◇SH1252◇ベトナム:入社1年未満の従業員のベトナムへの派遣の方法 澤山啓伍(2017/06/23)

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ベトナム:入社1年未満の従業員のベトナムへの派遣の方法

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

 

 ベトナムで外国人が就労するためには、原則として労働許可証を取得する必要がある。労働許可証の取得が免除される場合もあるが、その場合でも一定の要件を満たす必要がある。したがって、ベトナム子会社に派遣する従業員を決定する際には、その辞令を出す前に、労働許可証の取得又はその免除を受けるための要件を満たしているかを確認する必要がある。

 近時、「入社後1年以上経過しないとベトナムで労働許可証の取得ができない」という誤解をしているケースをよく耳にする。特に国際業務の経験が少ない中小企業では、社内で適切な人材がおらず、外部から海外子会社の管理経験が豊富な人を中途採用し、数ヵ月程度日本で研修を行ってからベトナムに派遣するというパターンをよくお聞きする。その際、問題になるのが、上記のような話である。しかしながら、この話は正確ではない。理由は以下の通りである。

 まず、ベトナムの労働許可証を取得する場合、その従業員がベトナムで就労する形態により、必要とされる書類が異なっている。ベトナムで就労する形態としてよくあるものに、①社内異動として親会社等から出向して勤務する形態、②従業員がベトナム企業と締結した労働契約を履行する、いわゆる現地採用の形態、③外国企業が、ベトナム企業との間で締結した契約を履行するために従業員を長期出張として派遣する形態がある。

 このうち、日本で中途採用して派遣したいという場合、想定されているのは、①の形態だと思われる。この場合、確かに、「社内異動」に該当するためには出向元の会社で1年以上勤務していなければならないという要件(政令11/2016/ND-CP号3条1項)があり、そのことを証明する書類の提出が求められている(同政令10条7項a号)。したがって、中途採用で入社後1年以上勤務していない従業員を、この形態で派遣することはできない。

 しかし、②又は③の形態での派遣であれば、入社後1年間という条件は課されていないため、その従業員をベトナム子会社に派遣することは可能である。

 すなわち、②の現地採用の場合、当該従業員がベトナム子会社と直接雇用契約を締結することを前提として、労働許可証の申請を行うことが可能である。この場合、親会社での1年以上の勤務経験は必要とされない。労働許可証の取得後、ベトナム子会社と当該従業員との間で雇用契約を締結することは必要になるが、社内での位置づけとして出向扱いとすることは妨げられない。また、当該従業員に対する待遇を、いわゆる現地採用の場合の待遇にするか、出向者と同様の待遇にするかは、純粋に社内規定の適用上の問題であり、給与水準や手当等について、出向者同様の待遇を与えることは可能である。

 さらに、③の形態は、親会社がベトナム子会社との間で締結した契約(例えば、技術供与契約)を履行するために、従業員がベトナムで勤務する場合(同政令2条1項c号)である。この形態で労働許可証を申請する場合には、ベトナム子会社と親会社との間の契約を提出する必要があり、その契約の内容に外国人がベトナムにおいて勤務することについての条項を含める必要がある(同政令第10条7項b号)が、当該従業員が親会社で1年以上勤務していなければならないという制約はない。

 なお、いずれの場合であっても、派遣される従業員は、「管理者、業務監督者、専門家または技術者」のいずれかに該当する必要がある。これらの用語の定義については、本稿では省略するが、これに該当するために、一定の年数の職務経験(但し、親会社での経験には限られない。)はいずれの場合であっても必要とされるので、ご留意いただきたい。

 

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