◇SH1035◇実学・企業法務(第28回) 齋藤憲道(2017/02/27)

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実学・企業法務(第28回)

第1章 企業の一生

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

(4) 情報(知的財産、経営情報)

1) 知的財産権

⑴ 産業政策における知的財産制度
 知的財産制度は1624年の英国専売条例[1]以降、各国の産業の基盤の役割を果たしてきた。知的財産の保護期間は長期化する傾向[2]にあり、保護対象の範囲は徐々に拡大[3]している。
 知的財産の創造活動が産業界にイノベーションをもたらして、経済発展の重要な原動力になるという認識が世界に広まり、各国が、研究開発等の創造活動を促進するとともにその成果物を保護する政策を採るようになっている[4]
 私的独占・不当な取引制限・不公正な取引方法は、多くの国で、独占禁止法により禁じられているが、知財制度はその例外とされている。

  1. 〔日本の独占禁止法21条〕[5]
    この法律の規定は、著作権法特許法実用新案法意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。

 今日のビジネスでは、企業が所有する知的財産の競争力の優劣が、その企業の市場競争力に大きな影響を与えるが、各国政府が知的財産権を保護する範囲は、各時代の社会の要請によって変動してきた。
 例えば、米国では、知的財産権の保護を強化して産業の育成を図るプロパテント政策と、公共の利益を優先して知的財産権の保護範囲を狭くするアンチパテント政策が繰り返されてきた。1865年の南北戦争で北部(プロパテントの自由経済主義)が勝利した後にプロパテント政策が進められたが、1929年の大恐慌以降は独占禁止法の規制が強化されて知的財産の保護が抑制的になり、その後、1982年に日本企業に市場で押されていた米国産業の競争力強化を図る目的でプロパテント政策が実施された。1980年代には、知的財産権が侵害されたと主張する米国企業が高額の損害賠償を請求する訴訟が多発し、日本企業が高額の賠償金・和解金を支払うケースが出現した[6]
 これに対して日本の多くの企業が知財重視の経営を指向し、従業員の創造活動を督励して、開発成果物を積極的に特許出願する等している。
 一方、当局に審査登録して権利が付与される特許権等と並んで、メーカーが営業秘密として管理している技術情報(ノウハウ)も、企業の市場競争力の有力な源泉になっている。 日本では、その技術情報がしばしば不正な手段で流出して社会が注目する事件[7]になり、その都度、同じ事件の再発を防ぐ範囲に限って、法的保護の強化が少しづつ繰り返された。
 企業の技術情報は、従業者や退職者等を介して無断で、外国の競争相手・外国の政府機関(その機関を経由して当該国の国営企業等に流出すると、市場で競合する)等に流出することがあり、多くの国が、営業秘密の国外漏洩について国内漏洩よりも重罰を科している。日本の不正競争防止法も2015年改正で、国外流出の処罰を加重した。

  1. (注) 大量破壊兵器等に関する一定の機微な技術を海外に持ち出すことは、外為法でも規制される。同法は、企業に厳格な安全保障貿易管理を求めており、違反者には刑事罰が科される。
  1. 〔日本における知的財産権の法的保護の強化〕
     1998~99年に、特許法・実用新案法・意匠法・商標法が改正され、民事訴訟手続の容易化規定(逸失利益の立証容易化・積極否認・インカメラ手続・計算鑑定人制度・裁判所による相当の損害額認定等)が導入された。同様の制度が、2003年の不正競争防止法改正による営業秘密の保護強化でも採り入れられている。
     また、特許法等の刑事罰の最高刑は、制定当初は懲役3年であったが、順次、加重されて2006年には10年とされた。
     知財関連法には、刑罰(罰金刑)を行為者とその所属法人に科す両罰規定[8]が導入されている。
     なお、米国には、特許権侵害行為に対する刑事罰はないが、日本にはない民事訴訟の懲罰的損害賠償(3倍賠償)制度が存在する[9]


[1] 最初の特許制度は1474年のベネチア共和国発明者条例とされるが、他国への法継受が観察されるのは英国専売条例とされる。                         

[2] 知財特許制度が確立された初期の特許保護期間はイギリス14年間・ロシア6年間・プロシア5年間だった(「知的財産の歴史と現代」石井正著 発明協会)が、現在は多くの国で出願から20年とされている。

[3] 現在の特許には、医薬、バイオテクノロジー、遺伝子技術、デジタル・コンピューター技術、プログラム・ソフトウェア等が含まれている。

[4] 2007年6月ドイツ・ハイリゲンダムG8サミット共同宣言。中国も「自主創新」を推進する手段として知財制度を整備している。

[5] なお、公正取引委員会「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」参照。

[6] 例えば、AF(自動焦点)特許権侵害により米国ハネウェル社が日本のミノルタを提訴し、約166億円の和解金が支払われた(1992年3月)。

[7] IBMの機密情報を不正に入手したとして、1982年に米国で日立製作所(5名)と三菱電機(1名)の日本人社員が逮捕された。民事でも日立製作所はIBMに高額を支払うことで和解した (1989年) 。新日鐵住金が、韓国POSCOが方向性電磁鋼板に係る技術情報を不正に取得・使用したとして986億円の損害賠償請求訴訟を起こし(2012年)、300億円で和解した(2015年)。東芝が、韓国SKハイニックス社がNAND型フラッシュメモリの技術情報を不正に取得・使用したとして約1,100億円の損害賠償請求訴訟を起こし(2014年)、約330億円で和解した(2014年)。

[8] 例えば、特許法201条、不正競争防止法22条

[9] 米国特許法284条

 

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