◇SH1143◇実学・企業法務(第45回) 齋藤憲道(2017/05/08)

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実学・企業法務(第45回)

第2章 仕事の仕組みと法律業務

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

3. 製造・調達

(1) 信頼できる調達先を確保し、競争力ある生産体制を構築

c. 輸入業務を適切に遂行
 外国から材料・商品を調達する場合は、調達先が自ら納入品の品質検査を行い、かつ国際運送・通関・検疫・資金決済等の手続きを適切に行う能力を有することを求める。

  1. (参考)さまざまな輸入規制 
  2.    「関税法」で輸入が禁止されている麻薬・児童ポルノ・爆発物・知的財産権侵害物品等[1]を輸入すると、刑事罰が科される。また、「植物防疫法[2]」、「家畜伝染病予防法[3]」も、輸入禁止品目[4]を設けている。
     「関税法以外の法令」で、輸入の許可・承認・検査等を義務付け、輸入手続きの際に所定の許可証明書等を提示することを必要とする等の輸入制限を行っている場合は、輸入申告・税関審査の際にその法令の許可・承認等を受けている旨を証明し、確認を受けなければ、輸入が許可されない[5]
    日本では、輸出入してはならない貨物の密輸出入犯の法定刑[6]は懲役10年以下若しくは罰金1,000万円以下(又は併科)であり、未遂・予備も処罰される。このように、実質犯(密輸犯)の刑罰は重い。また、用途外使用犯・特例申告書不提出犯・各種手続き違反等の形式犯(秩序犯)についても1年以下の懲役(又は罰金)等が科される。
     なお、「食品衛生法」は、食品・添加物・器具・容器包装・乳幼児用おもちゃ[7]を販売・営業用に輸入する場合について、検疫所[8]が、①食品衛生法の基準に適合か、②添加物の使用基準が適切か、③有毒有害物質を含まないか、④過去、衛生上の問題があった製造者か、を審査すべきことを定めている。輸入事業者は、検疫所(厚生労働省)に事前相談して必要書類を準備し、貨物が到着すると、食品等輸入届出書等[9]を提出し、検疫所における審査[10]を経て、食品等輸入届出済証を取得し、通関手続(財務省)へ進む。審査手続きにおいて違反の可能性が高いとして検査した結果、食品衛生法違反が判明した物品については、廃棄・積戻し等の措置がとられる。

d. 調達先の倒産に対応
 工場の調達先が、資金繰りに窮して倒産に至ることがある。鋭敏な資材・購買担当者は、「下請けの工場内に在庫が山積みされている[11]」、「少数の経営幹部が休日や深夜に密かに集まって作業している[12]」等の調達先の情報を入手すると、直ちに最悪の事態(倒産)を想定し、調達先を変更し、又は、代替取引先を選定する等して、自社の生産・販売活動に支障が生じないように対策する。
 調達先に貸与し、又は、一時的に預けている支給材料・金型・機械等を引き上げる作業が先方の従業員から妨害される可能性があり、また、別の債権者との間で一刻を争う争奪戦になることもある。
 企業にとっては、自社の製品の製造に必要な部品・材料・金型・機械等を確保して、生産・販売活動をそれまでと同様に継続することが当面の最優先課題であり、債権・債務の権利関係の整理はその次の関心事である。
 倒産の気配を察してはじめて破産法等の清算型手続きや民事再生法等の再建型手続きを記したマニュアルを学ぶのでは間に合わず、現場(購買等)の担当者が日頃の訓練を通じて条件反射的に即時に行動できるようにしておくことが必要である。また、調達先倒産の第一報を得た時に、直ちに適切な行動をとるためには、普段から、調達先の工場や倉庫の中で、自社の所有物を簡明に識別できるように管理[13]していなければならない。
 一度、裁判所で法手続が開始されると、その後は事務的に法定の手続きが進むので、生産・販売活動には何らかの支障が生じることを覚悟する。
 破産申立の場合は、裁判所の破産手続開始決定の時(時刻)から破産手続きが開始され、破産管財人が財産の管理処分権を取得する[14]。申立から開始決定までの間に、抜け駆けによって破産財団や債権者平等が損なわれるのを防止するため、裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合、利害関係人の申立てにより又は職権で、破産手続開始決定までの間、債務者の財産に関し、その「財産の処分禁止の仮処分」その他の必要な「保全処分」を命ずる[15]
 自社が貸与等した物品(金型、機械等)を引き上げるときは、取引先の代表者(又は委任を受けた弁護士)の承諾を得て行うのが肝要である。これにより、後日、「勝手に持ち出した」として悪者にされるリスクが低減される。



[1] 関税法69条の11は、輸入してはならない次の貨物を列挙している。1.麻薬、吸煙具。2.けん銃・部品、機関銃。3.爆発物。4.火薬類。5.化学兵器類。6.感染症関係の病原体。7.貨幣・紙幣・印紙・切手等の偽造・変造・模倣品、偽造カード。8.公安・風俗を害する書籍・図画等。9.児童ポルノ。10.知的財産権侵害物品。11.不正競争防止法に違反する特定の物品。

[2] ①輸入が禁止されているもの(禁止地域・植物)、②輸入時に検査が必要なもの(原則、全植物が検査対象。種子・種・球根、切花、果実・野菜、穀類・豆類・乾燥牧草、木材〔製材除く〕、香辛料、漢方薬原材料等)、③輸入時に検査が不要なもの(一般的に、密封された瓶詰・缶詰、製茶、家具等は検査不要)の3種に分かれる。

[3] 家畜伝染病予防法36条(輸入禁止措置)

[4] 家畜伝染病予防法施行規則43条。①輸入禁止地域と輸入禁止品目を定める例:牛海綿状脳症、鳥インフルエンザ、豚コレラ、慢性消耗生疾患(鹿)に関する品目・地域を特定して全面禁止。②指定検疫物(輸入検査対象)を定める例:鶏、ウズラ、キジ、犬、ウサギ、ミツバチ。

[5] 関税法70条

[6] 関税法108条の4、109条

[7] 食品衛生法27条

[8] 厚生労働省が所管する。検疫所は、外国から日本に来航する航空機・船舶を介した検疫感染症等の病原体の侵入を防ぐとともに、輸入食品等の安全性を確保する。

[9] 原材料・成分 ・製造工程等に関する説明書。必要に応じて、衛生証明書・試験成績書。

[10] 検査不要の場合は、次の手続きに進む。違反の可能性が高い要検査の場合は、命令検査または行政検査を行い、合格すると次の手続きに進む。(食品衛生法26条3項)

[11] 在庫が資金繰りを圧迫している可能性がある。

[12] 社長や経理責任者などの限定されたメンバーが密かに破産申立てのための書類を作成している可能性がある。

[13] 調達先との間で行う貸与物品と無償支給物品の授受をそのつど相互に確認して記録し、その管理台帳を保管して最新の状況を常時確認できるようにする。現場では、貸与金型に管理番号を刻印する、貸与設備に固定資産管理番号を添付する、無償支給材料や無償支給パーツ(組み立て機械用)の保管場所を他から区分し配置図を作成すること等を行う。

[14] 破産法30条2項、78条1項

[15] 破産法28条1項。破産した会社の工場に申立代理人名義の「自己破産手続き開始の申立てのお知らせ」等の標題の張り紙をして、立入禁止等が告知されることがある。債権者がこれを無視して工場内に入り、財産を持ち出すと、窃盗(刑法235条)・不法行為(民法709条)の問題が生じる可能性がある。

 

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