実学・企業法務(第37回)
第2章 仕事の仕組みと法律業務
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
Ⅱ 直接業務
(1) 5つの基本機能
1つの事業は、商品企画 → 開発・デザイン・設計 → 製造・調達 → 販売(営業) → 代金回収 という5つの基本機能を経て完結する。
それぞれの機能は、取り扱う商品の開発・生産リードタイム、生産方法、販売方法等に対応できるように構築(システム設計、組織編成等)され、これを効果的に運用するための条件が、取引契約・雇用契約・就業規則等の規定に反映される。
以下に、直接業務の5つの基本機能の内容と特徴を、法務の視点で示す。
1. 商品企画
商品企画では、誰に、何を、どの点を訴求して、販売・提供するかということを検討する。
最初は、自由な発想でコンセプトを型破りな範囲にまで広げ、徐々に実用的なコンセプトに収斂させていく。これには、独創的アイデアやセンスに基づく商品構想力と市場ニーズを発掘する創造力が必要だが、担当者間の力量差は大きい。ヒット商品が出ても、商品には寿命があり、いつまでも売れ続けるわけではない。商品の物理的・経済的な寿命とそれへの対応は、業界によってさまざまである。
衣料品では、春秋の上着・夏の水着や防暑服・冬のコート等の商戦で1年間のサイクルができている。デザインを競う服飾業界では、週単位で新商品を市場に投入し、売れ行きが芳しくない商品を迅速に店頭から撤去する企業もある。
家電業界では、春・夏・秋・クリスマス等の季節の節目やオリンピック・ワールドカップ等の世界的イベントに合わせて新製品が発売される。
24時間営業を基本とするコンビニ業界では、弁当等の食品について品質確保のための販売期限(時刻)を設けて[1]厳しく管理し、廃棄等する一方で、発注精度を向上し、売り切るための工夫を行っている。
素材・部品・医薬品等の場合は、商品の物理的・化学的な特性が重要で美的デザインの要素は少なく、商品ライフ・サイクルが比較的長い。しかし、素材・部品・医薬品等の開発には、材料の物性・加工性・工法・安全性等の総合的な研究・実験が必要で、長期にわたることが多い。
商品企画の優劣は販売高に直結して企業業績を大きく左右するので、企業では、新商品のヒット率を向上するための市場調査や、商品の販売寿命を長期化するための知財戦略の構築・実践等に取り組んでいる。
- (注) サービス業(運輸・介護福祉・学習支援等)の場合は、提供するサービスの内容・提供方法・提供態勢等の概要が商品企画の段階で構成される。
[1] 販売期限が迫った弁当等の値段を下げる「見切り販売」の是非をめぐって、一物一価をビジネスの基本とするコンビニ本部と、値引き販売しても廃棄を削減したい加盟店の間で紛争が生じ、公正取引委員会は本部側に対し、独占禁止法に基づく排除措置命令を発出した(平成21年6月22日)。