金融庁、「監査報告書の透明化」について公表
−−監査人が着目した会計監査上のリスクなど監査上の主要な事項(KAM)を監査報告書に記載−−
金融庁は6月26日、「監査報告書の透明化」について公表した。
会計監査をめぐっては、会計監査を取り巻く環境の変化や不正会計事案等を契機として、その信頼性を問われている。
監査報告書において、財務諸表の適正性についての意見表明に加え、監査人が着目した会計監査上のリスクなどを記載する「監査報告書の透明化」について、監査報告書の情報価値の向上を目的として、国際監査・保証基準審議会(IAASB)の定める国際監査基準に導入されたことなどを受けて、欧州やアジアの主要国等において導入が進められており、米国でも、公開会社会計監督委員会(PCAOB)が「監査報告書の透明化」のための監査基準を公表したところである。
わが国でも、「会計監査の在り方に関する懇談会」(座長=脇田良一・名古屋経済大学大学院教授、明治学院大学名誉教授)が平成27年10月から会計監査の信頼性を確保するために必要な取組みについて議論を行い、平成28年3月8日、下記のような施策が必要であるとする提言を公表した。
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○ 監査法人のマネジメントの強化
・ 監査法人のガバナンス・コード
・ 大手上場企業等の監査を担える監査法人を増やす環境整備 -
○ 会計監査に関する情報の株主等への提供の充実
・ 企業による会計監査に関する開示の充実
・ 会計監査の内容等に関する情報提供の充実 -
○ 企業不正を見抜く力の向上
・ 会計士個人の力量の向上と組織としての職業的懐疑心の発揮
・ 不正リスクに着眼した監査の実施 -
○「第三者の眼」による会計監査の品質のチェック
・ 監査法人の独立性の確保
・ 当局の検査・監督態勢の強化
・ 日本公認会計士協会の自主規制機能の強化 -
○ 高品質な会計監査を実施するための環境の整備
・ 企業の会計監査に関するガバナンスの強化
・ 実効的な内部統制の確保
・ 監査におけるITの活用
・ その他
この提言を踏まえて、すでに、監査法人のガバナンス・コードの策定(3月31日)などの施策が進められている。そして、株主等に対する会計監査の内容等に関する情報提供を充実させる観点から検討を進めるべきとされたことにつき、平成28年9月から、関係者(日本経済団体連合会、日本監査役協会、日本証券アナリスト協会、日本公認会計士協会、金融庁)による意見交換を行ってきたが、今般、意見の取りまとめを行い、公表したものである。
その概要は以下のとおりである。
意見交換における議論の概要
「透明化」の導入について、意見交換の参加者からは、
- • 監査報告書において監査人が着目した会計監査上のリスク等(監査上の主要な事項(Key Audit Matters:KAM=監査人の職業的専門家としての判断において、当期の会計監査においてもっとも重要な事項をいい、統治責任者にコミュニケーションした事項から選択するものとされている))に関する情報が示されることが、監査報告書の情報価値を高め、会計監査についての財務諸表利用者の理解を深める意義がある
- • また、上記のような監査報告書の情報価値の向上に加え、㈰監査報告書におけるKAMの記載が、企業と財務諸表利用者の対話の充実を促すこと、㈪監査報告書におけるKAMの記載が監査計画の前提として組み込まれることが、企業と監査人のコミュニケーションのさらなる充実、ひいては監査品質の向上につながること、が期待される
といった意見が出された。
同時に、参加者からは、
- • 財務諸表利用者にとって有用な情報とするためには、KAMとして記載すべき項目をどのように選択し、どのような記載内容とすべきか。また、それらの情報はそもそも財務諸表利用者にとってどこまで有用な情報となり得るのか
- • KAMを含む監査報告書が円滑に作成、開示されるためには、監査人と企業のそれぞれ、また、両者の間で、どのような手続が必要となるか。KAMに記載された事項について株主総会等で質問を受けた場合の説明責任をどのように果たすのか
- • 監査報告書におけるKAMの開示と企業による開示との関係をどのように整理すべきか、仮に監査人と企業との間で調整が必要となる場合、どのような手続などが必要となるか
- • 上記のような手続を踏むことについて、どの程度の追加的な時間を要するのか
といった実務上の課題が提示された。また、「透明化」が各関係者にどのようなメリットをもたらしていくかについても考えていく必要があるとの意見が出された。
「透明化」が期待される意義・効果を十分に発揮するためには、より幅広い関係者の間で、上記のような課題について、今後、さらに具体的な検討を行っていく必要があると考えられる。
意見交換を踏まえた今後の検討の方向
「透明化」の導入が国際的に進められる中で、わが国においても会計監査の透明性向上は重要な課題であり、今後、企業会計審議会において、上記の実務上の課題についての検討を含め、「透明化」について具体的な検討を進めていくことが期待される。
その際、実務上の課題を抽出するため、日本公認会計士協会が大手監査法人や監査先企業、その監査役等と必要な連携をして、直近の終了した会計監査を対象に、KAMを試行的に作成する取組みを行い、検討に当たっての参考とすることが有益であると考えられる。
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金融庁、「監査報告書の透明化」について(6月26日)
http://www.fsa.go.jp/news/29/sonota/20170626.html -
参考
金融庁、「会計監査の在り方に関する懇談会」提言の公表について(平成28年3月8日)
http://www.fsa.go.jp/news/27/singi/20160308-1.html