◇SH3775◇最一小判 令和3年3月11日 法人税更正処分取消請求事件(深山卓也裁判長)

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  1. 1  利益剰余金と資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当はその全体が法人税法(平成27年法律第9号による改正前のもの)24条1項3号に規定する資本の払戻しに該当するか
  2. 2  法人税法施行令(平成27年政令第142号による改正前のもの)23条1項3号の規定のうち資本の払戻しがされた場合の当該払戻し直前の払戻等対応資本金額等の計算方法を定める部分の法適合性

  1. 1  利益剰余金と資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当は、その全体が法人税法(平成27年法律第9号による改正前のもの)24条1項3号に規定する資本の払戻しに該当する。
  2. 2  法人税法(平成27年法律第9号による改正前のもの)24条1項に規定する株式又は出資に対応する部分の金額の計算方法について定める法人税法施行令(平成27年政令第142号による改正前のもの)23条1項3号の規定のうち、資本の払戻しがされた場合の当該払戻し直前の払戻等対応資本金額等の計算方法を定める部分は、利益剰余金及び資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当につき、当該払戻しにより減少した資本剰余金の額を超える当該払戻し直前の払戻等対応資本金額等が算出される結果となる限度において、同法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効である。

 (1、2につき)
 法人税法(平成27年法律第9号による改正前のもの)23条1項1号、23条の2第1項、24条1項3号
 (2につき)
 法人税法(平成30年法律第7号による改正前のもの)24条3項、
 法人税法施行令(平成27年政令第142号による改正前のもの)23条1項3号

 令和元年(行ヒ)第333号 最高裁令和3年3月11日第一小法廷判決
 法人税更正処分取消請求事件 上告棄却 民集登載予定

 原 審:平成29年(行コ)第388号 東京高裁令和元年5月29日判決
 第1審:平成27年(行ウ)第514号 東京地裁平成29年12月6日判決

1 事案の概要等

 内国法人である被上告人(X)は、平成24年4月1日から同25年3月31日までの連結事業年度(以下「本件連結事業年度」という。)において、被上告人が本件連結事業年度を通じてその出資の持分の全部を保有している米国デラウェア州リミテッド・ライアビリティ・カンパニー法(以下「LLC法」という。)に基づき組成された外国子会社であるA社から、資本剰余金を原資とする剰余金の配当(以下「本件資本配当」という。)及び利益剰余金を原資とする剰余金の配当(以下「本件利益配当」といい、本件資本配当と本件利益配当を併せて「本件配当」という。)を受け、本件資本配当は法人税法(平成27年法律第9号による改正前のもの。特に断らない限り、以下同じ。)24条1項3号の「資本の払戻し(剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)のうち、分割型分割によるもの以外のものをいう。)」(以下、単に「資本の払戻し」という。)に、本件利益配当は同法23条1項1号の「剰余金の配当(株式又は出資に係るものに限るものとし、資本剰余金の額の減少に伴うもの及び分割型分割によるものを除く。)」にそれぞれ該当するとして、本件連結事業年度の法人税の連結確定申告(以下「本件申告」という。)を行った。

 これに対し、所轄税務署長は、本件配当は効力発生日が同一日であることなどから、利益剰余金及び資本剰余金の双方を原資とする剰余金の配当(以下「混合配当」ともいう。)であり、その全額が法人税法24条1項3号に規定する資本の払戻しに該当するとして、更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。

 本件は、被上告人が、本件更正処分のうち連結所得金額が本件申告に係る金額を超え、翌期へ繰り越す連結欠損金額が本件申告に係る金額を下回る部分の取消しを求める事案である。

 

2 関係法令の定めと事実関係の概要

 関係法令の定め及び事実関係の概要については、判決文及び後記5を参照されたい。ここでは、争点との関係でその概略のみを判決文中の略語を用いて説明するにとどめる。

  法人税法23条1項1号は内国法人から受ける「剰余金の配当(……資本剰余金の額の減少に伴うもの……を除く。)」の額につき、その全部又は一部の益金不算入を定める。同法23条の2等は外国子会社から受ける上記剰余金の配当の額について、その95%の益金不算入を定める。

  法人税法24条1項3号は、「資本の払戻し(剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。……))が払戻法人の株式等に対応する部分の金額(「株式対応部分金額」)を超えるときは、同法23条1項1号の剰余金の配当とみなす旨を定める(いわゆる「みなし配当」)。なお、みなし配当の額に算入されなかった配当額は、同法61条の2第1項の有価証券の譲渡に係る対価の額となり、原価の額との差額が有価証券の譲渡損益となる。

  法人税法施行令(平成26年政令第138号による改正前のもの)23条1項3号は、法人税法の委任を受けて株式対応部分金額の計算方法について定め、次の【式1】によって求められる「直前払戻等対応資本金額等」に株式保有割合を乗じて株式対応部分金額を計算する(ただし、本件のA社はいわゆる完全子会社に相当するため、直前払戻等対応資本金額等=株式対応部分金額となる。)。

 

【式1】

 

  ただし、「施行令規定割合」(【式1】の分数部分)の分母である「簿価純資産価額」が直前資本金額より少額である場合(簿価純資産価額は通常「資本金等の額+利益積立金額」であるため、利益積立金額がマイナスの場合ということになる。)、減少資本剰余金額を超える直前払戻等対応資本金額等が算出され、利益剰余金と資本剰余金の双方を原資とする配当(混合配当)のうち利益剰余金を原資とする部分の一部がみなし配当金額に算入されないこととなる。

 本件では、A社の簿価純資産価額(9768万4743.50ドル)が減少資本剰余金額(1億ドル)を下回り、直前払戻等対応資本金額等(2億1105万7771.56ドル)が本件資本配当の額(1億ドル)を上回っており、上記の場合に当たる。

 

3 本件の争点

 ⑴ 争点①

 本件においては、まず、本件更正処分のとおり本件配当全体について法人税法24条1項3号が適用されるのか、それとも本件利益配当については同法23条1項1号が適用されるのかという点が争われた。これは、混合配当は、その全体が法人税法24条1項3号の資本の払戻しに該当するかという法令解釈の問題〔争点①-1〕と、仮にこれが肯定されるとしても、本件の事実関係等の下で、本件配当全体が資本の払戻しに該当することとなるか、又は本件資本配当は資本の払戻しに、本件利益配当は同法23条1項1号の剰余金の配当にそれぞれ該当することとなるかという問題〔争点①-2〕を含んでいる。

 ⑵ 争点②

 また、本件配当全体が法人税法24条1項3号の資本の払戻しに該当するとしても、法人税法の委任を受けて定められた法人税法施行令23条1項3号の規定に従って本件配当のみなし配当金額を計算すると、前述のとおり、A社の簿価純資産価額が直前資本金額を下回っていたこと等から、本件配当のうち利益剰余金を原資とする部分の一部がみなし配当金額ではなく有価証券の譲渡に係る対価の額に算入されることとなる。本件更正処分もその計算結果に基づいているが、このような計算結果となる同号の規定が法人税法の委任の範囲を超えず、適法なものといえるか否かが争われた。

 

4 訴訟の経過

  原審は、争点①-1について、大要以下のとおり判断し、Xの請求を認容すべきものとした。

 法人税法24条1項3号の資本の払戻しとは、その文理からすれば、「資本剰余金の額の減少によって行う剰余金の配当」、すなわち、「資本剰余金を原資とする配当」をいうものと解すべきである。そうすると、資本剰余金及び利益剰余金の双方を原資として配当が行われた場合には、資本剰余金を原資とする配当には同号が、利益剰余金を原資とする配当には同法23条1項1号がそれぞれ適用されることになる。もっとも、この場合であっても、いずれの配当が先に行われたとみるかによって課税関係に差異が生ずるようなときには、例外的に、配当全体が資本の払戻しと整理され、同法24条1項3号の規律に服すると解されるが、本件は上記の差異が生ずる場合ではない。したがって、本件資本配当には同号が、本件利益配当には同法23条1項1号がそれぞれ適用されることとなる。

  これに対し、上告人(Y・国)が上告受理の申立てをした。これに対し、最高裁第一小法廷は、上告受理の申立てを受理した上で、争点①-1及び争点②について、判決要旨のとおり判断し、本件更正処分は違法であるとして、Yの上告を棄却した。

 

5 法人税法における基本的な概念とみなし配当

 ⑴ 資本金等の額と利益積立金額

 法人税法は、法人の財産について、株主拠出部分(本判決にいう資本部分)である資本金等の額(2条16号、法人税法施行令8条)と、法人稼得利益のうち留保している部分(本判決にいう利益部分)である利益積立金額(2条18号、法人税法施行令9条)を定め、これらをしゅん別している。

 そして、法人税法は、会社から株主等に対して会社財産の払出しがされた場合の株主等に対する課税については、原則として、①それが資本金等の額から払い出されたものであれば、株主等にとってそれは株主拠出部分の払戻しに該当するので、それ自体は株主の所得を構成せず、配当として扱わない、②それが利益積立金額から払い出されたものであれば、それは法人が稼得した利益を分配するものであるから、配当として株主レベルで課税の対象とする(ただし、法人株主については、後述 ⑵ のとおり益金不算入等の別段の定めがある。)としている。

 法人税法上の「資本金の額」は会社法上の「資本金」の借用概念であると解されるが、法人税法上の「資本金等の額」と会社法上の「資本金+資本剰余金(資本準備金+その他資本剰余金)」とは、その性質は類似しているが、その額は必ずしも一致せず、また、法人税法上の「利益積立金額」と会社法上の「利益剰余金(利益準備金+その他利益剰余金)」の額も必ずしも一致しない。税法上の区別とは異なり、会社法上の資本剰余金や利益剰余金には、法人が株主等から出資を受けた資本部分と、法人がその事業活動により稼得した利益部分の双方を含み得る概念となっている。

 ⑵ 受取配当の益金不算入

 ア 内国法人たる法人株主が「剰余金の配当(……資本剰余金の額の減少に伴うもの……を除く。)」を受けるときは、その配当等の額のうち、完全子法人株式等及び関連法人株式等に係るものは、当該法人株主の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しないものとされている(法人税法23条1項1号)。

 受取配当は、企業会計上は収益であり、法人税法22条2項により益金の額に算入すべき金額である収益の額に当たるが、同項の別段の定めに当たる同法23条1項1号により、その全部又は一部が益金に算入されない。このように益金不算入とされるのは、法人が稼得した利益は、それが法人株主に配当されたとしても、(さらにその法人の株主に配当されるなどして)最終的には個人株主に配当として帰属することとなるから、最初の利益を稼いだ法人の段階で1回、最終的に個人株主に分配された段階でもう1回課税するという二段階で課税する考え方を前提として、その中間にある法人株主が受け取った配当等については、支払法人の段階で既に法人税が課されているため、法人所得に対し何回も重複して課税すること(多重課税)を避けるために益金不算入とするものであるなどの説明がされている(金子宏『租税法〔第23版〕』(弘文堂、2019)369頁、武田昌輔編著『DHCコンメンタール 法人税法』(第一法規、1979)1202頁等)。

 ここにいう「剰余金」、「剰余金の配当」は会社法からの借用概念であるとされており、同法446条にいう剰余金及び同法453条にいう剰余金の配当と同義であり、上記の「剰余金」は、会社計算規則76条5項2号の「その他利益剰余金」と同条4項2号の「その他資本剰余金」を指すものと解される(会社計算規則76条4項、5項等。前掲金子『租税法〔第23版〕』201頁。なお、この点は、後記 ⑶ の法人税法24条1項3号においても同様である。)。

 イ 上記の法人税法23条1項は内国法人から配当等を受ける場合についての規定であるが、平成21年税制改正において同法23条の2が導入され、内国法人が外国子会社から同法23条1項1号所定の剰余金の配当を受けるときは、その額から当該額に係る費用の額に相当するものとして政令で定めるところにより計算した金額(法人税法施行令22条の4第2項により5%相当額)を控除した金額(すなわち95%相当額)は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入されないものとされた(同法23条の2第1項)。これは、外国子会社利益の国内還流に向けた環境整備として、外国子会社から受ける配当について適切な二重課税の排除を維持しつつ制度を簡素化する観点、企業の配当政策の決定に対する税制の中立性の観点から導入されたものであるなどと説明されている(前掲武田『DHCコンメンタール 法人税法』1253の4頁)。

 なお、上記の外国子会社は、大要、当該外国法人の発行済株式等のうち当該内国法人が保有する割合が25%以上であり、その状態が剰余金の配当等の額の支払義務が確定する日以前6月以上継続しているものであり(法人税法施行令22条の4第1項)、本件のA社はこれに当たる。

 ウ また、法人税法23条1項1号の剰余金の配当が行われた場合には、当該配当を行った法人において、その配当に係る金額が利益積立金額から減算される(法人税法施行令9条1項8号)。

 ⑶ みなし配当課税

 ア 法人税法24条1項はいわゆるみなし配当課税について定めており、その一つとして、法人の株主等である内国法人が、「資本の払戻し(剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)のうち、分割型分割によるもの以外のものをいう。)」により金銭の交付を受けた場合において、その金銭の額が「当該法人の資本金等の額……のうちその交付の基因となった当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額」(株式対応部分金額)を超えるときは、その超える部分の金額は、法人税法23条1項1号に掲げる金額とみなされることとされている(同法24条1項3号)。その結果、そのみなし配当金額は全部又は一部が益金不算入となる。

 法人税法24条1項のみなし配当は、法人がその留保している利益を実質的に株主等に帰属させる場合(又は帰属させると観念できる場合)に、その部分を配当等とみなすことにより、適正な課税を実現しようとするものであるなどと説明されている。

 イ (ア) 法人税法24条1項3号のみなし配当の額の算定に必要となる株式対応部分金額の計算方法については、政令に委任されており(同条3項)、資本金等の額と利益積立金額が比例的に払い出されたとするいわゆるプロラタ計算を行うこととされている。

 まず、法人税法施行令23条1項3号は、株式対応部分金額は、払戻法人の直前払戻等対応資本金額等を当該払戻法人の当該払戻等に係る株式の総数で除し、これに金銭の交付を受けた内国法人が当該直前に有していた当該払戻法人の当該払戻し等に係る株式の数を乗じて計算される金額(すなわち、直前払戻等対応資本金額等のうち金銭交付を受けた内国法人の所有株式に対応する部分)とする。

 (イ) 次に、同号は、直前払戻等対応資本金額等は、前記【式1】の算式で算出するものとする。

 これは、直前資本金額(法人税法施行令23条1項3号では連結個別資本金等の額と併せて「直前資本金額等」とされている額。)のうち、払い出された(減少した)資本剰余金の額が簿価純資産価額に占める割合(施行令規定割合)を乗じた部分が、資本金等の額から払い出されたものと捉えるものであると理解することができる。

 ここで、施行令規定割合が最大でも1となることとされているのは、後記のとおり、資本の払戻しが行われると払戻法人の資本金等の額から直前払戻等対応資本金額等を減算するため、直前払戻等対応資本金額等が直前資本金額を上回ると、減算の結果、資本金等の額がマイナスとなることがあり、あたかも将来資本の払戻しのような事態を招くこととなるため、直前払戻等対応資本金額等の上限を直前資本金額とするためであるなどと説明されている。

 また、上記の簿価純資産価額は、前期期末時の資産の帳簿価額から負債の帳簿価額を減算した金額(前期期末時から当該払戻しの直前の時までの間に資本金等の額等が増減した場合には、その増加した金額を加算し、又はその減少した金額を減算した金額。ただし、後記 (ウ) 参照)であり、基本的には直前の資本金等の額と利益積立金額の合計額と等しいため(岡村忠生『法人税法講義〔第3版〕』(成文堂、2007)393頁)、【式1】は【式2】のとおり表すことができる。

 

【式2】

 

 そうすると、前記の算式は、以下の【式3】と表すこともできる。これは、税務上の利益積立金額を有する会社(すなわち課税済み留保利益を有する会社)が、資本剰余金のみを原資とする配当を行ったとしても、税務上は、このプロラタ計算により、資本金等の額と利益積立金額の双方から比例的に配当がされたものとみなして、後者から配当されたとみなされた額について株主レベルで配当課税が行われることを意味し(太田洋「マイナスの「資本金等の額」、「資本積立金額」および「利益積立金額」」西村あさひ法律事務所編『グローバリゼーションの中の日本法』(商事法務、2008)99頁)、税務上は、課税済み留保利益を有する会社が資本金等の額のみを払い戻すことを認めないという効果を有する(藤井誠「減資に関わる課税関係の検討」日税76号(2019)95頁(109頁))。そして、この按分計算により、配当に関する租税法上の出所が一種の割り切りによって決定されたことになるなどと説明されている(渡辺徹也『スタンダード法人税法』(弘文堂、2018)172頁)。

 

【式3】

 

 また、【式3】のとおり、減少資本剰余金額に、簿価純資産価額の中の資本金等の額の割合を乗じて直前払戻等対応資本金額等ひいては株式対応部分金額を算出するため、混合配当の場合、利益積立金額がプラスの値であれば、【式3】の分数が1以下となり、株式対応部分金額が資本剰余金を原資とする部分の配当の額(減少資本剰余金額)を超えることはない。したがって、混合配当のうち利益剰余金を原資とする部分は全てみなし配当となる。

 ただし、利益積立金額がマイナスであるために上記【式3】の分数の分子が分母を上回り、その値が1を超える場合には(本件はこれに該当する。)、直前払戻等対応資本金額等が減少資本剰余金額を上回ることがあり得る(直前資本金額が減少資本剰余金額を上回る場合)。その結果、混合配当が法人税法24条1項3号の資本の払戻しに該当するとしてみなし配当金額を計算すると、利益剰余金を原資とする部分の一部分が株式対応部分金額に含まれることとなり、その一部分はみなし配当金額には算入されないこととなるが、その法適合性が争点②の問題である。

 (ウ) 上記のとおり、簿価純資産価額は、前期期末時の資産の帳簿価額から負債の帳簿価額を減算した金額をベースとし、前期期末時から当該払戻しの直前の時までの間に「資本金等の額等」が増減した場合には、その増加した金額を加算し、又はその減少した金額を減算した金額であるが、この前期期末時以降に加味される増減額は資本等取引(法人税法22条5項)による変動に限定され、いわゆる損益取引による純資産価額の変動は考慮されない。これは、日々行われる損益取引による純資産価額の変動を把握するためには仮決算及び中間申告(法人税法72条)を要するところ、もともと一種の仮定計算にすぎないプロラタ計算のために仮決算及び中間申告の義務を課すことは法人に対する過重な負担となると考えられたためであるようである。これに対し、会社法上は、臨時決算をすることにより、最終事業年度末日から臨時決算日までの期間に生じた損益取引による変動を分配可能額に組み入れることができることとなる(同法441条、461条2項2号イ、同項5号)。したがって、会社法上の臨時決算は行ったものの法人税法上の中間申告を行わなかった場合には、税法上の簿価純資産価額には反映されていない損益を加味した上で剰余金の配当が行われる事態が生じ得る。

 判決文記載の事実関係のとおり、A社は、本件配当直前に子会社B社から利益の配当として本件配当の額と同額の送金を受け、これを原資として本件配当を行った。しかし、上記送金は年度途中のものであったため上記の簿価純資産価額の算定に当たり考慮されず、A社の本件配当直前の資本金等の額は簿価純資産価額を上回っていた。A社は我が国会社法上の株式会社ではないが、これを株式会社に当てはめれば利益積立金額がマイナスの状態であったといえるであろう(以下、A社の「利益積立金額がマイナス」であったとは、上記の意味において使用するものである。)。

 (エ) 法人税法24条1項3号の資本の払戻しが行われた場合には、払戻法人において、資本金等の額に配分される金額(直前払戻等対応資本金額等。ただし、資本の払戻し等により交付した金銭等の額を上限とする。)が資本金等の額から減算され(法人税法施行令8条1項16号)、利益積立金額に配分される金額(みなし配当金額相当部分)が利益積立金額から減算される(同施行令9条1項11号)。つまり、その配当の原資が上記の計算によって直前の資本金等の額と利益積立金額とに比例的に配分され、直前払戻等対応資本金額等に相当する部分は資本金等の額からの払出しと、みなし配当金額に相当する部分は利益積立金額からの払出しとみなされることとなる。

 ⑷ 有価証券の譲渡損益

 内国法人が法人税法24条1項3号の資本の払戻しである剰余金の配当により交付を受けた金銭の額のうち、みなし配当金額を除いた金額については、同法61条の2第1項1号の有価証券の譲渡に係る対価の額として認識され、当該有価証券に係る原価の額との差額である譲渡利益額又は譲渡損失額が、当該内国法人の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入されることとなる(同項)。

 上記差額を求める際の有価証券に係る原価の額は、資本の払戻しの場合には、資本の払戻しの直前の所有株式の帳簿価額に施行令規定割合を乗じて計算した金額である(法人税法61条の2第17項、法人税法施行令119条の9第1項)。本件においては、施行令規定割合は1であり、A社に対する出資の帳簿価額全額が上記有価証券に係る原価の額になる。

 

6 争点①-1について

 ⑴ 問題の所在

 法人税法は、23条1項1号及び23条の2において「剰余金の配当(……資本剰余金の額の減少に伴うもの……を除く。)」の全部又は一部を益金不算入とする一方で、24条1項3号において、資本の払戻しすなわち「剰余金の配当(資本剰余金の減少に伴うものに限る。)」についてはその一部をみなし配当とすることとしているため、混合配当の場合にその全体に同号が適用されるのか(以下「全体適用説」という。)、それとも利益剰余金を原資とする部分には23条1項1号等が、資本剰余金を原資とする部分には24条1項3号がそれぞれ適用されるのか(以下「分離適用説」という。)が問題となった。

 ⑵ 立案作業担当者の解説等

 青木孝徳ほか『改正税法のすべて 平成18年版』(大蔵財務協会、2006)においては、混合配当を行った法人の資本金等の額及び利益積立金額の減少額について、「資本剰余金と利益剰余金の双方を同時に減少して剰余金の配当を行った場合には、全体が資本の払戻しとなるものの、計算式の分数の分子が「交付した金銭の額及び金銭以外の資産の価額」ではなく「減少した資本剰余金の額」とされているため、資本剰余金の減少額の範囲内でまず資本金等の額が減少し、交付した金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額のうちその減少資本金等の額を超える部分の金額が利益積立金額の減少額(株主にとってはみなし配当の額)となる。つまり、資本剰余金原資部分は資本金等の額と利益積立金額との比例的減少と、利益剰余金原資部分は利益積立金額の減少となる」(256~257頁)とされている。また、法人税法24条1項3号の適用においても、全体適用説をとることが前提となっており、「払戻し原資が利益剰余金のみである場合には利益部分の払戻し(23条1項の配当等)と、払戻し原資に資本剰余金が含まれている場合にはそれ以外の払戻し(資本部分と利益部分の払戻し(24条1項3号のみなし配当))と規律することとした」(262頁)とされている。

 ⑶ 学説等

 学説上も、全体適用説に立つもの、又は全体適用説を当然の前提とした記述をするものが多く、例えば、園浦卓「資本剰余金と利益剰余金の双方を同時に減少して剰余金の配当を行った場合(混合配当)の課税関係に関する裁決事例」太田洋=伊藤剛志編『企業取引と税務否認の実務~税務否認を巡る重要裁判判例の分析~(大蔵財務協会、2015)は、混合配当について、分離適用説を採った場合には、利益剰余金を原資とする配当部分に関する利益積立金額の減算処理(法人税法施行令9条1項8号)と資本剰余金を原資とする配当部分に関する法人税法24条1項3号の適用によるみなし配当額の計算のどちらを先に行うかによって、税務上の配当として取り扱われる金額に差異が生ずるため、この先後関係の問題を解決するために、税制は混合配当を一律に資本の払戻しと整理することで問題の解決を図ったものとされているとし、全体適用説を採る(538頁)。

 ⑷ 本判決の立場

 ア 本判決は、争点①-1について、以下のとおり判断した(判決要旨1)。

 「平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)は、株主に対する会社財産の払戻しについて、利益の配当(290条1項)と資本の減少(375条1項1号)とを別個の手続としていた。平成18年法律第10号による改正(以下「平成18年改正」という。)前の法人税法は、この手続の違いに応じて、23条1項1号の利益の配当と24条1項3号の株式の消却を伴わない資本の減少による払戻しを区別していた。

 これに対し、会社法(平成17年法律第86号)は、旧商法における利益の配当については利益剰余金を原資とする剰余金の配当と、株式の消却を伴わない資本の減少による払戻しについては資本金を資本剰余金へ振り替えた上での資本剰余金を原資とする剰余金の配当とそれぞれ整理したため、両者は剰余金の配当(453条)という同一の手続により行われることとなった。そこで、平成18年改正後の法人税法においては、23条1項1号と24条1項3号の適用の区別につき、会社財産の払戻しの手続の違いではなく、その原資の会社法上の違いによることとされた。

 そして、会社法における剰余金の配当をその原資により区分すると、①利益剰余金のみを原資とするもの、②資本剰余金のみを原資とするもの及び③利益剰余金と資本剰余金の双方を原資とするものという3類型が存在するところ、法人税法24条1項3号は、資本の払戻しについて「剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)……」と規定しており、これは、同法23条1項1号の規定する「剰余金の配当(……資本剰余金の額の減少に伴うもの……を除く。)」と対になったものであるから、このような両規定の文理等に照らせば、同法は、資本剰余金の額が減少する②及び③については24条1項3号の資本の払戻しに該当する旨を、それ以外の①については23条1項1号の剰余金の配当に該当する旨をそれぞれ規定したものと解される。

 したがって、利益剰余金と資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当は、その全体が法人税法24条1項3号に規定する資本の払戻しに該当するものというべきである。」

 イ このように、本判決は、法人税法23条1項1号及び24条1項3号の文理やその沿革から、全体適用説を採用したものといえよう。

 

7 争点②について

 ⑴ 問題の所在

 法人税法施行令23条1項3号に定められた計算の方法によれば、利益積立金額がプラスである場合には、混合配当のうち利益剰余金を原資とする部分は全てみなし配当として扱うこととなる。しかしながら、本件のように、利益積立金額がマイナスであり、また、直前資本金額が減少資本剰余金額を上回る場合には、直前払戻等対応資本金額等が減少資本剰余金額を超えるため、利益剰余金を原資とする部分の一部分がみなし配当金額ではなく有価証券の譲渡に係る対価の額に算入されることとなる。

 法人税法施行令23条1項3号が、このように直前払戻等対応資本金額等が減少資本剰余金額を超える結果となり得る算定方法 (すなわち、混合配当のうち利益剰余金を原資とする部分の全部又は一部がみなし配当金額に算入されないこと) を定めていることが法人税法24条1項3号による委任の範囲を逸脱しているか否かが問題となった。

 ⑵ 委任命令と法律との関係

 ア 一般に、本来は法律によって定められるのが相当な事項であっても、専門技術的な事項は必ずしも国会の審議になじまず、また、状況の変化に対応した柔軟性を確保する必要があるものは法律で詳細に定めることが適当ではないため、そのような事項については、法律の委任に基づいて行政機関が規定(委任命令)を定めることが認められている。委任命令は、委任をした法律(授権法)に抵触していれば違法であり、委任に際して行政機関に裁量が認められている場合でも、当該裁量の範囲を逸脱すれば違法となるものと解されている(宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政法総論〔第6版〕』(有斐閣、2017)275、280頁)。

 イ 委任命令が授権法の委任の範囲内といえるか否かが問題になった最高裁判例においては、委任命令が授権法の委任の範囲内といえるか否かの判断要素として、①授権規定の文理、②授権法が下位法令に委任した趣旨、③授権法の趣旨、目的及び仕組みとの整合性、④委任命令によって制限される権利ないし利益の性質等が考慮されており(『最高裁判所判例解説民事篇平成25年度』20頁〔岡田幸人〕)、必要に応じて授権規定の立法過程における議論等も検討の対象とされている。そして、これらの諸要素等を総合的に考慮した結果、当該委任命令の規定が授権法の委任の範囲を逸脱するといえる場合には、当該規定は違法であり無効と判断されている。

 本件についても、上記の判断要素を検討し、授権規定である法人税法24条1項3号、同条3項が、混合配当が行われた場合において利益剰余金を原資とする部分の全部又は一部が資本金等の額からの払戻しとして認識されてみなし配当金額に算入されない結果となることを予定していないと解されるのであれば、法人税法施行令23条1項3号の規定は、直前払戻等対応資本金額等が減少資本剰余金額を超える結果となる限りで同法24条1項3号による委任の範囲を超えるものであるということができよう。

 ⑶ 本判決の立場

 ア 本判決は、まず、法人税法22条の規定について述べた上で、「株主等である法人が受け取る配当は、企業会計上は収益であるから、本来は課税の対象となるべきものであるが、二重課税の防止等の見地から、上記の別段の定めである同法23条又は23条の2の規定により、その全部又は一部が益金の額に算入されないこととされている。」、「また、同法は、法人の財産のうち株主等から出資を受けた部分(以下「資本部分」という。)に相当する資本金等の額(2条16号)と、法人がその事業活動により稼得した金額であって株主等に分配することなく留保している部分(以下「利益部分」という。)に相当する利益積立金額(同条18号)について、それぞれ政令でその算定方法を規定することとし(法人税法施行令8条、9条)、これらをしゅん別することを原則としている。」とし、法人税法が資本部分と利益部分をしゅん別しており、受取配当については、本来課税の対象となるべきものであるが、二重課税の防止等という、資本部分と利益部分のしゅん別とは別の観点から、全部又は一部を益金不算入とする制度を採っていることについて述べている。

 イ 次に、本判決は、「法人税法24条1項3号は、法人の株主等である内国法人が当該法人から資本の払戻しにより金銭の交付を受けた場合において、株式対応部分金額を超える部分をみなし配当金額とする。また、資本の払戻しを行った払戻法人においては、当該資本の払戻しの額のうち、直前払戻等対応資本金額等に相当する額が資本金等の額から減算され(法人税法施行令8条1項16号)、直前払戻等対応資本金額等を超える部分の金額(みなし配当金額)が利益積立金額から減算されることとされている(同令9条1項11号)。これらの規定は、資本剰余金のみを原資とする配当であっても実質的観点からは利益部分の分配が含まれているものと評価し得ることから、その全部又は一部を受取配当とみなすことにより、配当に係る課税の回避を防止し、適正な課税を実現することをその趣旨とするものであると解される。」として、法人税法24条1項3号の資本の払戻しの場合のみなし配当制度の趣旨について、前述のとおり、会社法上の資本剰余金と利益剰余金の概念と法人税法上の資本部分と利益部分の概念が全く一致するものではないことなどからすれば、資本剰余金のみを原資とする配当であっても実質的観点からは利益部分の分配が含まれているものと評価し得ることから、その全部又は一部を(本来は課税の対象となる)受取配当とみなすことにより適正な課税を実現することにあるとする。

 そして、本判決は、「他方において、利益剰余金にも資本部分が含まれている可能性は否定できないところである。しかし、旧商法上の利益の配当に関する税務上の扱いを定めていた平成18年改正前の法人税法23条1項1号は、旧商法の平成13年法律第79号による改正により資本準備金の取崩しをした上で資本剰余金を原資として利益の配当をすることが可能となった後も改正されることはなく、それが旧商法上の利益の配当の手続に基づいて行われる以上、実質的に資本部分の払戻しであっても通常の利益の配当と同様に受取配当として扱っていた。そして、会社法施行に伴う平成18年改正後の法人税法23条1項1号においても、利益剰余金のみを原資とする剰余金の配当については、これが全額課税の対象となり得ることを前提に、その全部又は一部を益金の額に算入しないこととし、また、法人税法施行令9条1項8号は、同法23条1項1号の剰余金の配当が行われた場合には、その配当に係る金額を当該配当を行った法人の利益積立金額から減算することとしており、その一部を資本部分の払戻しとして扱うこととはしていない。」として、会社法上の利益剰余金にも法人税法の資本部分が含まれている可能性はあるものの、法人税法が一貫して利益剰余金のみを原資とする剰余金の配当を資本部分の払戻しとして扱ってこなかったことについて述べている。

 ウ その上で、本判決は、「法人税法は、資本部分と利益部分とをしゅん別するという基本的な考え方に立ちつつも、会社財産の株主への払戻しについて、その原資の会社法上の違いにより23条1項1号と24条1項3号の適用を区別することとし、利益剰余金のみを原資とする払戻しは、23条1項1号により、資本部分が含まれているか否かを問わずに一律に利益部分の分配と扱った上でその全部又は一部を益金の額に算入しないこととする一方で、資本剰余金のみを原資とする払戻しは、24条1項3号により、資本部分の払戻しと利益部分の分配とに分け、後者の金額を23条1項1号の配当とみなすこととするという仕組みを採っているものということができる。」とした上で、混合配当の場合の法人税法24条1項3号の規定の解釈について、「利益剰余金及び資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当の場合には、そのうち利益剰余金を原資とする部分については、その全額を利益部分の分配として扱う一方で、資本剰余金を原資とする部分については、利益部分の分配と資本部分の払戻しとに分けることを想定した規定であり、利益剰余金を原資とする部分を資本部分の払戻しとして扱うことは予定していないものと解される。」とした。

 エ 以上の法人税法の解釈を前提として、本判決は、法人税法施行令23条1項3号の法適合性について、「法人税法24条3項の委任を受けて株式対応部分金額の計算方法について規定する法人税法施行令23条1項3号は、会社財産の払戻しについて、資本部分と利益部分の双方から純資産に占めるそれぞれの比率に従って比例的にされたものと捉えて株式対応部分金額を計算しようとするものであるところ、直前払戻等対応資本金額等の計算に用いる施行令規定割合を算出する際に分子となる金額を当該資本の払戻しにより交付した金銭の額ではなく減少資本剰余金額とし、資本剰余金を原資とする部分のみについて上記の比例的な計算を行うこととするものであるから、この計算方法の枠組みは、前記の同法の趣旨に適合するものであるということができる。しかしながら、簿価純資産価額が直前資本金額より少額である場合に限ってみれば、上記の計算方法では減少資本剰余金額を超える直前払戻等対応資本金額等が算出されることとなり、利益剰余金及び資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当において上記のような直前払戻等対応資本金額等が算出されると、利益剰余金を原資とする部分が資本部分の払戻しとして扱われることとなる。」、「そうすると、株式対応部分金額の計算方法について定める法人税法施行令23条1項3号の規定のうち、資本の払戻しがされた場合の直前払戻等対応資本金額等の計算方法を定める部分は、利益剰余金及び資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当につき、減少資本剰余金額を超える直前払戻等対応資本金額等が算出される結果となる限度において、法人税法の趣旨に適合するものではなく、同法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである。」として、判決要旨2のとおり判示したものである。

 

8 本判決の意義

 本判決は、法人税法上のみなし配当等の規定の解釈について明らかにしたほか、法人税法施行令23条1項3号の規定の一部につき、法人税法の趣旨に適合せず、違法、無効であると判断したものであって、理論上も実務上も重要な意義を有するものと考えられる。

 

 

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