◇SH1131◇法定相続情報証明制度開始に伴う不動産登記規則の改正 平井 太(2017/04/26)

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法定相続情報証明制度開始に伴う不動産登記規則の改正

岩田合同法律事務所

弁護士 平 井   太

 

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 平成29年5月29日から「法定相続情報証明制度」が開始され、これに伴い、不動産登記法規則(以下、「規則」という。)が改正される。

 この法定相続情報証明制度(以下、「本制度」という。)とは、被相続人及び全相続人の戸籍謄本一式(以下、単に「戸籍謄本一式」という。)及び相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図、いわゆる「家系図」のようなもの。)を登記所に提出することにより、登記官がその一覧図に認証文を付し、申出人にはその写し(以下、「一覧図の写し」という。)が無料で交付されるというものである。交付を受けた相続人は、認証された一覧図の写しを各種相続手続に利用することで、現状、各種相続手続において、戸籍謄本一式を各種窓口に何度も提出しなければならない実務を簡素化することができる。

 具体的な手続きの概略としては、

  1. (1) 法定相続人(規則上、「申出人」と呼ばれる。)による申出
    ① 市区町村の窓口で戸籍謄本一式を収集する
    ② 法定相続情報一覧図を作成する
    ③ 所定の申出書に、①及び②の書類等を添付して登記所に申し出る
  2. (2) 登記所による確認及び一覧図の写しの交付
  3. (3) 申出人による各種相続手続での利用

となる。

 本制度新設の趣旨は、相続を原因とする不動産移転登記の促進とされているが、相続に起因する登記以外の手続のために必要があるときにも一覧図の写しの交付の申出ができる(規則248条1項)とされており、金融機関における相続手続などへの本制度の活用が期待されている。

 

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 現行制度下では、相続人が被相続人名義の預貯金の払戻しを請求する場合、その添付資料として戸籍謄本一式を金融機関に提出する必要が原則としてあり、これらの収集が相続人にとって負担となっている。

 本制度新設により、相続人は、戸籍謄本一式に代えて、一覧図の写しを提出することで被相続人名義の預貯金の払戻しを請求できる。被相続人名義の口座が複数の金融機関に開設されていた場合には、一覧図の写しを複数取得して、これを各金融機関に提出すればよいから、同一の戸籍謄本一式を追加的に取得し直さなければならない時間的・金銭的負担を軽減することができる。

 

 

 

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 とはいえ、前記のとおり、一覧図の写しの交付を受けるためには戸籍謄本一式を登記所に提供しなければならないとされており(規則247条3項2号ないし4号)、結局、本制度によっても、一度は戸籍謄本一式を収集する必要がある。そうすると、戸籍謄本一式の必要通数が最初から分かっているケースであれば、手数料はかかるにせよ、戸籍謄本一式を取得すること自体の時間的負担は変わらないことになる。また、法務省によれば、登記所に対する申出から一覧図の写しの交付までにどのくらいの日数がかかるかについても現段階では未定(少なくとも、即日交付は不可能である。)とされるため、本制度を利用せず、複数の戸籍謄本一式をまとめて取得した上で、一挙に各金融機関に対して提出する方が時間的には短縮できる事態も想定される。

 さらに、法定相続情報一覧図は、申出者が作成する必要がある。法務省は、法定相続情報一覧図の作成を専門家(弁護士、司法書士、税理士等)に依頼することも可能であるとするが、戸籍謄本一式を複数取得する手数料よりも、専門家に依頼するコストの方が高額になることもあり得よう。

 加えて、一覧図の写しは、作成年の翌年から5年間、登記所に保管され(規則28条の2第6号)、再交付の申出も可能(再交付の手数料も無料。)であるが、再交付の申出ができるのは申出人に限定されている(規則247条7項、同248条1項)。すなわち、申出人以外の相続人が一覧図の写しを利用したいと考えたとしても、当該申出人から一覧図の写しを入手できない場合には、当該申出人とは別個に一覧図の写しの交付の申出をすることからやり直さなければならないのである。

 

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 他方、金融機関の立場からは、法定相続人から一覧図の写しが提出された場合には、これを参照して法定相続人の範囲を確認すれば、戸籍謄本一式を辿らずとも足りることになり、払戻し手続を行う際のチェックが簡便になるというメリットがある。

 

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 本制度の概要については以上の通りであり、まだまだ課題もあると言わざるを得ないが、実務における本制度の活用方法について注視していきたい。

以 上

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