ベトナム:電子商取引に関する規制の改正(2)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
ベトナム弁護士 Hoai Truong
2. ベトナム国外からのベトナム向け電子商取引サービスの提供に関する規制
以上はベトナム現地法人が電子取引事業を行う場合の規制であったが、電子取引事業を行う場合、ベトナム国外でサイトを開設し、ベトナム向けの電子取引事業を行うことも事実上は可能であり、実際多くの取引が行われている。
この点につき、政令第85号による改正により、規制の対象となる「ベトナムにおける電子商取引サービスを提供するサイトを有する外国商人または組織」の範囲が拡張された。すなわち、改正前の政令第52号では、ベトナムに拠点を持たない外国企業であっても、ベトナムのドメインネームの電子商取引サイトを運営する企業については、ベトナムで電子商取引事業を行っているとみなすとしていたところ、政令85号による改正により、これに加えて、以下の2種類のサイトについても、ベトナムにおける電子商取引サービスを提供するサイトとみなすとしている。
① ベトナム語での表示がある電子商取引サイト
② ベトナムからの取引が年10万件を超える電子商取引サイト
②について、取引数は、企業・組織が自ら報告するデータ、管轄機関のデータ又は管轄機関が信頼性を証明できる既存の報告及び情報から計算されるものとされている。
これらのサイトを運営する企業は、以下の規制の対象となる。
- ・ ベトナム法令に従ってECサイトの登録等電子商取引事業の登録を行う必要がある。
- ・ ベトナム国内に駐在員事務所を設立するか、ベトナムにおける自己の代表者を指定する必要がある。
- ・ ベトナム法令に違反する取引を防止するためベトナム政府機関と協力すること、ベトナム法令に従って消費者保護、製品の品質に関する義務を負うこと、法令に定められた定期的な事業状況の報告を行うこと。
3. ベトナムの電子商取引トレーディングフロアでの外国からの商品・サービスの提供
外国企業がオンラインで商品・サービスを国外からベトナムへ販売する手法としては、自らベトナム向けの電子商取引サイトを運営する以外に、他社の電子商取引トレーディングフロアを利用して、オンラインで商品・サービスを国外からベトナムへ販売することも考えられる。この場合、外国事業者が使用しているトレーディングフロアの運営者は、当該外国事業者の身元を確認することを義務づけられており、また、次のいずれかの手法を採る必要があるとされており、外国事業者としてはこれに応じる必要がある。
- ・ 外国事業者に対し、ベトナムにおける拠点を持たない商人としての輸出権・輸入権をベトナム法令に従って行使するように要求する。
- ・ 消費者の委託に応じて商品の輸入を行う。
- ・ 外国事業者に対しベトナム国内での代理人を指定するよう要求する。
以上のとおり、ベトナム現地法人が電子商取引事業を行う場合のみならず、日本企業がベトナム向けに電子商取引サイトの運営又は他社のサイトを通じて商品の販売を行う場合でも、ベトナム法の規制の対象となる場合があるため注意が必要である。本稿では規制の概要について簡単に説明したが、記載した以外の細かな規制や実務上の取り扱いについては、事案により異なりうるため、ご懸念があれば個別にご相談いただきたい。
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(さわやま・けいご)
2004年 東京大学法学部卒業。 2005年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2011年 Harvard Law School卒業(LL.M.)。 2011年~2014年3月 アレンズ法律事務所ハノイオフィスに出向。 2014年5月~2015年3月 長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務 2015年4月~ 長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス代表。
現在はベトナム・ハノイを拠点とし、ベトナム・フィリピンを中心とする東南アジア各国への日系企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。
(Hoai・Truong)
2013年Hanoi Law University及び名古屋大学日本法教育研究センター(ハノイ)卒業後、2019年に名古屋大学大学院法学研究科にて法学博士号を取得。翌年ベトナム弁護士資格を取得し、長島・大野・常松法律事務所ハノイオフィスに入所。日越双方の法律に関する知識を活かして、ベトナムで事業活動を行う日本企業へのベトナム法のアドバイスを行っている。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
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