◇SH1241◇実学・企業法務(第57回) 齋藤憲道(2017/06/19)

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実学・企業法務(第57回)

第2章 仕事の仕組みと法律業務

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

4. 販売(営業)

(3) 営業の主要機能

5) 販売チャンネル
b. 代理店
 特定の店舗が、特定の商品の代理店に指定[1]され、同代理店の該当商品の販売金額の一定割合が販売手数料として支払われる。貿易商社・保険会社等の代理店[2]は支店・営業所等の機能を果たすが、メーカーの商品を継続的に取り扱うだけの代理店もある。
 代理店の行為は商社・保険会社・メーカー等の代理として行うものであり、取引の結果は商社・保険会社・メーカー等に帰属する。従って、商社・保険会社・メーカー等としては、代理店が適切に業務を遂行していることについて厳しく監督する必要がある。

  1. (例) 金融庁「保険検査マニュアル[3]」は、代理店を次の考え方に基づいて検査する旨を定めている。
    「保険募集管理規程、保険募集コンプライアンス・マニュアル(略)を保険募集に携わる関係業務部門及び営業拠点並びに保険募集人(注:募集人、代理店を表す)に遵守させ、適正な保険募集を行わせるための態勢を整備し、その実効性を確保するための具体的施策を実施しているか。なお、代理店は、保険会社の内部組織には属さない独立の存在であり、その中でも、大規模な乗合代理店等には保険会社に対して強い交渉力等を有しているものもあるが、上記の態勢の整備や具体的施策の実施は、それらの代理店に対しても確実に行っていかねばならない(略)。」

 EU[4]・中近東・中南米には、売主による契約終了等を制限する代理店保護法が制定されている国があるので、外国企業と代理店契約を締結する場合[5]は、契約終了の条件等を慎重に検討する必要がある。

  1. (注) 並行輸入
    有名な商標(ブランド)の商品は、その商標権を持つ海外メーカー等と、日本の輸入者(海外メーカー等の日本子会社を含む)との間で総代理店契約を結び、その条件に従って輸入販売される例が多い。ところが、同一商標を付した真正品を、海外メーカー等の本国又は第三国で正規に仕入れた企業(又は個人)が、商標権者との間で輸入販売に関する契約を結ばずに輸入販売することがあり、商標権者らがこの並行輸入を阻止しようとすることがある。
    日本の最高裁は、商標権者から商標の使用許諾を得ていなくても「真正商品の並行輸入」に該当する場合は、商標権の侵害にあたらないとした[6]。この判例を踏まえて、日本の税関は合法として通関している[7]

c. チェーンストア[8]
 単独の企業(又は、持株会社企とその傘下の企業グループ)が、ブランド・経営方針・サービス内容等を統一して、多数店舗を運営する経営形態であり、小売業[9]・飲食業に多い。
 チェーン店運営要領(又は、グループ内契約)では、販売地域・販売方法(小売価格を決定、店舗売りを原則とする、他商品の取扱いを禁止、店舗売りは現金又はカード取引に限定等)・販売ノウハウ(店舗改装、従業員教育等)の提供等について定める。チェーン内で業務の標準化(店舗設計、備品、内装等)・単純化(店員作業のマニュアル化等)・集中化(調達、大量調理、物流、情報システム等)等を行って、競争力を強化する。

d. フランチャイズ
 事業者であるフランチャイズ本部(フランチャイザー)が、小規模の出資者を募集して加盟店契約を結び、画一的な商品・経営ノウハウ・商標・商号等を提供して、統一的な店舗イメージ・経営システムに基づく経営を行う。本部が所有する経営システムと加盟店の資金が補完し合い、一体的な企業グループとして運営される。
 フランチャイズ契約は独立事業者間の契約だが、①フランチャイズ本部が設定した内容を加盟者が受け入れる約款契約であり、②加盟者をフランチャイズ本部の系列の中に組み込む契約であることから、その運用は、あたかも一つの法人の中の本店と支店の関係のように行われる。

  1. (注1) 独占禁止法上の問題点
    フランチャイズ本部が加盟店を募集する際には、情報を十分に開示し、取引条件が優良又は他社と比べて有利という誤解が生じないように説明する必要がある。売上・収益の予想、ロイヤリティの算定、他社の契約条件との比較等の根拠・方法が合理性を欠くと、ぎまん的顧客誘引[10]とみなされる可能性がある。
    また、フランチャイズ・システムの運用に必要な限度を超えて、取引先の制限・仕入数量の強制・見切り販売の制限・新規事業導入を強制する契約に変更・ノウハウ保護等に必要な範囲を超える競業の禁止等を行い、正常な商慣習に照らして加盟店に不当に不利益を与える場合は、優越的地位の濫用[11]に該当する可能性もある[12]
    このため、経済産業省・中小企業庁[13]・商工会議所・公正取引委員会等が加盟店等に注意喚起するとともに、相談に応じている。
  2. (注2) 中小小売商業振興法による加盟店保護
    中小小売商業振興法は、フランチャイズ契約を締結する前に書面を交付して、フランチャイズ本部の事業概要と契約骨子を説明すべきことを義務付けている[14]


[1] 独占的販売代理店権を付与すると、非独占的販売代理店権と異なり、市場の長期戦略に重大な影響が生じる。

[2] 商法27~31条、502条11号、12号

[3] 平成27年10月版48頁。なお、金融庁 平成28年9月「保険会社向けの総合的な監督指針 Ⅲ保険監督に係る事務処理上の留意点 Ⅲ-2-1特定保険募集人の登録等事務、Ⅲ-2-15不祥事件等に対する監督上の対応」参照

[4] 理事会指令86/653/EEC(1986年12月18日)は、個人事業主の代理商の保護を促す。ただし、法人は保護対象に含まない(同指令1条2項)。

[5] 代理店の設定を政府に届出又は登録することを義務付ける国もある。

[6] 平成15年(2003年)2月27日最高裁判決(民集第57巻2号125頁 )「フレッドペリイ事件」では、次の①②③の全てに該当する場合、「『真正商品の並行輸入』として商標権侵害としての実質的違法性を欠くと解する」としている。①商標が外国における商標権者または商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであること、②外国における商標権者と日本の商標権者が同一人であるかまたは法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、その商標が日本の登録商標と同一の出所を表示するものであること、③日本の商標権者が直接的または間接的に商品の品質管理を行い得る立場にあることから、その商品と日本の商標権者が登録商標を付した商品とが商標登録の保証する品質において実質的に差異がないと評価されること。

[7] 「商標権等に係る並行輸入品の取扱い」関税法基本通達 第6章「通関」第8節

[8] Chain store。日本チェーンストア協会は通常会員資格を、①チェーンストアを営む小売業法人であって、11店舗以上または年商10億円以上の事業会社、②チェーンストア事業を営む小売業法人を直接の子会社に持つ持株会社、としている。イオン・イズミヤ・イトーヨーカドー・小田急商事・オークワ・京王ストア・京急ストア・生活協同組合コープみらい・ダイエー・東急ストア・東武ストア・平和堂・丸井グループ・ユニーグループHD他が会員登録されている。(2016年9月16日現在)

[9] 例えば、日本チェーンドラックストア協会には次の企業が加入している。アカカベ・イオン・キリン堂HD・コーナン商事・コクミン・ココカラファイン・生活協同組合コープさっぽろ・東急ストア・平和堂・マツモトキヨシHD他(平成28年度正会員企業)

[10] 不公正な取引方法「一般指定」第8項(ぎまん的顧客誘引)

[11] 独占禁止法2条9項5号

[12] 公正取引委員会平成14年4月24日・改正平成23年6月23日「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」

[13] 中小企業庁「中小企業施策FAQ・相談事例12.フランチャイズ契約は十分に理解して」では、トラブルが生じやすい次の6類型を紹介している。①売上予測、経費予測と実態の相違、②加盟金の返還の有無、③ロイヤルティの算定方法、④オープンアカウント等の本部との債権債務の相殺勘定、⑤テリトリー権の設定の有無、⑥契約解除時における解約違約金。

[14] 中小小売商業振興法11条(特定連鎖化事業の運営の適正化)は、「約款に、加盟者に特定の商標、商号その他の表示を使用させる旨及び加盟者から加盟に際し加盟金、保証金その他の金銭を徴収する旨の定めがあるもの」を行う者は、加盟契約を締結する際に、加盟しようとする者に対して加盟金・保証金・販売条件・経営指導・その他の法定の事項について書面で説明すべきことを義務付ける。

 

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