タカタ株式会社ほか2社が民事再生法適用申請
岩田合同法律事務所
弁護士 村 上 雅 哉
タカタ株式会社(以下「タカタ」という。)が、平成29年6月26日、東京地方裁判所に民事再生手続を申し立てた。
タカタに対する売上が大半を占める関連会社のタカタ九州株式会社、タカタサービス株式会社についても、タカタからの売掛金の回収が滞ることで事業継続に支障を来すとして、同日に民事再生手続が申し立てられている。また、タカタの米国子会社もデラウェア州連邦破産裁判所に米連邦倒産法11章に基づく手続を申請している。
タカタ製のエアバッグのインフレータが破裂しその金属片による死亡事故等が生じるなど、インフレータ関連の不具合が判明し、平成20年11月以降、各自動車メーカーが自主回収等の市場措置を実施したことから、タカタは各自動車メーカーに対し、多額の潜在的な負債を負担することとなった。また、タカタは、インフレータ関連の不具合に関して、平成29年1月に米国司法省との間で司法取引に合意し、罰金2500万米ドル、被害者補償基金拠出義務1億2500万米ドルおよび各自動車メーカー損害補償の8億5000万米ドルを負担することとなった。タカタは、金融機関や各自動車メーカーとの間で私的整理によって再建に向けた交渉を行ってきたが、金融機関の取引条件の悪化など信用収縮が進むとともに、サプライヤーからも前払いでの納入を求められるようになり、資金繰りに行き詰って、民事再生申立てに至った模様である。
今回の民事再生について注目すべきポイントを挙げるとすれば、① いわゆるプレパッケージ型の民事再生(申立て前にスポンサー候補や事業譲渡先が決まっている民事再生)であること、② 米国司法省に対する多額の未払金が存在すること、③ 今後さらにリコール等の市場措置を実施することで各自動車メーカーに対する負債額が増加する可能性があること、などである。
上記①については、タカタは既にキー・セイフティ・システムズ社(本社:米ミシガン州。以下「KSS社」という。)をスポンサー候補として選定し、タカタおよびそのグループ会社の全事業のKSS社への譲渡に向けた支援計画について基本合意を締結したとのことである。再建型の法的整理手続としては、ほかに会社更生があるが、会社更生では開始決定時の慎重な審査の実施をはじめとする手続的負担が重く再建までの時間とコストがかかるとともに、事業譲渡は更生計画の定めによって行うのが原則とされている。他方で、民事再生は、より簡易・迅速に再建を図ることができるとともに、簡易な事業譲渡手続が用意されている。本件では、既にKSS社というスポンサーが決定しており同社への事業譲渡をより迅速に行うことができるよう、また、法的手続が長引くことにより事業遂行に生じる悪影響を最小限に止めるよう、民事再生が選択されたのではないかと思料されるところである。
上記②については、報道によれば、タカタが裁判所に提出した資料では、最大の債権者が米国司法省であり、その金額は400億円以上に上るとされているとのことである。これは前述した米国司法省との司法取引における罰金等の残額であるところ、民事再生法では再生手続開始前の罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金などの請求権については再生計画による減免ができない(民事再生法155条4項)など、他の債権とは異なる取扱いが定められている。米国司法省に対する上記債権についてどのような取扱いがなされるかは、米国や欧州で事業を行っている企業が多額の罰金を科せられ信用不安に陥るような同種のケースに与える影響が大きく、注目しておきたいポイントである。
上記③については、民事再生における債権確定手続に与える影響が大きいと考えられる。民事再生における債権確定手続は、債権者からの債権届出がなされた後、その内容に対する再生債務者の認否がなされ、再生債務者が債権の存在を認めなければ債権査定手続およびその後の訴訟手続で債権の存否が争われることになる。未だ実施されていない市場措置に関する費用についてどのように債権額が確定されることになるのかについても、今後注視していきたいところである。
本件は、製造業における過去最大の負債総額の倒産事案であり、タカタとその関連会社に対する債権者数も多数に上る。実務的にみても論点が多岐にわたり、今後の倒産事案に与える影響は大きい。再建手続の進行については今後も新聞等をはじめとするメディアで活発な報道がなされるものと思われるが、その報道内容を注視していきたい。
タカタの民事再生で注目されるポイント
上記の他、海外子会社も同時に法的整理を申し立てており大型の国際倒産事件であることや、タカタが発行済みの社債についてどのような取扱いがされるのかという点も挙げられる。 |