◇SH0411◇銀行員30年、弁護士20年 第55回「人の話をよく聴く」 浜中善彦(2015/08/28)

法学教育そのほか未分類

銀行員30年、弁護士20年

第55回 人の話をよく聴く

弁護士 浜 中 善 彦

 

 銀行員の仕事はお金を媒介にした人間関係であり、人の悩みとは関係ない。しかし、弁護士は、人間関係の紛争の解決のための存在である。弁護士は、聖職者、医師と並んでプロフェッションとして、悩みを持つ人のよき相談相手であることが求められている。そのためには、相手の話をよく聞き、できるだけ、その悩みを共有しようとする努力が必要である。相手の話を聞いて、それを単に法律用語に翻訳すればいいというものではない。

 

 法律家が解決できることはきわめて限られているのであり、法的解決がすべてではない。たとえば、離婚についていえば、法律問題としての論点は決まっている。子供がいれば親権が問題になる。いい悪いは別にして、よほど特殊な事情がない限り、実務では親権は母親のものというのがほぼ確立している。そうすると、残った法律問題は、養育費、財産分与と慰謝料だけである。養育費も、裁判所が作成した算定表がスタンダードになっているので、事案ごとにほぼ定型的に答えが出る。財産分与と慰謝料は個別案件ごとに異なるので、親権や養育費の場合のようにはいかない。しかし、その場合も、具体的な解決は、当事者の職業や収入、財産の状況等によるから、ある程度見当がつく。これらの問題について当事者間で合意ができれば、離婚事件は、法的には解決したことになる。この場合、法律が解決できるのは、親権の問題を除けばもっぱら財産問題だけである。相続の問題であれば、法律的には、もっぱら、財産関係の解決だけである。

 

 しかし、これらの事件では、当事者にとっては、それで一件落着とはいかない場合が多い。それは、それぞれの事件における当事者の感情的な問題である。言い換えると、心の問題といってもいい。実は、当事者にとっては、財産問題もさることながら、それを超えた心の問題の方が大きな問題なのである。しかし、それについて法律や法律家は何の役にも立たない。私は、離婚や相続の問題を引き受ける場合には、必ず、事前にそのことを依頼者に話すことにしている。心の問題については、法律家は役に立たないこと、それは、依頼者自身の問題として、依頼者自身で解決してもらうしかないということである。
 しかし、そのことは、依頼者の個別の事情や気持を聞く必要がないということではない。逆に、それだからこそ、依頼者のそういった気持をよく聞くことが大事である。確かに、いくら聞いたところで、当事者でない他人である弁護士が本人と同じ気持になったり、本人の気持ちを理解したりできるとは思わない。だから、貴方の気持ちは分かるけれども、などといって説得しようとは思わない。しかし、他人の悩みに真摯に耳を傾け、向き合おうとすることで、依頼者の気持ちが多少とも楽になることはあるように思う。

 

 しかし、そのことは、弁護士は依頼者のいいなりになればいいということではない。事件の解決のためには、依頼者に譲歩を求め、説得をする必要がある場合も少なくない。依頼者の話をよく聞くということと、言いなりになるということとは違う。民事事件の場合、一方の言い分だけが正当であり、他方の言い分はまるきり理由がないということは、ほとんどない場合が多い。説得をするということは、考え方の違う相手を言い負かすことではない。相手の言い分も認めながら、すわりのいい結論に導くことが大事である。そのためには、依頼者の気持を法律問題には関係ないといって切り捨てたりしないで、十分に話を聞くことが大事である。その方が、遠回りのように見えて、無用な時間を使わなくて済む。決して、論理的に論駁して、説得しようなどと考えないことが大事であると思う。

以上

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