◇SH3546◇タイ:法定利率に関する民商法改正 佐々木将平(2021/03/24)

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タイ:法定利率に関する民商法改正

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 佐々木 将 平

 

 タイでは、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大以降、景気の下支えのため、政策金利を過去最低水準である0.50%に据え置く低金利政策が採られている。他方で、民商法上の民事法定利率は、民商法制定当初から90年以上、年率7.5%に固定されたままで、実勢の金利水準との乖離が生じている。かかる乖離を是正すべく、法定利率を改正するための法案が閣議で承認された。

 

1. 法定利率の改定

 改正法における法定利率は年率3%で、経済情勢に応じて勅令により都度増減が行われることが明記された(改正民商法7条)。また、当該利率は、3年ごとに、預金金利及び商業銀行の貸出金利の平均値を考慮して、財務省による見直しが行われることとされている。

 

2. 遅延損害金に関する改正

 現行法では、金銭債務の履行遅滞に伴う遅延損害金の利率は、原則年率7.5%とされている。今般の改正では、法定利率が引き下げられたことを踏まえ、遅延損害金の利率は、法定利率に2%の上乗せを行った利率と改められた(改正民商法224条)。すなわち、改正法施行当初の法定利率は年率3%であるから、遅延損害金の利率は年率5%となる。また、法定利率の改定が行われれば、それに伴って遅延損害金の利率も改定されることとなる。なお、現行法同様であるが、法定利率以上の遅延損害金を請求できる正当な根拠のある場合には、法定の利率を超える利率の請求も認められる。

 

 また、改正法においては、分割払いに関する遅延損害金についても明確化が図られた。具体的には、改正法の下では、分割払いにかかる金銭債務の支払いを怠った場合に遅延損害金が発生するのは、(期限未到来の部分も含む残債務全額ではなく)当該期日における遅滞額のみであることが明記された(改正民商法224/1条)。もっとも、実務においては、支払遅延の際には残債務全体について期限の利益を喪失する旨の契約上の定めをおくことが一般的であり、改正法の下でも、かかる定めを設けることは妨げられないと解される。したがって、かかる期限の利益喪失に関する合意がある限りは、分割払債務の遅延に際して、残債務全額の期限の利益を喪失させ、残債務全額に対する遅延損害金を請求することも認められる。

 

3. 改正の効力発生日

 改正法は、官報に掲載され次第、即時に効力が発生することとされている。また、改正法の規制は、改正施行日以降に期限が到来する債務に対して適用される。

 


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(ささき・しょうへい)

長島・大野・常松法律事務所バンコクオフィス代表。2005年東京大学法学部卒業。2011年 University of Southern California Gould School of Law 卒業(LL.M.)。2011年9月からの約2年半にわたるサイアムプレミアインターナショナル法律事務所(バンコク)への出向経験を生かし、日本企業のタイ進出及びM&Aのサポートのほか、在タイ日系企業の企業法務全般にわたる支援を行っている。タイの周辺国における投資案件に関する助言も手掛けている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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