◇SH2745◇消費者庁、イオンペット株式会社に対する景品表示法に基づく課徴金納付命令 青木晋治(2019/08/29)

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消費者庁、イオンペット株式会社に対する景品表示法に基づく課徴金納付命令

岩田合同法律事務所

弁護士 青 木 晋 治

 

1 はじめに

 消費者庁は、令和元年8月7日、イオンペット株式会社(以下「イオンペット」という)に対し、景品表示法で禁止される優良誤認表示(景品表示法第5条第1号)があったとして課徴金納付命令(以下「本命令」という)を下した。

 本件は、同社が、ペットのトリミングや預かりサービスを提供する際、ポスター、チラシ又は自社ウェブサイト等で、トリミングサービスで使用しているシャワーには、炭酸泉を使用し、またホテルサービス(預かりサービス)では屋外での散歩を提供しているかのように表示していたが、実際には、全くまたは一定の割合で、炭酸泉を使用せず、散歩についても、全くまたは一定の割合で、屋外で実施しているものではなかったとして、同社に対し、景品表示法違反(優良誤認)で課徴金納付命令を下したという事案である。

 本命令において、同社が、課徴金対象行為に該当する事実を消費者庁に報告したところ、課徴金が2分の1に減額されている。

 以下、景品表示法上の課徴金対象制度等について概説した上、留意点について説明する。

 

2 課徴金制度

 景品表示法による課徴金制度は、景品表示法の平成26年改正により設けられた制度であり、優良誤認表示行為(景品表示法第5条第1号)、有利誤認表示行為(同2号)をした事業者に対する課徴金を賦課するという制度であり、平成28年4月1日から施行されている。課徴金納付命令等の概要は以下のとおりである。

課徴金納付命令(景品表示法第8条)

  1. 課徴金対象行為優良誤認表示行為有利誤認表示行為を対象とする。
  2. ▷ 課徴金額の算定:対象商品・役務の売上額3%を乗じる。
  3. ▷ 課徴金対象期間3年間を上限とする。
  4. ▷ 主観的要素:違反事業者が相当の注意を怠った者ではないと認められるときは、課徴金を賦課しない。
  5. ▷ 規模基準:課徴金額が150万円未満となる場合は、課徴金を賦課しない。

 

3 課徴金対象期間

 課徴金対象期間については、課徴金対象行為をした期間を原則とし、これに課徴金対象行為をやめた日から6か月経過する日までに取引をした場合には、①当該課徴金対象行為をやめてから最後に当該取引をした日、又は②一般消費者に対する誤認解消措置を取った日のいずれか早い時点までの期間を加えた期間であり、当該期間が3年を超えるときは、当該期間の末尾から遡って3年間となる(景品表示法8条2項)。

 課徴金対象期間のイメージは以下のとおりである。優良誤認表示をやめたとしても、課徴金対象行為の対象となった商品や役務の取引を継続する場合には、最大6か月間は課徴金対象期間となるため注意が必要である。

 

(消費者庁HPより引用)

 

 本件に置き換えた場合、トリミングサービスで利用しているシャワーに炭酸泉を使用していることをポスター、チラシ又は自社ウェブサイト等で表示することやめたとしても、トリミングサービスを継続する場合には、トリミングサービス自体を中止するか、「一般消費者の誤認のおそれの解消措置」を取らない限り、不当表示行為の終了日から最大6か月間が課徴金対象期間となるが、本命令では、対象店舗は多数に及ぶものの、課徴金対象期間の終期は、概ね課徴金対象行為をやめた日から6か月を経過するよりも前である平成31年4月12日と認定されている。

 これは、イオンペットが、日刊新聞紙に掲載する方法等[1]により、一般消費者に周知する措置を取ったと認められたためである(イオンペットに対する、令和元年8月7日付け「不当景品類及び不当表示防止法第8条1項の規定に基づく課徴金納付命令」理由2(1)イ(イ)参照)。

 

4 自主報告制度の課徴金減額措置

 また、本命令では、イオンペットが、課徴金対象行為となる事実を消費者庁長官に報告していたことから課徴金が2分の1に減額されている。自主報告制度の概要は以下のとおりであるが、自社に対する調査開始後に自主報告をしても、課徴金減額がされないことに留意が必要である。

自主報告による課徴金額の減額(景品表示法第9条)

  1. ▷ 課徴金対象行為に該当する事実を報告した事業者に対し、課徴金額の2分の1を減額する。
  2. ▷ 景品表示法施行規則様式第一による報告書を次のいずれかの方法より、消費者庁長官に提出する。

    1. ① 直接持参する方法
    2. ② 書留郵便等による方法
    3. ③ ファクシミリ装置を用いて送信する方法
  3. ▷ ただし、報告が、当該課徴金対象行為についての調査があったことにより当該課徴金対象行為について課徴金納付命令があるべきことを予知してされたものであるときは、課徴金は減額されない。

 

5 留意点

 課徴金制度は、上記ののとおり、優良誤認表示または有利誤認表示行為に係る商品・役務について、その売上額の3%を最大3年分賦課する制度であって、対象企業等に与える影響は極めて甚大である。

 そのため、各企業においては、自社の商品・役務に係る表示をする際には優良誤認表示ないし有利誤認表示等の不当表示がなされないよう厳に留意するとともに、仮に不当表示があると認められる事案を認知した場合には、直ちにこれらの表示を中止し、自主報告をすることを検討すべきである。

 また、不当表示を中止したり、自主申告をしたとしても、不当表示中止後、最大6か月間は当該課徴金の対象となった商品・役務に係る取引を継続した期間も課徴金対象期間となり得るので、これを排除するため、一般消費者の誤認を解消する措置を取ることも検討すべきである[2]。その他、一般消費者に対する返金による課徴金減額制度(景品表示法第10条)を併せて検討することが重要である。

 以上のほか、取締役その他の役員、経営陣としては、上記の各制度を利用しなかった場合には、役員等の善管注意義務違反を理由に損害賠償責任(会社法第423条第1項)を負う可能性があることに留意すべきである。とりわけ、今般イオンペットが利用した自主報告により得られる課徴金の減額の割合は2分の1であり、その経済的インパクトが大きいことからすれば、自主申告をしないことが、株主による代表訴訟提起等のリスクを高めることに留意すべきである。

以 上



[1] 独立行政法人国民生活センターのHPにおいて公表されているところによれば、平成31年4月12日に「お詫びとお知らせ」と題する情報が、新聞の広告欄、イオンペットのホームページに掲載されたとされている。
http://www.kokusen.go.jp/recall/data/s-20190412_1.html

[2] 消費者庁表示対策課による平成28年1月29日付け「『不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方(案)』に対する御意見の概要及び御意見に対する考え方」の番号12によれば、個別事案によるものの、その典型例として、日刊新聞紙2紙への掲載を含む周知方法が挙げられている。

 

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