傍聴することは基本的にはない。例外的に関係者以外の者が参加するためには、仲裁廷と、当事者双方の同意が必要である。ICC規則26条3項は、この点を明示している。

 当事者の関係者としてヒアリングに参加するのは、まず、代理人弁護士である。また、証人となる関係者も、当然参加する。ここまでは、必須の参加者である。

 それ以外に、当事者の役員又は従業員が参加するか否かは個別の判断である。当事者の役員又は従業員で証人とならない者は、基本的に傍聴人として参加するため、仮にこれらの者が参加しなくても、ヒアリングの手続に支障が生じることはない。

 当事者の役員又は従業員が参加することのメリットは、ヒアリングの状況を直接把握することができる点である。ヒアリングの状況については、第47回で述べたとおり、「live transcripts」と呼ばれる形で、一言一句調書に記録され、またその日のうちか遅くとも翌日にはこの調書を入手することができるものの、直接傍聴することには、ニュアンスを把握できるなどのメリットがある。

 但し、当事者の役員又は従業員がヒアリングに参加することについては、その場で、仲裁廷から発言を求められる可能性があることに留意する必要がある。例えば、予定していないにも拘わらず、いわば証人として、その場で事実関係について尋ねられる可能性が否定できない。その可能性は、ドイツ等の大陸法系の仲裁人の場合に相対的に高くなると言われている。

 当事者の役員又は従業員がヒアリングに参加することについては、この可能性も踏まえた上で、検討するべきである。

 もっとも、審理の対象となっている事実関係を直接経験していない役員又は従業員であれば、上記のように仲裁廷から事実関係を尋ねられることは考え難いため、ヒアリングに参加することに特に支障はない。

(7) ヒアリング前の会議又は電話会議

 ヒアリングに先立ち、仲裁人と当事者双方の代理人弁護士間で、ヒアリングの進行等について会議又は電話会議を行うことが一般的である。そこで決定又は確認する事項は、以下のようなものである。

  1. ・ ヒアリングの日時、場所
  2. ・ ヒアリングを行う会場と、仲裁人、申立人及び被申立人のそれぞれの各控え室の予約が完了していることの確認
  3. ・ プロジェクター、ビデオ会議システム等の利用する設備
  4. ・ 各日の開始時刻と終了時刻
  5. ・ ヒアリングの参加者名
  6. ・ 主張書面、証拠等の記録をヒアリング会場に用意する部数と、その用意をする責任者
  7. ・ 冒頭陳述(opening statement)の申立人及び被申立人の各所要時間
  8. ・ 尋問を行う証人名、尋問を実施する順序、尋問の各所要時間
  9. ・ 最終弁論(closing statement)を実施するか否かと、実施する場合には申立人及び被申立人の各所要時間
  10. ・ 通訳の要否と、必要な場合には通訳者の氏名
  11. ・ 速記官の業者名

 ヒアリングの進行の順序は、一般的には、①申立人の冒頭陳述、②被申立人の冒頭陳述、③申立人側の事実に関する証人(fact witness)の尋問、④被申立人側の事実に関する証人の尋問、⑤申立人側の専門家証人(expert witness)の尋問、⑥被申立人側の専門家証人の尋問であり、最終弁論を実施する場合には、⑦申立人の最終弁論、⑧被申立人の最終弁論がこれに加わる。

 ヒアリングにおける時間管理の方法としては、大きく分けて二通りがある。一つは、申立人及び被申立人に平等に時間を割り当て、その持ち時間のなかで、申立人及び被申立人が自らの判断で適宜冒頭陳述や、各尋問等に時間を割り当てていくというものである。他の一つは、冒頭陳述や、各尋問毎に、個別に申立人及び被申立人の各所要時間を定めるというものである。

 前者の、各当事者が適宜時間を割り当てる方法の場合、各当事者に裁量が確保されるというメリットがある一方、後半で尋問を行う証人について、時間不足が生じるおそれが生じる。また、冒頭陳述や各証人毎の所要時間の見通しが立ちにくく、その結果、ヒアリング全体の時間軸が見えにくくなるというデメリットもある。

 一方、後者の個別に所要時間を定める方法の場合、ヒアリング全体の時間軸は見えやすくなるものの、証人尋問が予想外の展開となり、追加の時間が必要になった場合等に、柔軟に対応しがたいというデメリットもある。

 但し、仲裁人は、当事者の基本的な権利である主張立証の機会確保(parties’ rights to present their cases)への配慮から、必ずしも時間管理を厳格に徹底する訳ではない。例えば、尋問時間が不足した場合には、合理的な必要性があれば、その延長は認められることが多いと思われる。実際、多くのヒアリングにおいては予備日が確保され、想定以上に時間が必要となった場合に備えている。

 なお、時間管理の厳格さについては、あくまでも一般論であるが、英国、米国等のコモンローと、ドイツ、フランス、日本等の大陸法との違いがあるといわれている。出身がコモンローの国である仲裁人は、出身が大陸法の国である仲裁人よりも、当事者の主張立証の機会確保をより重視し、そのための時間を十分に確保しようとする傾向があるといわれている。

 上記の時間管理の方法は、いずれであっても多少の手当をすることで(前者については、一応の目安となる所要時間を定めることで、後者については時間延長の余地を必要に応じて認めることで)、特段の支障なく利用可能である。

ヒアリング前の会議又は電話会議が行われた場合には、その結果を仲裁廷が、命令又は議事録等の形式で書面にまとめ、当事者に送付する。この書面の記載内容に沿って、ヒアリングは進められることになる。

(8) ヒアリング用の資料(Hearing Bundle等)の準備

 第46回で述べたとおり、国際仲裁の実務では、従前提出した主張書面、書証、陳述書、専門家意見書等を冊子にまとめ、仲裁人及び相手方当事者に送付する慣行が一般的である。この冊子は「Hearing Bundle」と呼ばれている。従前仲裁人及び相手方当事者に提出したものであるが、各人の便宜のため、改めて全部をまとめて提出するという慣行である。各当事者は、自らが提出した書類につきHearing Bundleを仲裁廷から求められた部数作成し、仲裁廷が定めた期限までに仲裁廷及び相手方当事者に送付するか、あるいは、ヒアリング会場に仲裁廷から求められた部数のHearing Bundleを持参する。

 Hearing Bundle以外にも、各当事者は、冒頭陳述を記載した書面、証人尋問の際に示す書証の冊子等も必要部数を準備し、ヒアリング会場にて仲裁廷及び相手方当事者に提供する。

以 上

 

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