◇SH1218◇実学・企業法務(第54回) 齋藤憲道(2017/06/08)

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実学・企業法務(第54回)

第2章 仕事の仕組みと法律業務

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

4. 販売(営業)

(3) 営業の主要機能

3)広告、宣伝、販促活動、キャンペーン、イベント
 企業は、消費者に良い商品・サービスを、少しでも安く提供することを市場で競い、そのための経営努力を常に行っている。

 消費者に自社の商品の良さを知ってもらい、購買行動に結びつけるために、市場に向けてさまざまな方法で情報を発信・伝達するとともに、広告・宣伝・販促・キャンペーン・イベント等を行う。

 古来、多くの消費者の購買行動は、①Attention(広告に注目)、②Interest(興味を抱く)、③Desire(欲しくなる)、④Memory(商品・ブランドを記憶)、⑤Action(購買行動)というプロセスをたどる[1]ことが知られている。

 ただし、今日のインターネット時代では、これに、消費者が自らネットで検索して商品情報を入手し、購入後に商品の感想をネットで発信する行動が加わる。

 近年、企業のネット広告が増えているが、これを見た人がどのような過程を経て実際の商品購入に至るのかを分析して広告すると、訴求力が増し、販売増加に結び付けやすくなる。

 通常、企業は、できるだけ消費者の注目を集めて記憶に残し、購入してもらうために、最も効果的と考える広告・宣伝等を行い、場合によっては景品も付ける。

 しかし、市場競争は、本来、商品・サービスの優劣によって行うべきもの[2]である。企業が過大な景品類提供や不当・誇大な表示で顧客を誘引すると、消費者が市場で商品・サービスを選択する際の合理的な判断を妨げ、その結果、消費者に不利益を与え、かつ、公正な市場競争を阻害する。

 このために景品表示法[3]が制定され、景品類の最高額・総額等を規制するとともに、消費者の誤認を招く不当な表示を禁止[4]して、消費者が適切に商品・サービスを選択できる市場が維持されている。

  1. 〔景品表示法〕
  2. ① 景品類とは、顧客を誘引する手段として、取引に付随して提供する、物品・金銭他の経済上の利益のことであり[5]、(a) 利用者にクジ等の偶然性・クイズ解答等の優劣等によって景品類を提供する「一般懸賞」、(b)商店街や一定地域の同業者が共同して行う「共同懸賞」、(c)購入者・来店者の全員に提供する「総付景品」、(d)業種別景品告示(新聞業、雑誌業、不動産業、医療用医薬品業・医療機器業及び衛生検査所業)の種類ごとに景品類の最高額・総額等が規制されている[6]
    (注) 取引に付随せず新聞広告等で告知し、ハガキ等で募集してクジ等で商品・賞金等を提供する「オープン懸賞」に対する規制は2006年に廃止された。
  3. ② 不当表示には、(a)「優良誤認[7]」、(b)「有利誤認[8]」、(c)内閣総理大臣が「指定(告示)した表示[9]」、がある。優良誤認表示か否かを判断する場合、消費者庁長官は、期間を定めて事業者に表示の合理的根拠を示す資料の提出を求めることができ、事業者が期間内に提出しない場合や提出資料が表示の合理的根拠を示していないと認める場合は、不当表示とみなして(不実証広告規制[10])、措置命令(7条2項)や課徴金納付命令(8条3項)を発出する。

 景品類・表示の方法や内容は業界により異なるので、消費者庁長官と公正取引委員会が消費者利益と公正競争を考慮して認定する[11]業界ごとの「公正競争規約[12]」で定める例が多い。

 企業には、消費者庁が示した「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針[13]」を営業等の現場の業務で実践することが求められる。

 表示に関しては、企業の従業員が意図せずに景品表示法に抵触することがあり得る。そこで、商品カタログやパンフレットの作成・販売促進企画等の業務では、予め自社で準備した現場用のチェックリストを用いて作業を行うとともに、現場管理者と法務等の管理部門による視点の異なる二重チェック体制を設ける等して、誇大広告・虚偽表示等の問題や商標権・著作権・肖像権等の侵害問題が発生しないようにする。

  1. (注) 著作権・肖像権の権利処理
    商品カタログやパンフレット等に外部者の写真・イラスト・キャッチフレーズ等を使用する場合は、著作権者等の許諾を得る必要がある。写真の背景への写り込み[14]も、程度次第では著作権侵害になるので注意する。
    イベントでは、ポスター・写真やブルーレイ・DVD・CD等を使用して会場の雰囲気を盛り上げ、集客を図ることがある。その際は、人物写真・風景写真・映画・音楽等に関する肖像権・著作権の権利処理がなされていなければならない。

 不当表示を行った事業者には、不当表示された商品の過去3年分の販売高の3%の課徴金が課される[15]。また、第三者の商標権・著作権・肖像権を侵害すると、差止や損害賠償請求の訴訟が提起される。



[1] 伝統的なAIDMA広告理論(1920年代の米国S.Roland Hallの5段階説)

[2] 例えば、健康増進法が定める幼児用・妊産婦用等の特別用途表示及び栄養表示基準等の表示ルールを遵守すべきことは当然である。

[3] 不当景品類及び不当表示防止法

[4] ①商品・サービスの品質・規格その他の内容に関する「優良誤認表示」(4条1項1号)、②商品・サービスの価格その他取引条件についての「有利誤認表示」(4条1項2号)、③一般消費者に誤認されるおそれがあるとして当局が告示した無果汁清涼飲料水・原産国・消費者信用の融資費用・不動産等のおとり広告・優良老人ホーム、に関する不当な表示(4条1項3号)を規制している。

[5] 景品表示法2条3項

[6] 公正取引委員会 平成18年(2006年)4月27日事務総長通達第4号「景品類等の指定の告示の運用基準について」、改正平成8年2月16日事務局長通達第1号「『一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限』の運用基準について」参照

[7] 景品表示法5条1号は、①品質・規格・その他の内容について実際よりも著しく優良であると一般消費者に示し、又は②事実に相違して競争事業者よりも著しく優良であると示す表示を禁じる。4条2項は、事業者が表示を裏付ける合理的根拠を示さない場合は不当表示とみなす。

[8] 景品表示法5条2号は、①実際のもの又はその事業者と同種・類似の商品・役務を供給している他の事業者よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、②不当に顧客を誘引し一般消費者による自主的・合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの、を不当表示とする。

[9] 2016年7月現在、景品表示法5条3号に関して、内閣総理大臣が次の6品目を指定している。無果汁の清涼飲料水等、商品の原産国、消費者信用の融資費用、不動産のおとり広告、おとり広告、有料老人ホーム。

[11] 消費者庁長官と公正取引委員会が公正競争規約を認定するための4要件(景品表示法11条2項、12条):①不当な顧客の誘引を防止し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択及び事業者間の公正な競争を確保するために適切なものであること。②一般消費者及び関連事業者の利益を不当に害するおそれがないこと。③不当に差別的でないこと。④公正競争規約に参加し、又は公正競争規約から脱退することを不当に制限しないこと。

[12] 2016年11月現在104件(うち、景品に関する公正競争規約37件、表示に関する公正競争規約67件)

[13] 平成26年11月14日内閣府告示第276号

[14] 「雪月花」事件参照。東京高裁平成14年2月18日 判時1786号136頁

[15] 2014年の景品表示法改正で不当表示に対する課徴金制度が導入された。

 

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