◇SH1148◇顧客本位の業務運営に関する原則の概要(第1回) 有吉尚哉(2017/05/10)

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顧客本位の業務運営に関する原則の概要(第1回)

西村あさひ法律事務所

弁護士 有 吉 尚 哉

 

1 フィデューシャリー・デューティーと顧客本位の業務運営に関する原則の制定

 平成29年3月30日に金融庁より「顧客本位の業務運営に関する原則」(以下「本原則」という)が公表された。近年、金融監督上、金融機関が「フィデューシャリー・デューティー」を果たすことが求められるようになってきたが、本原則はフィデューシャリー・デューティーを具体的な規律として定めるものである。

 ここで、フィデューシャリー(fiduciary)とは元々英米法の概念であり、日本法に直接対応する概念がなく、具体的な内容が理解しにくいものであるが、「他者から信頼を受けて行動する者一般」を指すと説明されている[1]。そして、フィデューシャリーは「相手の信頼を受け、その者の利益を念頭に置いて行動または助言しなければならない」という義務を負うとされ[2]、このようなフィデューシャリーの義務がフィデューシャリー・デューティー(fiduciary duty)であり、「信認義務」などと訳される。

 この点、金融庁は、平成28事務年度金融行政方針において、フィデューシャリー・デューティーを「顧客本位の業務運営」と説明しており、顧客本位という観点に焦点を当ててフィデューシャリー・デューティーを捉えている。また、英米法上のfiduciary dutyは、通常、民事的な責任を伴う実体法的な概念として捉えられているが、金融庁は、「フィデューシャリー・デューティー」を規制・監督上の概念として用いており、直接的に民事的な責任に結びつくものとは捉えられていない。このように、近年、金融庁が用いている「フィデューシャリー・デューティー」は、英米法のfiduciary duty概念と完全に一致するものではないように思われる。

 本原則は、このようなフィデューシャリー・デューティーに関する取組みの中で、「顧客本位の業務運営」を金融事業者に確立・定着させることを目的として、金融庁が策定・公表したものである。

 

2 本原則の全体像

 本原則の全文は金融庁のウェブサイト〈http://www.fsa.go.jp/news/28/20170330-1/02.pdf〉に掲載されている。本原則の中心的な内容は、金融事業者が遵守すべき7項目の原則であり、その他に本原則の制定の経緯及び背景、本原則の目的などの総論的な事項が記述されている。

 まず、本原則の目的は「金融事業者が顧客本位の業務運営におけるベスト・プラクティスを目指す上で有用と考えられる原則を定めるもの」であることが示されている。そして、本原則は、「プリンシプルベース・アプローチ」によって、「金融事業者」に対して規律を及ぼすものであり、具体的には、次の7項目の原則を掲げている。

  1.  • 原則1 顧客本位の業務運営に関する方針の策定・公表等
  2.  • 原則2 顧客の最善の利益の追求
  3.  • 原則3 利益相反の適切な管理
  4.  • 原則4 手数料等の明確化
  5.  • 原則5 重要な情報の分かりやすい提供
  6.  • 原則6 顧客にふさわしいサービスの提供
  7.  • 原則7 従業員に対する適切な動機づけの枠組み等


[1]    道垣内弘人「『フィデューシャリー』がやって来た」証券アナリストジャーナル38巻1号(2000年)48頁

[2]    「金融取引におけるフィデューシャリー」に関する法律問題研究会「金融取引の展開と信認の諸相」金融研究29巻4号(2010年)183頁

 

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