◇SH3088◇中国:中国における司法のIT化: 新型コロナウイルスの感染予防期間におけるWeChat「モバイルマイクロ裁判所」 川合正倫(2020/04/03)

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中国:中国における司法のIT化

――新型コロナウイルスの感染予防期間におけるWeChat「モバイルマイクロ裁判所」――

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

 

 2020年2月25日、最高人民法院(以下、「最高裁」という。)の知識産権法廷はWeChatのミニプログラムを利用した「最高裁モバイルマイクロ裁判所」(中国語:「最高人民法院移动微法院」)システムを通じて、ビデオリンク方式による尋問を2件実施した。これまで地方レベルの裁判所では、モバイルマイクロ裁判所システムが試行されていたが、上記の案件は最高裁における最初の実施事例である。いずれの案件も管轄異議の裁定を不服として上訴されたものであり、上海、浙江、安徽等の遠隔地に所在する訴訟代理人が新型コロナウイルス感染症の影響により出廷することができないため、各当事者の同意を得た上で、ビデオリンク方式による尋問が実施された。また、書記官による訴訟文書の送達、代理人による身分証明資料の提出、各当事者による尋問調書の閲覧及び署名もすべて同システムを通じて実施された。

 

 「最高裁モバイルマイクロ裁判所」は、最高裁による新型コロナウイルス感染抑制策の一環といえる。最高裁から公表された「最高裁モバイルマイクロ裁判所ユーザー使用マニュアル」[1]によれば、「最高裁モバイルマイクロ裁判所」は中国の代表的なSNSであるWeChatのミニプログラムであり、当事者が「最高裁モバイルマイクロ裁判所」を利用するにはQRコードを読み取り、身分認証手続として顔認証や電子署名、身分証明書のアップロードが必要である。また、「最高裁モバイルマイクロ裁判所」では案件の立件、証拠提出・証拠質疑、審理、執行、訴訟費用の支払、法令・判例検索データバンクなど、様々なサービスを提供しているが、対象案件は最高裁が管轄する民事再審及び行政再審案件に限定されている。

 

 中国では、「最高裁モバイルマイクロ裁判所」の運用開始の前から、訴訟手続のオンライン化の一環として、各地方級の裁判所において「モバイルマイクロ裁判所」の運用が進められていた。「モバイルマイクロ裁判所」を最初に運用したのは浙江省余姚市の人民法院であり、2017年10月に浙江省余姚市の人民法院において運用が開始され、2018年1月は、浙江省寧波市の基層人民法院及び中級人民法院に拡大され、2018年9月には浙江省の全ての裁判所での運営が実現されたとされている。

 

 浙江省での試行を踏まえ、最高裁は2019年3月19日に、「モバイルマイクロ裁判所」の試行地域を浙江省から北京、河北、遼寧、吉林、上海、福建、河南、広東、広西、四川、雲南、青海、合計12の省・直轄市の全ての裁判所に拡大することを決定した。同日に最高裁から公表された「『モバイルマイクロ裁判所』試行推進作業案」によれば、12の省・直轄市における運用試行期間は2019年4月1日から1年間とされ、これらの裁判所が受理できる案件は、民事・商事案件の一審、二審及び執行案件に限定され、また、国家秘密、商業秘密、個人プライバシー又は法令上秘密として保持することが義務付けられる案件も除外されている。この「モバイルマイクロ裁判所」においても立件や案件検索、書類送達、調解、審理、執行、費用の支払など、20項目余りが対応可能とされており、2019年7月31日からは「地域を跨ぐ立件」も開始された。報道によると、12の省・直轄市への運用開始から2019年10月31日まで、「モバイルマイクロ裁判所」の登録者数は116万人、登録弁護士は73,200人、「モバイルマイクロ裁判所」を通した訴訟活動は314万件とされている。

 

 「モバイルマイクロ裁判所」は、裁判所の訴訟手続のオンライン化の一環として、今後全国の裁判所において運用されることが期待されている。

 

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