◇SH3400◇Withコロナ時代の労働法務 第3回 在宅勤務(3) 福谷賢典(2020/11/25)

労働法

Withコロナ時代の労働法務
 第3回 在宅勤務(3)

島田法律事務所

弁護士 福 谷 賢 典

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(以下「新型コロナ」という)の流行が収束を見ない状況下、各企業においては、事業活動の継続と感染拡大防止の両立が図られる形での従業員の働き方を実現する必要があるが、本連載では、このことに伴って求められる労務管理等の諸課題への対処について解説する。第3回では、前2回に引き続き、在宅勤務を巡る各種の法的論点について述べる。

 なお、本稿中意見にわたる部分は筆者の私見であり、筆者が現在所属し、または過去に所属していたいかなる団体の見解を示すものでもないことに注意されたい。

 

Ⅱ 在宅勤務と労働時間管理(承前)

5 柔軟な労働時間制度

 在宅勤務は、従業員が就業の「場所」として事業場ではなく自宅で働くことを認めるものであり、労働の「時間」について所定労働時間に縛られない柔軟な働き方を許容することとは、必ずしも直結はしない。もっとも、自宅で働く従業員の労働時間の把握・管理には自ずと限界があることや、従業員側でも業務と私生活との境界があいまいになりがちであること等に照らせば、在宅勤務は、労働基準法が設ける柔軟な労働時間制度と組み合わせて適用することが、生産性の向上に資するといえ、かつ、従業員のワークライフバランスの実現にとっても有益であるといえる。

 以下では、事業場外みなし労働時間制、フレックスタイム制、および裁量労働制を例にとり、在宅勤務者への制度適用上の注意点について述べる。

  1.   ⑴ 事業場外みなし労働時間制
  2.    事業場外みなし労働時間制とは、労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときに、実労働時間にかかわらず一定時間労働したものとみなす制度である(労働基準法38条の2)。すなわち、同制度の適用要件は、労働者が事業場外で業務に従事すること、およびその労働時間の算定が困難なことであるところ、在宅勤務者については、前者の要件は当然に充足する。問題は後者の要件であるが、行政通達は、使用者が労働時間を十分に把握し得るほどには労働者に対して具体的な指揮監督を及ぼし得ないという場合に限り、労働時間の算定が困難であるといえるものと解している(昭和63・1・1基発1号)。そして、「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(以下「テレワークガイドライン」という)は、在宅勤務を含むテレワークにおいて、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難であるといえるためには、以下の①および②のいずれにも該当する必要があるとしている(同2(2)イ(イ))。
    1. ① 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
    2. ② 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと
  3.    ここで、上記①については、情報通信機器を通じた使用者の指示(黙示の指示を含む)に即応する義務がない状態であることを指すとされている。そして、使用者の指示に即応する義務がない状態とは、「使用者が労働者に対して情報通信機器を用いて随時具体的指示を行うことが可能であり、かつ、使用者からの具体的な指示に備えて待機しつつ実作業を行っている状態又は手待ち状態で待機している状態にはないこと」を指し、「回線が接続されているだけで、労働者が自由に情報通信機器から離れることや通信可能な状態を切断することが認められている場合、会社支給の携帯電話等を所持していても、労働者の即応の義務が課されていないことが明らかである場合」等は、使用者の指示に即応する義務がない状態であるとされている。
  4.    また、上記②につき、「使用者の具体的な指示」には、「当該業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することや、これら基本的事項について所要の変更の指示をすることは含まれない」とされている。
  5.    上記の要件を満たし、在宅勤務者に対して事業場外みなし労働時間制を適用することができる場合、当該者の実労働時間にかかわらず、所定労働時間だけ労働したものとみなすか、あるいは、当該者が事業場外の業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて労働することが必要なときは、「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」だけ労働したものとみなすことができる(労働基準法38条の2第1項)。もっとも、後者につき、「通常必要とされる時間」とは「通常の状態でその業務を遂行するために客観的に必要とされる時間」とされているものの(昭和63・1・1基発1号)、定量的に算定し難い面があることは否めない。この点、「通常必要とされる時間」については、事業場ごとに過半数労働組合または労働者の過半数代表者との間で締結する労使協定をもって定めることができるため(労働基準法38条の2第2項)、実務上はかかる労使協定を締結することが多いものと思われる。かかる労使協定においては、各労働者の所属部署や担当業務内容の類型ごとに「通常必要とされる時間」が異なる場合には、各別にみなし労働時間数を定めることも可能である。法定労働時間を超えるみなし労働時間数を労使協定で定める場合には、当該労使協定の所轄労働基準監督署長宛て届出が必要となる(労働基準法施行規則24条の2第3項)。この場合、いわゆる三六協定の締結・届出[1]や、超過分について時間外労働に係る割増賃金の支払いも必要となることは言うまでもない。
  6.    なお、繰り返しになるが、事業場外みなし労働時間制は、あくまで労働者が事業場外で業務に従事する場合に適用される。したがって、例えば当番制で週に何日か在宅勤務を行う者が出社した日の労働時間については、使用者において当該者の実労働時間を把握し、これをその日の労働時間として取り扱わなければならない。また、午前中は在宅勤務、午後は出社する場合のように、一日のうちに事業場外労働と事業場内労働とが混在する場合には、前者についてのみ「みなし」の対象となり、かかるみなし労働時間と、事業場内での実労働時間とを合計した時間が、その日の労働時間となる(事業場内労働を含めて一定時間労働したものとみなすことはできない)ことにも注意が必要である(昭和63・3・14基発150号)。
     
  7.   ⑵ フレックスタイム制
  8.    フレックスタイム制とは、労働者が一定の単位期間(「清算期間」)の中で一定時間数労働することを条件に、一日の始業および終業の時刻をその労働者の決定に委ねる制度である。在宅勤務者においては、個人的事情(育児、介護等)から始業・終業時刻の調整が必要となることも多いと思われるが、フレックスタイム制を適用することにより、かかる調整は容易となる。
  9.    フレックスタイム制を導入するためには、就業規則によって「労働者に係る始業及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねること」を定めるとともに、事業場ごとに過半数労働組合または労働者の過半数代表者との間で労使協定を締結しなければならない(労働基準法32条の3)。労使協定では、①対象労働者の範囲、②清算期間、③清算期間における総労働時間、④標準となる一日の労働時間、⑤労働者が労働しなければならない時間帯を定める場合には、その時間帯(コアタイム)の開始・終了時刻、⑥労働者がその選択により労働することができる時間帯に制限を設ける場合には、その時間帯(フレキシブルタイム)の開始・終了時刻等を定める必要がある(同条、労働基準法施行規則12条の3第1項)。清算期間については、2019年4月施行の改正労働基準法において、従来の1ヵ月から3ヵ月まで延長されたが(同法32条の3第1項2号)、1ヵ月を超える清算期間を定めた労使協定は、所轄労働基準監督署長宛ての届出が必要となる(同条4項)。
  10.    第1回で述べたとおり、実務上は、在宅勤務制度導入時に、就業規則の下位規程としての在宅勤務規程を制定することが多いと思われるところ、在宅勤務者にフレックスタイム制を適用する場合には、上記の労使協定を締結した上で、そこで定めた内容を在宅勤務規程にも規定することになるであろう。
     
  11.   ⑶ 裁量労働制
  12.    裁量労働制とは、一定の専門的・裁量的業務に従事する労働者につき、実労働時間にかかわらず一定時間労働したものとみなす制度である。裁量労働制には、専門業務型裁量労働制[2]と企画業務型裁量労働制[3]とがある。
  13.    裁量労働制は、労働時間の「配分」についてのみ労働者の裁量を認めるフレックスタイム制と異なり、労働時間の「総量」についても労働者の裁量を認めるものであるから、より柔軟な働き方を可能にするものとして、在宅勤務との親和性が高いと見ることもできる。もっとも、裁量労働制は、適用可能な労働者の担当業務が限定されているため、企業が在宅勤務制度を導入するにあたって在宅勤務者に一律に裁量労働制を適用する、といったことはできない。むしろ、従前より一部の部署で裁量労働制を採り入れている企業において、対象労働者の在宅勤務を(それまで以上に)推進する、といった検討がなされることが多いであろう。

(第4回へ続く)



[1] 「通常必要とされる時間」について法定労働時間を超える時間数を定める労使協定は、三六協定の届出に付記して届け出ることも可能である(労働基準法施行規則24条の2第4項)。

[2] 新商品・技術の研究開発、情報処理システムの分析・設計等、労働基準法施行規則24条の2の2項および同項6号の規定に基づく告示(平9労告7号、平12労告120号、平14厚労告22号、平15厚労告354号)によって限定列挙された業務に従事する労働者につき、事業場ごとに過半数労働組合または労働者の過半数代表者との間で労使協定を締結することにより、当該労働者が同協定に定める時間だけ労働したものとみなすことができる制度である(労働基準法38条の3)。

[3] 「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」(例えば、経営企画、人事労務、財務、営業、広報、生産等の方針・計画の策定業務がこれに当たると解される)に、同業務を「適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」(指針(平11労告149号)では、少なくとも3年ないし5年程度の職務経験を経た者とされる)が就く場合に、当該労働者が、事業場に設置する労使委員会(委員の半数は、過半数労働組合または労働者の過半数代表者によって指名されなければならない)の5分の4以上の多数による議決をもって定める時間だけ労働したものとみなすことができる制度である(労働基準法38条の4)。なお、専門業務型裁量労働制と異なり、当該労働者本人の「みなし」についての同意も必要となる(同条1項6号)。

 

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