コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(1)
-自己紹介-
経営倫理実践研究センターフェロー
岩 倉 秀 雄
1 はじめに
筆者は、大学卒業後一貫して組織に所属し、商品開発とマーケティング、研究開発マネジメント、危機対応、組織風土改革、経営再建、合併会社設立、コンプライアンスとCSRの推進、社史編纂等に従事し、社会人大学院で関連研究を行ってきた。
(株)商事法務との縁は、日本ミルクコミュニティ(株)のコンプライアンス部長時代に、NBL誌に「コンプライアンス講義」を連載し、『コンプライアンスの理論と実践』(商事法務、2008)を出版した時からである。
なお、大学院では、青山学院大学修士課程で経営学を、一橋大学博士課程で経営法を専攻したが、それは、実際の組織で発生する様々な事象を理解し対策を実施する上で非常に役立った。本サイトでは、実務経験と研究をベースに、今なお頻発する組織不祥事の予防・危機対応・組織風土改革や、経営の新しい方向として注目度が高まっている組織の社会的責任(SR)経営について、主に組織論と経営法の視点から実践的に本音で考察する。
2 自己紹介と研究の背景
第1回目は、筆者の経歴と研究の背景を述べたい。
現在、筆者は雪印メグミルク(株)CSR部に在籍しながら、経営倫理実践研究センター、日本経営倫理士協会でコンプライアンス、CSRについて研究し講師を務めている。
1976年北海道大学でバイオテクノロジーを専攻して卒業し、全国酪農業協同組合連合会(全酪連)に入会。乳業の商品開発・ブランド構築に成功、部門の売上げを600億円から1000億円に拡大した。
その後、社会人大学院で、ガットウルグアイラウンドによる農業の国際化を踏まえた全酪連の環境適合戦略を研究し、会員からのニーズが高く会員自身では保持することが難しい研究開発力の強化を提案し研究開発部を設立、順調に研究開発マネジメントを進めていた。
しかし、1996年、一部の工場で筆者が構築したコンセプトを覆す「全酪連牛乳不正表示事件」が発覚した。
筆者のコンセプトは、「素材の持味を活かした高品質な製品を適正な価格で消費者に届ける」というものだったが、一部の工場で、生クリームや脱脂粉乳で調整した「還元乳」を無調整牛乳に混ぜて、無調整牛乳として販売した表示違反事件が発覚した(これについては、今後詳述する)。
この事件は、連日、メディアで「水増し牛乳」と報道され、全酪連は生産者と消費者の信頼を裏切ったとして不買運動が発生、全酪連の経営は大きく悪化した。
筆者は、危機対応、経営刷新(品質保証部の設置や乳業工場別会社化等)、信頼回復のための組織風土改革運動(事務局長)等を企画・実行し、経営再建に奔走した。
しかし、経営再建のために雪印乳業(株)と合弁会社の設立交渉をしていた時に、雪印乳業(株)と子会社の雪印食品(株)が、食中毒事件と牛肉偽装事件により組織消滅の危機に陥った。
そこで、行政の指導もあり、全農の乳業子会社、全酪連の乳業子会社、雪印乳業(株)の市乳部門が合併し、日本ミルクコミュニティ(株)を設立することになった。筆者は、全酪連乳業統合準備室長兼日本ミルクコミュニティ(株)設立準備委員会事務局次長として会社の設立に参画し、コンプライアンス部長として同社に移籍した。
筆者は、この合併会社で違反が発生すれば引責辞任かもしれないとの危機感を抱きつつ、コンプライアンス体制をゼロから構築・運営した。
その後、雪印乳業(株)と日本ミルクコミュニティ(株)が再合併して雪印メグミルク(株)が設立され、筆者は子会社の管理担当役員を経て、同社で『日本ミルクコミュニティ史』と雪印の2つの事件を記述した『雪印乳業史第7巻』を編纂(共著)した。
本研究は、全酪連、日本ミルクコミュニティ(株)、雪印メグミルク(株)における経験をベースに、今なお頻発する組織不祥事と組織の社会的責任経営に関する様々な動きについて、組織論と経営法の視点から考察する。
なお、筆者は、本年9月で雪印メグミルク(株)を定年退職する予定で、今後は、経験と研究を執筆やコンサルティング・教育等で社会に還元したいと考えている。