◇SH0995◇日本企業のための国際仲裁対策(第23回) 関戸 麦(2017/02/02)

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日本企業のための国際仲裁対策(第23回)

森・濱田松本法律事務所

弁護士(日本及びニューヨーク州)

関 戸   麦

第23回 国際仲裁手続の序盤における留意点(17)-審理スケジュールの作成等

1. 仲裁廷成立後の最初の作業

 仲裁廷が成立すると、申立書(Request of Arbitration、Notice of Arbitration)、答弁書(Answer)等の一件書類が、仲裁機関から仲裁人に送られる。例えば、ICC(国際商業会議所)規則は、事務局は、事務局が求めた予納金が支払われていることを条件に、仲裁廷の構成後直ちに、一件書類を仲裁廷に送付しなければならないと定めている(16項)。

 また、仲裁手続で使用する言語が定まっていない場合には(換言すれば、使用言語について当事者間の合意がない場合には、仲裁廷が使用言語を決定する。ICC規則は、その決定の際、仲裁廷が、契約書に使用されている言語を含む全ての事情を十分に考慮することを求めている(ICC規則20項)。言語の決定は、仲裁手続を進める前提として必要であるから、仲裁廷成立後に最初に行われる作業の一つである。

 そして、審理スケジュールが定められる。国際仲裁手続では、長期的なスケジュールを立てて、計画的に審理を進めることが一般的である。仲裁機関の規則において、この点に言及することもあり、例えばICC規則は、仲裁廷が、仲裁の遂行のために仲裁廷が従う手続予定を作成すると定めている(24.2項)。

 なお、日本の民事訴訟では、期日毎に、次回期日を設定し、書面の提出期限等を定めることが多い。法律上、計画審理という、長期的なスケジュールを立てる手続は設けられているものの(民事訴訟法147条の2及び3)、実務上は、ほとんど用いられていない。このように、長期的なスケジュールの有無という点において、国際仲裁と、日本の民事訴訟は異なっている。

 その他、ICCでは、付託事項書(Terms of Reference)が作成されるが、この点については、次回解説することとする。

 以下、スケジュールの項目、スケジュールの作成手続、スケジュールの変更の順に解説する。

 

2. 審理スケジュールの項目

 審理スケジュールの対象となるのは、基本的には、仲裁手続の全体である。第2回に、仲裁手続の流れについて説明したが、そのうち仲裁人選任以降の項目が、全て審理スケジュールの対象となり得る。

 但し、最初の段階で、具体的な日程をどの項目まで定めるかは、事案毎の判断である。例えば、管轄が争われる場合には、管轄の有無についての仲裁判断(Partial Award on Jurisdiction)の段階までに限って、具体的な日程を定める(換言すれば、本案(請求されている権利の存否)に関する主張書面の提出期限、ヒアリングの日程等は、当初の段階では定めない)ことがある。他方、手続のスケジュールを変動させうる不確定要素が少ない場合には、仲裁手続の最後、すなわち、最終的な仲裁判断(Final Award)の段階まで、具体的な日程を定めることもある。

 なお、審理スケジュールが固まると、仲裁廷からの命令(Procedural Order等)の形式で、文書化されることが一般的である。

 審理スケジュールの具体的な項目となるもの、換言すれば、Procedural Order等の文書の項目となるものは、次のようなものである。

  1. • 管轄の争いに関するもの
  2. ➢ 被申立人(Respondent)からの主張書面(Statement of Challenge on Jurisdiction)の提出期限
  3. ➢ 申立人(Claimant)からの反論書面(Reply on Jurisdiction)の提出期限
  4. ➢ 被申立人からの再反論書面(Rejoinder on Jurisdiction)の提出期限
  5. ➢ 管轄の争いについてヒアリングを実施するかについて、各当事者が意見を述べる期限
  6. ➢ 管轄の有無に関する仲裁判断(Partial Award on Jurisdiction)の期限
     
  7. • 本案の主張に関するもの
  8. ➢ 申立人からの主張書面(Statement of Claim)の提出期限
  9. ➢ 被申立人からの反論書面(Statement of Defence)の提出期限
  10. ➢ 申立人からの再反論書面(Statement of Reply)の提出期限
  11. ➢ 被申立人が反対請求(counterclaim)を申し立てている場合には、これに関する被申立人の主張書面(Statement of Counterclaim)の提出期限等
     
  12. • 本案の立証に関するもの
  13. ➢ 相手方当事者による文書提出の要求(Request for Production of Documents)の期限
  14. ➢ 上記要求に対する反論(Comments or Objections to Request for Production of Documents)の期限
  15. ➢ 文書提出の要求に対する仲裁廷の判断の期限
  16. ➢ 事実に関する証人の陳述書(factual witness statements)の提出期限
  17. ➢ 専門家証人の意見書(expert reports)の提出期限
     
  18. • ヒアリングに関するもの
  19. ➢ ヒアリングで反対尋問(cross examinations)を希望する証人を、各当事者が指定する期限
  20. ➢ ヒアリング前の会議(pre-hearing review meeting)の日程
  21. ➢ ヒアリングの日程
  22. ➢ ヒアリング後に最終主張書面(Post-Hearing Brief、Post-Hearing Memorials)を提出する期限
     
  23. • 最終的な仲裁判断に関するもの
  24. ➢ 最終的な仲裁判断(Final Award)の期限

 

3. 審理スケジュールの作成手続

 審理スケジュールの作成に際しては、仲裁廷と当事者双方とで会議を持つことが多い。この点ICC規則は、仲裁廷に、当事者と協議するための会議(「case management conference」と呼ばれる)を開催することを求めている(24.1項)。この会議は、直接顔を合わせる会議(face-to-face meeting)による場合のほか、テレビ会議又は電話会議で行うこともある(24.4項)。

 スケジュールの原案は、当事者が作成することもあれば、仲裁廷が作成することもある。当事者が作成する場合、まずは、当事者双方が協議を行い、合意を試みる。合意ができれば、それが基本的にスケジュールとなるが、合意ができなければ、当事者がそれぞれのスケジュール案原案を提案し、仲裁廷がこれらを踏まえて、スケジュールを定める。

 これに対し、仲裁廷が作成する場合には、基本的に仲裁廷が示した案によってスケジュールが定まるが、仲裁廷は作成にあたり、当事者双方に意見を求めなければならない(ICC規則24項参照)。

 

4. 審理スケジュールの変更

 一旦定めた審理スケジュールが、変更されることもある。スケジュールの変更は、手続の遅延に繋がりかねないため、望ましくない面はあるものの、合理的理由がある場合には、変更は認められうる。

 スケジュールの変更は、仲裁廷がその権限によって行えるが、当事者双方に意見を求めた後でなければならない(ICC規則24.3項参照)。

以 上

 

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