◇SH1063◇最一小判 平成28年12月19日 不動産取得税還付不許可決定処分取消請求事件(木澤克之裁判長)

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1 事実の概要

 本件は、土地の取得に対する不動産取得税を納付した被上告人が、当該土地上に建築された複数棟の建物につき同税が減額されるべき住宅に該当するとして、東京都都税条例(昭和25年東京都条例第56号。以下「本件条例」という。)48条の4に基づき不動産取得税の還付を求める申請をしたところ、東京都都税総合事務センター所長(以下「処分行政庁」という。)からこれを還付しない旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたため、上告人を相手に、本件処分の取消しを求める事案である。

 

2 関係法令の定め、事実関係の概要等

 (1) 地方税法(以下「地税法」という。)73条の24第1項1号及び本件条例48条1項1号は、土地を取得した日から2年以内に当該土地の上に住宅(以下「特例適用住宅」という。)が新築された場合には、所定の方法によって算出した額の不動産取得税を減額する旨を規定している(以下「本件減額規定」という。)が、平成11年法律第15号による改正により設けられた地税法及び本件条例の附則は、一定の期間に限って上記の新築期間を3年以内に延長し、さらに、平成16年政令第108号による改正により設けられた地税法施行令(以下「施行令」という。)附則6条の17第2項は、①当該特例適用住宅が居住の用に供するために独立的に区画された部分(以下「独立区画部分」という。)が100以上ある共同住宅等であって(以下、この要件を「戸数要件」という。)、②土地を取得した日から当該共同住宅等が新築されるまでの期間が3年を超えると見込まれることについてやむを得ない事情があると道府県(地税法1条2項により都を含む。)知事が認めた場合には、新築期間を4年以内に延長する旨を規定している。

 (2) 被上告人は、平成20年3月19日、武蔵野市内の土地(以下「本件土地」という。)を買い受け、同22年3月9日、A株式会社に対し、本件土地を代金73億円で売却し、同社は、同24年3月5日、本件土地上に建築された6棟から成る各建物(以下「本件各建物」という。)について表示に関する登記(同年1月30日新築を原因)を得た。そこで、被上告人は、平成24年6月13日、本件土地の取得に対する不動産取得税の還付を求める旨の申請をしたが、処分行政庁から還付しない旨の本件処分を受けたため、東京都知事に対する審査請求を経た上で、本件訴えを提起した。

 (3) 本件各建物は、被上告人が本件土地を取得してから3年を超えて4年以内に新築されたため、本件減額規定の適用を受けるためには、施行令附則6条の17第2項の戸数要件及びやむを得ない事情に係る要件を満たす必要があるところ、本件各建物はそれぞれ構造的に独立した建物(特例適用住宅)であり、その戸数はいずれも100に満たないものであったため、本件では主に戸数要件の対象となる独立区画部分が100以上ある共同住宅等につき1棟の建物ごとに判断すべきか否かが争われた。

 

3 原々審及び原審の判断

 原々審は、特例適用住宅の意義を規定した施行令39条の2の3第1項各号の規定振りや日本語の用例に鑑みると、戸数要件を満たすか否かは1棟の共同住宅等について判断すべきであるとして、被上告人の請求を棄却した。

 これに対し、原審は、特定適用住宅の新築に係る不動産取得税の還付の制度は、一定の居住性を備えた住宅の供給を促進することを目的とすることに照らし、共同住宅等が1棟であるか複数棟であるかで違いがあるとはいえず、戸数要件につき、1棟の共同住宅等ごとに判断されるべきことは法令の文言上明示されていないなどとして、複数棟の共同住宅等で合計100以上の独立区画部分がある場合にも適用されるとして、原々審判決を取り消し、被上告人の請求を認容すべきものとした。

 

4 本判決の判断の概要

 本判決は、まず、地税法73条の14第1項は、施行令附則6条の17第2項に定める戸数要件の対象となる共同住宅等につき、「共同住宅、寄宿舎その他これらに類する多数の人の居住の用に供する住宅」と規定し、同法73条4号は、住宅につき、「人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分」と定義しているから、施行令附則6条の17第2項の共同住宅等は家屋に含まれると解されるとし、地税法73条3号は、家屋につき、「住宅、店舗、工場、倉庫その他の建物をいう。」と定義しているところ、ここでいう建物は、屋根及び周壁又はこれらに類するものを有し、土地に定着した建造物であって、その目的とする用途に供し得る状態にあるものをいい、別段の定めがない限り、1棟の建物を単位として把握されるべきであるとした。

 そして、本判決は、施行令附則6条の17第2項の共同住宅等に関して定められた戸数要件を充足するか否かの判断においても、別段の定めがない限り、1棟の共同住宅等を単位とすべきであるところ、これと別異に解すべきことを定めた規定や複数棟の共同住宅等を合わせて戸数要件を判断することを前提とした規定が存在しないことに照らすと、1棟の共同住宅等ごとに判断することが予定されているというべきであるとした上で、本件各建物は、1棟ごとの独立区画部分がいずれも100未満であって戸数要件を満たさないから、本件処分は違法であるとはいえないと判断した。

 

5 説明

(1) はじめに

 地税法及び施行令は、施行令附則6条の17第2項の戸数要件を充足するか否かの判断対象となる共同住宅等の棟数について明文の規定を設けていない。上告人は、戸数要件にいう共同住宅等は1棟の居住部分の戸数が100以上あるものをいう旨の通達(不動産取得税課税事務提要(平成22年4月1日21主資固第145号))を発出しているが、この点について具体的に論じた文献等は見当たらない。

(2) 租税法の解釈の在り方について

 一般に、租税法は侵害規範であり、法的安定性の要請が強く働くから、その解釈は原則として文理解釈によるべきであり、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されないと解されており、この点は判例・学説上も異論はみられない(最二小判昭和48・11・16民集27巻10号1333頁、最三小判平成22・3・2民集64巻2号420頁(ホステス報酬計算期間事件)、最二小判平成27・7・17集民250号29頁。金子宏『租税法〔第21版〕』(弘文堂、2016)115頁)。

 もっとも、規定の文理上その意味を直ちに明らかにすることができない場合において、規定の趣旨目的をどの程度考慮し得るかという点については、学説上は、文理解釈によって規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合に規定の趣旨目的に照らして意味内容を明らかにすべきとする考え方(前掲・金子115、116頁)が有力である(藤谷武史「租税法令の解釈方法」税研178号(2014)23頁)が、論者によって規定の趣旨目的を考慮し得るとする幅は異なり、必ずしも一致している状況にはない(占部裕典「租税法における文理解釈の意義」「『文理解釈』の意義」『租税法における文理解釈と限界』(慈学社出版、2013)2~48頁、1029~1045頁)。判例は、規定の文理を忠実に解釈したもの(最二小判平成23・2・18集民236号71頁(武富士事件)、前掲・最三小判平成22・3・2など)、規定の趣旨を踏まえて解釈したもの(最二小判平成18・6・19集民220号539頁(ガイアックス事件)、最二小判平成24・1・13民集66巻1号1・6頁(養老保険契約保険料控除事件)など)の双方があり、その原則的な立場を明らかにしていないが、租税法律主義の趣旨に照らし、文理解釈を基礎とし、規定の文言や当該法令を含む関係法令全体の用語の意味内容を重視しつつ、事案に応じて、その文言の通常の意味内容から乖離しない範囲内で、規定の趣旨目的を考慮することを許容しているように思われる。

(3) 本判決の戸数要件の解釈の方法

 本判決は、まず、戸数要件の対象となる共同住宅等について定義した地税法73条の14第1項の規定や、不動産取得税に関して住宅や家屋の定義をした同法73条の3・4号の規定を踏まえると、家屋は建物に含まれるものと解されるとした。そして、ここでいう建物の意味内容及び把握の単位に関する本判決の判示は、不動産登記法の建物と同一の内容をいうものである(不動産登記規則111条、法務省民事局編『不動産登記実務〔5訂版〕』(法曹会、1997)81、82頁)が、不動産取得税にいう家屋が不動産登記法の建物の意義と同一であることは各種の文献等でも異論はみられず、本判決も詳細な説示をしていない。この点については、地税法は、不動産取得税の課税標準につき、不動産を取得した時における不動産の価格とし、その価格は、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については当該価格により、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産については総務大臣の定める固定資産評価基準により、それぞれ決定する旨規定している(73条の13第1項、73条の21第1項、2項)ところ、家屋に関する固定資産課税台帳(家屋課税台帳、家屋補充課税台帳)には不動産登記法所定の建物の所在地、家屋番号、建物の種類、構造及び床面積等を登録すべきものとしていること(381条3項、4項、不動産登記法44条1項各号、地税法施行規則14条、第25号様式)などからすれば、固定資産税にいう家屋は不動産登記法にいう建物と意義を同じくすることが予定されており、不動産取得税にいう家屋も同様であると理解することができる(最二小判昭和59・12・7民集38巻12号1287頁参照)。

 総務大臣による各都道府県知事宛て通知(「地方税法の施行に関する取扱いについて(都道府県税関係)」(平成22年4月1日総税都第16号総務大臣通知))も、不動産取得税における家屋の範囲は、固定資産税にいう家屋又は不動産登記法上の建物の意義と同一であり、屋根及び周壁を有し、土地に定着した建造物であって、その目的とする用途に供し得る状態にあるものをいうとしている(第5章第1の2(2))。

 以上からすれば、地税法73条3号の家屋は1棟の建物を単位として把握すべきであり、施行令附則6条の17第2項の共同住宅等に関して定められた戸数要件を充足するか否かの判断においても、別段の定めがない限り、1棟の共同住宅等を単位とすべきであるとし、これと別異に解すべきことを定めた規定がないことなどに照らし、戸数要件を充足するか否かは1棟の共同住宅等ごとに判断すべきであるとした本判決は、地税法及び施行令の関連規定や他の関連する法令の規定を踏まえると、規定の文理の意味内容として自然かつ合理的な解釈であると考えられる。このような解釈の方法は、前記(2)の租税法規の解釈の在り方にも整合しているといえよう。

 立法の経過をみても、施行令附則6条の17第2項の規定は、マンションの高層化、大規模化が進み、新築期間が3年を超えるもののうち100戸以上の大規模なマンションがそのほとんどを占めていた状況を受けて、平成16年政令第108号による改正によって設けられたものであり、複数棟を合計して判断することを前提とした検討がされた形跡がうかがわれないことからすれば、立法担当者は複数棟の共同住宅等を合わせて戸数要件を判断することまでは予定していなかったように思われる。

 

6 本判決の意義

 本判決は、土地の取得に対する不動産取得税の減額規定の適用を認める戸数要件の解釈につき、最高裁が判断を示したものであるが、施行令附則6条の17第2項の規定が設けられた上記の趣旨目的を考慮すると、本件減額規定の趣旨を戸数要件の解釈にそのまま及ぼすことは困難であると考えられ、本判決が文理解釈によって規定の意味内容を明らかにすることができる場合に規定の趣旨目的を考慮すべきでないとしたものとはいえないが、規定の趣旨目的に依拠することなく、その文理解釈によって規定の意味内容を明らかにすることができるとしたものと位置付けられよう。また、本判決は、租税法規の解釈に当たり、規定の文理が妥当する範囲内において、当該法令の構造を踏まえ、当該条文のみならず、当該法令の関連規定や他の関連する法令の規定をも考慮して、その意味内容を明らかにしたものであり、租税法規の解釈の在り方を示した判例として、実務上も参考になるものと考えられる。

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