◇SH1226◇弁護士の就職と転職Q&A Q3「就活で『英語力』は必須なのか?」西田 章(2017/06/12)

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弁護士の就職と転職Q&A

Q3「就活で『英語力』は必須なのか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 転職市場を見ると、シニア・アソシエイト以上の求人は「ビジネスレベルの英語力」を求めるものが中心です。受験生にも、英語圏での生活経験を持っていたり、TOEIC又はTOEFLで高い点数を保有している人も増えてきました。ところが、そのような方からは「英語力を売りにするのではなく、まずは日本法弁護士として修行を積むことを優先したい」という希望も聞かれます。また、日本語での読解能力が高いが故に、非母国語でのコミュニケーションの非効率さにまどろっこしさを感じる受験生も根強く存在します。そこで、今回は、就活における英語力のアピールの仕方と英語業務に対する取組み姿勢を取り上げてみました。

 

1 問題の所在

 従来、弁護士業務は、日本法を日本語で扱うものが大半でした。そこに、外国企業の日本での活動をサポートするために、英語で日本法を説明するインバウンド業務が広まりました。また、少子高齢化・人口減の傾向が明らかになってきた最近では、日本企業の海外進出をサポートするために、英語で海外の弁護士と連絡をとり、海外のリーガルリスクを分析する業務も増えてきました。

 かつては、渉外弁護士の世界でも「英語は入所してから勉強すればよい」と言われていました。アソシエイトの英語教育に要したに等しい時間を弁護士の稼働時間として依頼者に請求しても目くじらを立てられることもありませんでした。しかし、現在では、依頼者からの弁護士費用に対する監視の目も厳しくなり、仕事の成果に直結しない時間を請求の基礎とすることも難しくなってきました。

 そこで、1年生の時代から、英語案件は英語が得意なアソシエイトに集中する傾向が現れています(当のアソシエイトにとっては、日本法として面白い案件に携わる機会を逃しているという不満につながっています)。

 そのような状況下で、英語が得意な受験生は、どこまで自己の英語力をアピールすべきなのかを迷っており、英語が苦手な受験生は、その欠点をどのようにカバーすべきなのかに戸惑いが見られます。

 

2 対応指針

 法律事務所の採用は、法的思考力重視であり、英語力だけでは採用してくれません。ただ、複数の候補者が同順位に並んでいれば、選考では英語力があるほうがリードします。英語力の指標(TOEIC又はTOEFL等のスコア)で高成績を収めていれば、客観的数値を示した方が有利ですし、スコアがなくとも「英語業務にアレルギーがない」「将来はクロスボーダー案件にも関与したい」という意欲を示すだけでも失点を防ぐことができます。

 

3 解説

(1) 「親亀=日本語・日本法」と「子亀=英語コミュニケーション能力」

 外資系法律事務所の採用担当からは「英語よりも、まずは日本語・日本法がしっかりとした人を紹介してもらいたい」という依頼を受けます。これは、過去に「英語ができるから採用したけど、使ってみたら、日本語・日本法がダメで矯正のしようもなかった」という苦い経験に基づくものです。確かに、英語力は、仕事の中で訓練を重ねることにより伸びる可能性を秘めていますが、入所時に日本語や日本法のセンスが低ければ、入所後に劇的に改善することは期待しづらいものがあります。

 そのため、法律事務所の採用選考においては「英語ができるから、日本語・日本法はイマイチでもいいから採用する」という判断はできません。あくまでも、「日本語・日本法のセンスを満たした上で、英語のコミュニケーション力もあれば、より高い資質が認められる」という関係にあります。

(2) 新人に要求される英語水準

 法律事務所からは、よく「英語にアレルギーがなければいい」という要件を聞かされます。新人弁護士が起案した書類がそのまま外部に出ていくことはなく、先輩弁護士のレビューやネイティブチェックを経ることになるので、新人時点で完成品を作成する能力までが求められているわけではありません。しかし、英語案件に対する苦手意識があると、英語力を向上させる機会も失ったままにシニア・アソシエイトへと年次が上がってしまいます。事務所としても、面白い案件が来ても、英語が絡むものは、英語のできるアソシエイトを利用せざるを得ず、日本語オンリーのアソシエイトをチームに入れにくくなってしまいます。

(3) リーガルマーケットにおける英語が絡む案件の拡大傾向

 就活を始めると、「英語案件をまったく扱っていない」という先輩弁護士がたくさんいることに気付くと思います。しかし、10年後、20年後に自ら顧客を開拓しなければならない司法修習70期台の弁護士にとって、今の段階で「英語をまったく扱いません」と宣言してしまうと、自己の仕事の間口を著しく狭めてしまいます。今は、国内企業同士の取引でも「業務の一部にだけ英語が混じる」「会議にひとりだけ英語ネイティブが混じる」という案件が増えてきています。せっかく法分野の専門性を高めても、関係者とコミュニケーションをとる語学力がなければ、案件に携わる機会を失ってしまいます。

 

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