コメダホールディングス、株主総会における議決権行使の促進策を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 泉 篤 志
平成29年4月12日、株式会社コメダホールディングス(東証・名証第一部)(以下「コメダHD」)は、「当社株主総会における議決権行使の促進策に関するお知らせ」を公表した。その要旨は、広く株主の意見を株主総会に反映させることを目的として、議案の賛否に関わらず議決権を行使した株主に対して、謝礼として、株主優待向けプリペイドカード「KOMECA」に500円分のチャージをするというものである。
株主総会における株主の権利行使については、平成27年6月に施行されたコーポレートガバナンス・コードにおいて、「上場会社は、株主総会が株主との建設的な対話の場であることを認識し、株主の視点に立って、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備を行うべきである。」(原則1-2)とされており、その具体的な方策として、適確な情報提供(補充原則1-2①)、招集通知の早期発送(会社法299条1項参照)及びTDnetや自社のウェブサイトによる発送前開示(補充原則1-2②)、株主総会開催日等の日程の適切な設定(補充原則1-2③)、議決権の電子行使を可能とするための環境作り(議決権電子行使プラットフォームの利用等)や招集通知の英訳(補充原則1-2④)、信託銀行等の名義で株式を保有する機関投資家等(実質株主)による議決権行使等に関する検討が挙げられている(補充原則1-2⑤)。この他にも、従来からの議決権行使の促進策としては、出席株主へのお土産の配布、交通の便の良い会場選び、託児所の設置等も挙げられるところである。
今般コメダHDが採用した株主優待向けプリペイドカードへのチャージも、一般的に株主の議決権行使を促進する効果が期待されるものであり、基本的に上記コーポレートガバナンス・コードの趣旨に沿うものであると思われる。もっとも、株主提案権(会社法303条)が行使され会社提案議案と株主提案議案が競合し、委任状争奪戦が展開されているような状況においては、議決権行使を促すために粗品等を交付する行為は、会社提案に賛成した株主のみならず、株主提案に賛成した株主に対しても同一の粗品等を交付する場合であっても、会社提案に対する賛成票を増やす目的であるとして、会社法上禁止されている利益供与(会社法120条)であると解される可能性があるため、差し控えるべきであると考えられる[1]。
なお、コメダHDは、上記「当社株主総会における議決権行使の促進策に関するお知らせ」を公表した同日に、「株主優待制度の一部変更に関するお知らせ」を公表しており、優待内容及び有効期間の変更を行っている。一般的に株主優待制度は、安定株主・個人株主を増加させ、その株主総会への出席率を高める効果があるとされるが、上記粗品等の交付と同様に、株主提案がなされ委任状争奪戦に発展している中で、会社が株主優待制度の拡充を発表した場合には、利益供与の問題が発生し得るため慎重な検討が必要であると考えられる。
このように、株主総会における株主の権利行使を促進する方法には様々なものが存在するところ、場合によっては株主の権利行使に関する利益供与に該当する可能性もあることに留意しつつ、各社の状況に合わせて適切な方法を選択することが重要であることから、その契機となることを期待して本トピックを紹介した次第である。
株主の議決権行使の促進策 |
|
以 上
[1] 松山遥『敵対的株主提案とプロキシ―ファイト〔第2版〕』(商事法務、2012)101頁。東京地判平成19・12・6判タ1258号69頁参照。