◇SH0558◇法のかたち-所有と不法行為 第九話-2「明治の民法典制定」 平井 進(2016/02/16)

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法のかたち-所有と不法行為

第九話  明治の民法典制定

法学博士 (東北大学)

平 井    進

 

2  日本の所有権規定のフランス法起源

 ここで、日本の民法における所有権の規定の経緯について、時期を遡りながら簡単に見ておきたい。

 明治29年(1896)に公布された現行の民法では、第206条に「所有者ハ法令ノ制限内ニ於テ自由ニ其所有物ノ使用収益及ヒ処分ヲ為ス権利ヲ有ス」とある。

 これは、明治23年に公布された旧民法の財産編第30条に、「所有権トハ自由ニ物ノ使用収益及ヒ処分ヲ為ス権利ヲ謂フ  此権利ハ法律又ハ合意又ハ遺言ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ制限スルコトヲ得ス」とあった規定をもとにしている。[1]

 この旧民法の規定は、民法のボワソナード草案における物権・所有権の第31条に、「所有権トハ最モ広ク(la plus étendue)物ヲ使用シ収益シ及ヒ処置スル自然ノ権利ヲ云フ  但法律又ハ合意ヲ以テ定メタル制限及ヒ条件ニ循フヘシ」による。[2]

 このボワソナード草案は、1804年のフランスの民法典(Code Civil)の544条「所有権は、法律または規則によって禁止された使用でない限り、最も絶対的(absolue)に物を享受し、任意にする権利である。」をもとにしている。

 以上のように、所有権を収益・管理の行為によって規定する構造は、沿革としてフランス民法によるものである。[3]

 なお、法典調査会ではドイツ民法の第二次草案までを参照していた(その所有権に関して1896年に公布された第903条については、第六話を参照)。これは、上記フランス型のものに他人の干渉の排除を加えたものであるが、日本民法はこのドイツ型を採っていない。この点は、フランス民法にはなくドイツ民法にあった同第985条(返還請求権)、1004条(妨害排除請求権)等の物権的請求権の規定を採っていないことも同様である。[4]

 このように、現行民法の所有権の規定に関しては、その制定の時にフランス型のものを採用し、ドイツ型のものを斥けている。



[1] 『法典調査会 民法議事速記録 一』(商事法務研究会, 1983)の第十九回(明治二十七年)742-744頁。

[2] 『ボワソナード民法典資料集成 後期IV 公布・後史 明治23年~』Tome 1(雄松堂,1998)p. 74. ボワソナードの1890年のProjetによる。翻訳は、「再閲修正 民法草案註釈 第二編物権ノ部」『ボワソナード民法典資料集成 後期一-二』(雄松堂,1998)の531条、79頁。

[3] ちなみに、所有権の同様の規定は、1838年のオランダ、1865年のイタリアの民法にも採用されている。

[4] 参照、星野英一「日本民法典に与えたフランス民法の影響-総論、総則(人-物)-」『民法論集 第一巻』(有斐閣, 1970)95頁。

 

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