◇SH1262◇日本企業のための国際仲裁対策(第43回) 関戸 麦(2017/06/29)

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日本企業のための国際仲裁対策

森・濱田松本法律事務所

弁護士(日本及びニューヨーク州)

関 戸   麦

 

第43回 和解その1

1. 重要性

 民事紛争の解決方法は、基本的に、①判決、仲裁判断等の強制力ある判断によるか、あるいは、②和解という任意の合意によるかの二通りである。①と②のいずれが望ましいかを検討することは、民事紛争における重要な視点であり、換言すれば、和解は解決方法の選択肢の一つとして念頭に置くべきものである。

 ②和解による解決のメリットとしては、①判決、仲裁判断等による解決との対比において、一般に次の各点が指摘されている。

  1.  •  法律という硬直的な枠組みに縛られることなく、事案の実態に即した処理が可能である(柔軟な解決)
  2.  (訴訟、仲裁等の手続を最後まで続けた場合よりも)時間、労力、金銭コスト等を、軽減できる
  3.  •  和解の方が、判決、仲裁判断等よりも、任意に履行される確率が高い

 さらに、国際仲裁の場合は、訴訟との違いである次の2点が、和解に関して意味を持ちうる。

  1.  •  上訴がない
  2.  •  弁護士費用の敗訴者負担が認められる(勝訴すれば自らの弁護士費用を相手方から回収できる一方、敗訴した場合には相手方の弁護士費用まで負担しなければならない可能性がある)

 すなわち、国際仲裁手続においては、敗訴した場合に、①是正の余地がほとんどない、②相手方の弁護士費用まで負担しなければならない可能性がある、という二つの点において、敗訴リスクに訴訟の場合より重い意味がある。そのため、敗訴リスクを回避するために和解をするという動機が、訴訟の場合よりも強く働きうる。

 なお、通常はとられない選択肢ではあるが、訴訟の原告には訴えを取り下げる、あるいは請求を放棄することによって訴訟を終了させるという選択肢がある。これに対し国際仲裁の申立人には、申立の取り下げという選択肢はあるものの、上記の弁護士費用の敗訴者負担の制度の下では、相手方の弁護士費用の負担というコストを伴うため、よりとりがたい選択肢である[1]

 

2. 仲裁人の和解への関与の可否

 日本の民事訴訟では、裁判官が和解に関与することは通常のことである。日本の民事訴訟法89条は、「裁判所は、訴訟がいかなる程度にあるかを問わず、和解を試み、又は受命裁判官若しくは受託裁判官に和解を試みさせることができる」と定めている。

 これに対し、国際仲裁においては、仲裁人が和解に関与することは一般的ではなく、消極的な考えが強い。その理由としては、和解協議に表れた情報が、仲裁人の判断に不適切な形で影響を及ぼし、主張と証拠に基づき仲裁人が判断を行うという枠組みが害されることへの懸念がある。また、仲裁人が和解による解決を志向した結果、仲裁判断に対する意識が不十分になり、これに向けた審理がおろそかになることへの懸念も考えられる。

 訴訟においても欧米では、判断権者である裁判官が和解手続に関与することは、基本的に避けられている。世界的に見ると、日本の民事訴訟のように判断権者が和解に関与する方が珍しく、これは日本における裁判官に対する信頼の高さゆえ(上記のような問題が生じないとの信頼感ゆえ)の特徴的な点といえる。

 もっとも、国際仲裁において、仲裁人が和解に全く関与できない訳ではない。申立人及び被申立人双方が同意した場合には、仲裁人が和解に関与できる。この点に明確に言及しているものとして、ICC(国際商業会議所)規則付属規程(Appendix)のIV項h(ii)、JCAA(日本商事仲裁協会)規則55条1項、日本の仲裁法38条4項、IBA(国際法曹協会)の利益相反ガイドライン(IBA Guidelines on Conflicts of Interest in International Arbitration)[2]Part I (4)(d)がある。なお、JCAA規則では、同意につき「書面」による同意であることが求められている。

 但し、仲裁人が和解に関与できる場合も、当事者双方同席ではなく、一方ずつ協議する交互面談方式で行えるか否かは、また別の話である。日本の民事訴訟では、裁判官が交互面談方式で和解協議を進めることは一般的であるが、国際仲裁では、基本的なルールとして、仲裁人が当事者の一方のみとの間で連絡をとることは避けられている。交互面談方式は、このルールと抵触するため問題となる。

 この点、JCAA規則55条2項は、当事者双方が書面で合意しなければ、一方当事者と個別に協議することはできないと定めている。すなわち、和解協議に仲裁人が関与するとの合意のみならず、これに加えて、仲裁人が一方当事者と個別協議ができるとの合意があって初めて、かかる個別協議ないし交互面談方式が可能になるとされている。加えて、仲裁人は、個別協議を行った場合には、「個別に協議したという事実(意見の内容等を含まない)を、その都度、他のすべての当事者に伝えなければならない」と、JCAA規則55条2項は定めている。

 

3. 和解協議の内容に関する証拠能力等

 仲裁人が和解協議に関与しない場合、和解協議の内容を仲裁人に伝えることは避けられる。仮に、和解協議の内容が主張書面又は証拠として提出された場合には、その部分は基本的に、仲裁手続の記録から排除されることになる。この点、JCAA規則54条3項は、調停による和解協議を対象に、「いずれの当事者も、当事者の合意がない限り、調停手続で当事者がした提案、自白その他の陳述または調停人の示した提案を仲裁手続において証拠として提出してはならない」と定めている。

 なお、米国の民事訴訟では、和解協議の内容に関する証拠につき、原則として証拠能力が否定されることが明文で定められている(連邦証拠規則408条(a))。その趣旨は、仮に和解協議の内容について証拠能力が認められると、証拠となることを懸念して和解提案を躊躇するなど、和解協議が円滑に進まなくなると考えられる点にある。すなわち、和解協議の円滑な進行のために、証拠能力を否定したということである。この考え方は、国際仲裁の実務にも反映されていると思われる。

以 上



[1] もっとも、訴訟でも、弁護士費用の敗訴者負担の制度が認められている法域の場合には、訴えの取り下げ等に際しては、相手方の弁護士費用の負担が必要となる可能性があり、その場合には、国際仲裁における申立の取り下げと同じ意味において、とりがたい選択肢になると思われる。

[2] IBAのホームページにおいて、日本仲裁人協会による和訳も含め、入手可能である。
  https://www.ibanet.org/ENews_Archive/IBA_July_2008_ENews_ArbitrationMultipleLang.aspx

 

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