◇SH3494◇最一小判 令和2年7月2日 通知処分取消等請求事件(深山卓也裁判長)

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 制限超過利息等についての不当利得返還請求権に係る破産債権が破産手続により確定した場合において当該制限超過利息等の受領の日が属する事業年度の益金の額を減額する計算方法と一般に公正妥当と認められる会計処理の基準

 法人が受領した制限超過利息等(利息制限法所定の制限利率を超えて支払われた利息及び遅延損害金)を益金の額に算入して法人税の申告をし、その後の事業年度に当該制限超過利息等についての不当利得返還請求権に係る破産債権が破産手続により確定した場合において、当該制限超過利息等の受領の日が属する事業年度の益金の額を減額する計算をすることは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったものとはいえない。

 法人税法22条2項、法人税法(平成30年法律第7号による改正前のもの)22条4項

 平成31年(行ヒ)第61号 最高裁令和2年7月2日第一小法廷判決 通知処分取消等請求事件 破棄自判(民集74巻4号1030頁)

 原 審:平成30年(行コ)第21号 大阪高裁平成30年10月19日判決
 第1審:平成28年(行ウ)第68号 大阪地裁平成30年1月15日判決

1 事案の概要

 本件は、平成24年に破産した貸金業者(株式会社クラヴィス)の破産管財人が、破産手続において過払金返還債務が確定したため、当該債務の発生原因となった制限超過利息等につき、これを受領した時(平成7年度~10年度及び平成12年度~17年度の各事業年度。なお、平成11年度については資料が破産管財人の手元になかったためか、除かれたようである。)に遡って、その所得がなかったものとして計算し直すと、それらの年度において申告した益金の額が過大であったことになるなどと主張して、後発的事由に基づく法人税の更正の請求をしたところ、所轄税務署長から更正をしない旨の処分(本件各通知処分)を受けたことから、国に対し、本件各通知処分の一部の取消しを求める(主位的請求)とともに、国は上記各事業年度における法人税相当額(合計約66億円)を不当に利得していると主張して、不当利得返還請求権に基づき、そのうち2億5000万円の返還を求めた(予備的請求)事案である。

 クラヴィス株式会社は、昭和50年に「リッチ株式会社」として設立され、その後、「ぷらっと」「クオークローン」「タンポート」等の商号を用いて関西地区を中心に消費者金融業を営んできた貸金業者である。平成19年に全店舗を閉店したこともあり、平成24年の破産手続開始決定時における負債総額(破産債権)の大半は消費者が有する過払金返還請求権であった。

 本件における破産管財人(原告、被上告人)の意図は、上記の更正を受けることによって、納付済みの法人税につき国から約66億円の還付を受け、破産債権者に対して配当を行うことにあったようである(詳しくは、破産管財人が管理するウェブサイトを参照されたい。http://www.clavis-kanzai.jp/)。

 

2 前提となる制度の枠組み

 関係法令の定めは判決文中でも紹介されているが、前提となる制度の枠組みは次のとおりである。

(1)法人税法は、法人の事業年度ごとに益金と損金の額を計算し、これを差し引きした金額(所得)を課税標準として、法人税を課税する。

 益金と損金の額の決定方法に関しては、法人税法を含む関係法令に様々な規定が置かれているが、法人税法は、それら個別の規定がないものについては、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(公正処理基準)に従って計算すべきである旨を定めている(法人税法22条4項)。この規定は、昭和42年の法人税法改正における法人税課税の簡素化の一環として、法人税課税をできる限り法人企業会計と整合的に行うために設けられた規定であり、法人の会計処理が一般に公正妥当と認められる会計処理の公準に従ったものであれば、法人税課税においてもこれを尊重すべき趣旨から規定されたものと解されている。

 そのため、やや大雑把にいうと、関係法令に特別の規定がない限り、一般に公正妥当と認められる企業会計に基づき収益として計上されたものは法人税法上も益金として扱い、また、同様に損失として計上されたものは法人税法上も損金として扱うことが承認されているものといえる。

(2)では、本件で問題となった過払金は、どのように扱われるか。

 いわゆる過払金は、利息制限法所定の制限利率を超えて受領された金員であり、みなし利息等の要件を満たさない限り、私法上は不当利得として取り扱われるべきものである。もっとも、多くの場合、貸金業者がこれを受領した時点では返還の必要性が債務名義等によって確定されているわけではない。そのため、これが法人税法上の益金に当たるか否かについては疑義があった。

 この点につき、判例は、利息制限法所定の制限を超過した私法上無効な違法利得は、未収分については収益実現の蓋然性がないから被課税所得を構成しないが、既収分については経済的利益が担税力を認め得る程度に支配享受された状態に達したものとして課税対象となると判断した(最三小判昭和46・11・9民集25巻8号1120頁)。

 そのため、いわゆるグレーゾーン金利について過払金返還義務を命じた平成18年最判が出る前はもちろん、これが出た後も、受領した過払金については、これを収益として計上する会計処理が広く行われ、法人税課税においても益金として申告するのが正当な処理であるとされてきた。

 したがって、本件の破産者が本件各事業年度において過払金を益金として申告し、これを前提として計算された法人税を納付したこと自体に誤りがあったわけではない。

(3)本件で問題となったのは、その後の事業年度において、実際に過払金の返還をすることとなった場合における法人税法上の取扱いである。

 まず、企業会計上の取扱いはどうなるか。この点については、過払金の返還によって法人から財産が流出する以上、これを損失として計上すべきであることは明らかである。もっとも、企業会計は、一般に、事業年度ごとに区切って収益や損失を計算し、監査や承認等を経て確定した上、配当等の利益分配を事業年度ごとに確定的に行うことを前提としていると考えられるため、収益として計上した過払金を事後に返還することが確定したからといって、これを既に終了した事業年度(過年度)の損失として処理することは望ましいものとはいえない。そのため、財産が流出した(あるいは、流出することとなった)事業年度の損失として計上することが一般的である(このような計上方法を前期損益修正という。)。

 このような考え方は企業会計原則の基本ともいえるものであり、多くの法人が採用している会計処理であるから、法人税法上も、前期損益修正が公正処理基準に該当することはほぼ異論がないものといえる(本判決と結論を異にした原判決も、少なくとも法人が破産していない平常時については、このこと自体は認めている。)。

 では、そのような一般的な会計処理と異なり、実際に過年度の企業会計をやり直した場合(注:本件で破産会社が具体的にどのような手続でやり直しを行ったのかはよく分からないが、原判決は、過年度の会計が実際にやり直されたことを前提に判断をしているようである。)、過年度の益金を減額することも法人税法22条4項にいう公正処理基準に合致した計算方法に当たるといえるか。

 仮にこれが認められるとすると、国税通則法23条1項、2項に基づく後発的事由に基づく更正の請求が認められる余地が出てくることとなる。そのため、本件では上記の点が中心的に争われた(本件の争点に関する参考文献として、①田中治「貸金業者の過払金返還債務と更正の請求の可否」滝井繁男先生追悼『行政訴訟の活発化と国民の権利重視の行政へ』(日本評論社、2017)380頁、②三木義一「判例分析ファイルその63 前期損益修正と更正の請求」税経通信平成17年4月号(2005)231頁、③渡辺淑夫『法人税解釈の実際 重要項目と基本通達』(中央経済社、1989)204頁、④中里実「過払税額に関する不当利得返還請求」NBL985号(2012)19頁・小池信行「課税の対象となった経済的成果が後に失われた場合の是正のあり方――貸金業者が借主に制限超過利息を返還した場合を手掛かりとして――」同28頁等がある。)。

 

3 訴訟の経過

 1審(判タ1458号139頁)は、過払金につき不当利得返還義務を負うことが判決等で確定した場合には、制限超過利息等の受領時に遡って益金を減額するのではなく、当該確定額を当該返還義務が確定した事業年度の損失とすべき(前期損益修正)であり、これは法人が破産した場合でも異ならないから、本件各通知処分が違法であるとはいえないとして、主位的請求を棄却し、また、国に不当利得があるともいえないとして、予備的請求も棄却した。

 これに対し、原審(判タ1458号124頁)は、前期損益修正のみが公正処理基準に合致すると解するのは相当ではなく、過年度の会計処理を修正することも公正処理基準に合致するといえるし、今後収益を上げることを期待できない破産法人について前期損益修正をしても、法人税の還付を受けられる見込みはない一方、上記会計処理に基づく益金減額修正によって還付金を受け、これを原資として配当を行うことは破産手続の目的に照らして合理的であるとして、主位的請求を認容した(予備的請求については判断する必要がないとした。)。

 本判決は、最高裁が、前記判決要旨のとおり判断して、本件のような場合に過年度の益金の額を減額することは公正処理基準に合致した計算方法ということはできないから、益金が減額されることを前提とした更正の請求はそもそも理由がないとして、原判決を破棄した上、主位的請求と予備的請求を棄却した1審判決を正当として、控訴を棄却する旨の自判をしたものである。

 

4 解説

(1)判決理由について

 本判決は、①企業会計が損益計算を事業年度に区切って行い、過去の損益計算を遡ることを予定していないものであり、法人税法もこれを前提に法人税を課税しているため、本件のような場合には前期損益修正が公正処理基準に合致する計算方法であるといえること、②法人税法は事業年度を跨いだ課税の調整を特別に定められた要件と手続の下においてのみ行っていること、③上記のような課税の調整の在り方は法人が破産した場合でも同様であるところ、本件のような場合に事業年度を跨いだ課税の調整を行う旨の規定はないこと、④企業会計上、過年度の収益を減額させる計算をすることが公正妥当な会計慣行として確立されているとはいえないことを理由の骨子としている。

 上記骨子のうち①、②、④は、いずれも法人税法の通説的な解釈に基づくものであるか、あるいは、一般に異論のないと思われることを述べたものであり、特に目新しいものとは思われない。

 むしろ、本判決のポイントは、本件のように破産手続開始決定によって企業活動の継続性がなかば失われた場合であっても上記のような解釈が妥当することを指摘した③にあり、破産手続において確定した破産債権に対する配当の原資とすることを前提としてされた更正の請求であるからといって、特別な取扱いが許容されるものではないことを確認した点にあるといえよう。

 この点に関する原告(被上告人)の主張は、要するに、過年度に受領した制限超過利息等に対応する過払金返還債務を特定することができる場合には、当該制限超過利息等を支払った破産債権者に対して、更正請求の結果として得られる還付金を原資とした配当を行うことが衡平であるし、法人が既に破産している以上、事業年度で区切って損益の計算をする意味も乏しいから事業年度を跨いだ益金の再計算も許容されるというものであると解される。

 しかし、これを理由に、過年度に受領した収益についての事業年度を跨いだ調整を法解釈(公正処理基準の解釈・適用)によって認めるとすれば、破産手続開始決定を受けた場合に後発的事由に基づく更正の請求が認められる余地が格段と広がるおそれがある上、長期間が経過した後(本件では最長で約17年が経過している。)になって納付済みの法人税についての還付が認められることとなれば、法的安定性への影響は大きいであろう。本判決の判断の背景には、おそらくこのような考慮もあるのではないかと思われる。

(2)同種先例との関係

 同種事例に関する裁判例として、東京高判平成26・4・23訟月60巻12号2655頁がある。

 その事案は、本件と同様に、貸金業者である貸金業者(旧武富士)が制限超過利息等を益金の額に算入して法人税の確定申告をしていたところ、その後に会社更生手続が開始され、約1兆3800億円の過払金返還請求権に係る更生債権が確定したことから、管財人が、益金の額に算入された金額のうち上記更生債権に対応する制限超過利息等に係る部分は過大であったと主張して更正の請求をしたというものであり、手続が会社更生手続であった点と、会計処理を遡及的に修正したという主張まではされていなかった点を除くと、本件の主位的請求とほぼ同じ請求がされた事案であったといえる。

 同裁判例は、「前期損益修正の処理は、法人税法22条4項に定める公正処理基準に該当すると解される一方、本件更生会社について、これと異なり過年度所得の更正を行うべき理由があるとはいえず、(中略)、本件更生会社について、更生会社一般において特段の手当がされていない前期損益修正の処理と異なる処理を行うべき理由は見いだし難い」として、上記更正の請求につき更正をすべき理由がない旨の通知処分に違法があるとはいえないと判示した(その後、最高裁における上告棄却兼上告不受理決定により確定)。

 上記事案は、再建型手続であるものの、認可された更生計画において将来解散することが定められており、いわゆる継続企業の公準が妥当しにくい事案であるという点では、清算型手続である本件と似ていたといえる。貸金業者が過払金を返還する際に事後的な更正の請求を認めなかった点で、本件は上記裁判例と軌を一にするものといえよう。

(3)会計処理を遡って修正しない場合

 本判決の要旨は、過年度の会計を遡って修正する処理を実際に行ったか否かを問題としていないように見える。

 したがって、本件のような場合に過去の事業年度における益金の額を遡って減額する計算をすることは、実際に会計処理を遡って修正したか否かに関わらず、公正処理基準に合致した計算方法ということはできず、更正の請求が認められないとするのが本判決の立場のようである。

(4)前期損益修正の具体的な方法

 本判決は、本件のような場合に過去の事業年度の益金の額を減額することが公正処理基準に合致すると判断した原判決を破棄したものであり、判決要旨もその点の判断のみにとどまっている。

 そのため本判決は、前期損益修正の方法が公正処理基準に合致する旨の判断を判決理由中で述べてはいるものの、具体的にどのような前記損益修正の方法を採るべきかについてまで確定したものとは思われない。

 例えば、ある事業年度において過払金を返還することが確定し、その次の事業年度において実際に返還するという事態が実務上は発生し得るが、その場合に、過払金返還債務が私法上確定した事業年度の損失とすべきか、実際に返還をした事業年度の損失とすべきか、という点については、本判決においては何ら判断がされていないものと解される。

 上記の点については、当該法人が実際に行った会計処理が公正処理基準に合致したものといえるか否かという観点から個別に判断すべきこととなろう。

(5)予備的請求(不当利得返還請求)について

 本判決は、本件各事業年度についての各申告により確定された法人税額が過大であったとはいえず、国が各事業年度の法人税を保持することについて、法律上の原因がないとはいえないとして、予備的請求を棄却すべきである旨の自判もしている。

 更正の請求によらない納付済み税金の不当利得返還請求の可否については、貸倒れという後発的事由が生じた場合に不当利得返還請求を認容した最二小判昭和49・3・8民集28巻2号186頁がある。もっとも、同判決は、貸倒れという後発的事由が生じた場合に更正の請求を認める昭和37年改正後の所得税法27条の2及び10条の6(それぞれ現行所得税法152条及び64条に対応)が創設されてはいたものの、経過規定により適用されなかったという特殊な事案に関するものである。そのこともあってか、更正の請求手続が整備された現在において更正の請求によらずに不当利得返還請求が認められるのは、同請求権を行使できないことが著しく不当であって、正義公平の原則にもとる場合に限られるものと解されている(武田昌輔監修『DHCコンメンタール 国税通則法』(第一法規、1982)1469頁参照)。

 本件のような場合に不当利得返還請求を認める余地があるか否かについては、これを肯定する文献も公表されていたところである(前掲中里・小池等)。

 これに対し、本判決は、過払金返還請求権に係る破産債権であることなど、諸事情を総合考慮してもなお、管財人が不当利息返還請求権を行使できないことが著しく不当であって、正義公平の原則にもとるものとはいえないものと判断したものと思われる。

 

5

 本判決を受けて、破産者の破産手続は令和2年9月25日に破産手続終結決定がされたようである(http://www.clavis-kanzai.jp/20201012.pdf)。

 本判決は、貸金業者が破産手続開始決定を受け、破産手続において過払金返還債務に係る破産債権が確定した場合における公正処理基準の解釈・適用の在り方について、最高裁が初めて判断を示したものであり、実務上も理論上も、大変参考になると思われる。

 

 

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