カリフォルニア州キャピタルアクセス会社法
徳島大学大学院
准教授 清 水 真 人
カリフォルニア州キャピタルアクセス会社法（California Capital Access Company Law）は、カリフォルニア州内において100名超の適格投資家から資金調達を行い、同州内で事業を行うベンチャー企業に対しリスクキャピタルの供給および経営支援を行うベンチャーキャピタルファンドについて規制することを目的に、米国投資会社法6条(a)項(5)号に基づき1998年に制定された法律である。キャピタルアクセス会社法に基づき組成されたベンチャーキャピタル、すなわちキャピタルアクセス会社に対しては米国投資会社法の各種規定が適用除外されることから、連邦法の厳格な規定に服することなく柔軟な運営が可能となる。それによりベンチャー企業の設立および成長を促し、州内における就業機会を増加させ、最終的に州経済の活性化を実現しようとしている（28003条）。
キャピタルアクセス会社は資金調達手段として、償還可能証券でない証券を発行することができ（28200条(b)項）、適格投資家に対してのみそれを取得させることができる（28031条、28200条(d)項）。そして、発行証券の80パーセント以上はカリフォルニア州の居住者またはカリフォルニア州で事業の大部分を営む投資家により保有されなければならない（28200条(c)項）。これらの規定により州内のベンチャー企業の成功に伴う果実の大部分は州内の投資家に分配されることになる。
このようにして調達した資金を用いてキャピタルアクセス会社はベンチャー企業への投資を行うが、その活動には制限が設けられており、カリフォルニア州内でその事業の全てまたは大部分を営む中小企業に対し金融支援または経営支援を行うことにより、同州における経済、事業、または産業の発展を促すこと、およびこれらの目的遂行に付随し、または必要とされる活動に限定されている（28200条(a)項、(e)項、28400条）。
さらに、キャピタルアクセス会社の運営の健全性を確保するために、監督機関に関する規定や利益相反規制の遵守が要求される。すなわち、キャピタルアクセス会社は取締役会、執行委員会、その他の方針決定機関のいずれかを設置しなければならず、これらの機関の構成員は3名以上とされ（28210条）、暦年毎に最低1回は会合を開かなければならない（28211条）。そして、これらの機関はキャピタルアクセス会社が締結する投資助言契約を承認する（28212条）。また、キャピタルアクセス会社が内部者またはその利害関係者に金融支援を行うこと等を禁止するための詳細な利益相反規制が設けられており（28821条）、これらを遵守するための内部体制の構築が要求される。
最後に、キャピタルアクセス会社法を執行するために州規制当局のコミッショナーには強大な権限が付与されている。すなわち、コミッショナーは免許申請者に対する審査を行い、同法に定める適格要件を満たした者に対してのみキャピタルアクセス会社としての免許を付与する（28152条）。また、免許付与後も監査報告書および各種報告書を提出させ（28501条、28502条）、免許保有者およびその親会社、子会社、関係会社に対する調査を随時行う（28503条）。そして違法行為または健全性を害する行為等が明らかになった場合には州上級裁判所に当該行為の差止めを請求するとともに（28701条）、聴聞を経た上で、コミッショナー自らも排除命令を発し、適切な是正措置を講じるよう命ずることができる（28703条）。さらに、他者がキャピタルアクセス会社の支配権を獲得しようとする場合、またはキャピタルアクセス会社が合併等の組織再編を行う場合には、事前にコミッショナーによる実質審査を受け、その承認を得なければならない（28550条～28552条、28601条～28604条）。このようにコミッショナーが各種権限を行使することにより、キャピタルアクセス会社の財務上の健全性を確保するとともに、法令遵守を徹底させようとしている。
以上のようなキャピタルアクセス会社法の法的枠組みは、カリフォルニア州の実務家と規制当局が一体となって構築したものであることから、わが国におけるベンチャーキャピタル規制のあり方を考える上で重要であると思われる。そこで、2017年4月末時点における同法の全条文について翻訳を行った。また、翻訳条文と合わせて、拙稿「カリフォルニア州におけるベンチャーキャピタル規制―キャピタルアクセス会社法の検討―」三谷忠之先生古稀祝賀論文集『市民生活と現代法理論』（成文堂、2017）207～225頁をご参照いただければ幸いである。