◇SH1181◇最二小決、輸入について信用状を発行した銀行は輸入者から占有改定の方法により引渡しを受けたものとされる 松田貴男(2017/05/24)

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最二小決、輸入について信用状を発行した銀行は
輸入者から占有改定の方法により引渡しを受けたものとされる

岩田合同法律事務所

弁護士 松 田 貴 男

 

 最高裁は、平成29年5月10日、輸入信用状を発行した銀行が有する、輸入商品上の譲渡担保権の実効性を高める内容の決定を行った。決定内容、先例的意義及び社会的意義について述べる。

 

1. 決定内容

(1) 事案(末尾の一覧図参照)

 商品の輸入者(図のX)の依頼に基づき、輸出者を受益者とする信用状を発行した銀行(図のY)が、信用状債務の弁済によって輸入者に対して取得する求償債権を被担保債権とし、輸入者より輸入商品上に設定を受けていた譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として、輸入者が海貨業者(輸入者より商品の受領・通関・売却等を委託)を通じて第三者買主に転売した輸入商品の売買代金債権の差押申立てを行った。

 上記差押申立ては、輸入者の再生手続開始決定後に行われた。銀行は、輸入者に対して、銀行の譲渡担保権の目的物たる輸入商品の受領・通関・処分権限等を付与しており、譲渡担保権の目的物(輸入商品)を直接占有しなかった。輸入者自身も、輸入商品の受領・通関・売却を海貨業者に委託していたため、輸入商品を直接占有することはなかった。

(2) 争点

 銀行が、譲渡担保権の対抗要件たる「引渡し」を、輸入者からの再生手続開始決定時点で受けていたどうか、が争点となった。輸入者は、輸入者自身が直接占有していない以上、銀行は輸入者から「占有改定」の方法によっても「引渡し」を受けることができず、銀行の譲渡担保権は対抗要件を具備していないと主張した。

(3) 判旨

 最高裁は、輸入者の主張を退け、以下の事実関係をもとに、銀行は輸入者から「占有改定」の方法により輸入商品の「引渡し」を受けていたものと解するのが相当であるとして、再生手続開始決定後の輸入者に対して、譲渡担保権に基づく物上代位権の行使としての債権差押えができると判旨した。

  1.  輸入取引では、輸入者から委託を受けた海貨業者により輸入商品の受領等が行われ、輸入者が商品を直接占有せず、転売されることが一般的
  2.   信用状取引では、信用状発行金融機関が輸入商品につき譲渡担保権の設定を受けることが一般的
  3.  輸入者から輸入商品の受領等の委託を受けた海貨業者には、輸入商品が信用状取引によって輸入されたことが明らかにされていた
  4.  輸入者から海貨業者に対する商品受領等の委託は、銀行が輸入者から輸入商品の引渡しを占有改定により受けることを当然の前提とするものであった

 

2. 先例的意義と射程

 輸入信用状の発行銀行による、輸入商品上の譲渡担保権に基づく物上代位権の行使の可否、及び、譲渡担保権に基づく物上代位権の行使を輸入者(債務者)の倒産手続開始後に行うことの可否については、既に最高裁が平成11年にこれらをいずれも肯定する決定を行った[1]。本件最高裁決定は、譲渡担保権の目的物たる輸入商品について、輸入者及び銀行の双方に直接占有がなくとも、銀行は輸入者から占有改定の方法により引渡しを受けたことを認めた点で意義がある。

 本件最高裁決定は、信用状取引における取引慣行を前提とした事例判断といえる。信用状取引によって輸入された物品以外の、動産全般を対象とする譲渡担保について、本件最高裁決定がそのまま及ぶものではない。また本件最高裁決定は、海貨業者に輸入商品が信用状取引によって輸入されたことが明らかにされていた、という事実を理由中に挙げていることから、信用状発行銀行にとっては、信用状取引であることが輸入商品の取扱い関係者に周知されるよう手当てすることが重要である。

 

3. 社会的意義

 本件最高裁決定の事案は、銀行が、輸入者に対して、銀行の譲渡担保権の目的物たる輸入商品の処分権限等を付与するという、いわゆる輸入貨物貸渡し(T/R、Trust Receipt)を伴う輸入信用状取引において一般的に見られる取引形態であり、平成11年の最高裁決定とあいまって、T/R付輸入信用状取引における、銀行の譲渡担保権の実効性及び予測可能性を高めるものである。これにより、銀行の、輸入事業者に対する、貿易関連与信の拡大・円滑化が期待できる。

 

 


[1]最決平11.5.17民集53巻5号863頁

 

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