◇SH1277◇弁護士の就職と転職Q&A Q7「就活で『ワークライフバランス』を求めるべきか?」西田 章(2017/07/10)

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弁護士の就職と転職Q&A

Q7「就活で『ワークライフバランス』を求めるべきか?

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 企業では、昨年から急速に「働き方改革」が進められています。労働者に深夜残業を求める企業は「ブラック企業」と呼ばれ、就職を避けるべき先とみなされるようになりました。弁護士業界でも、依頼者との間の深夜のミーティングを控えるようになりました。それでは、法律事務所でも、ハードワークを求めるようなところは、就職先として不適切な「ブラック事務所」と位置付けるべきなのでしょうか。今回は、「ワークライフバランス」と「キャリアプラン」の関係を取り上げてみます。

 

1 問題の所在

 パートナーは、「アソシエイトは法律事務所の『労働者』ではない。業務委託先の『個人事業主』である」という解釈の下に新人弁護士を採用しています。これは、厳密な法解釈ではありません。今後、労基署が法律事務所に立入調査を行うことがあれば、これと異なる判断がなされる可能性も十分に存在します(特に個人受任が認められていない事務所では)。

 ただ、これまで、企業法務系の法律事務所は、労働基準法に合致するかどうかを意識することなく、「依頼者のために、できるだけ迅速に、かつ、質の高いリーガルサービスを提供する」ことを至上命題として、アソシエイトに対してもハードワークを強いることで発展を遂げてきました。現在のパートナー世代は、みな、そのプロセスを生き抜いてきたプロフェッショナルばかりです。そのため、新卒採用の選考においても、担当パートナーは、基本的には「自分達世代が潜り抜けてきたような厳しい訓練を、これからの新人にも経験しておいてもらいたい」という思いを胸に秘めています。そして、就活で「ワークライフバランスを保ちたい」という姿勢を示すことは、「仕事に対する意欲が低い」というネガティブな評価を受けるリスクを孕んでいます。このような慣行は、企業の「働き方改革」を受けて、見直されるべきであり、受験生も「ホワイト事務所」を探すべきなのでしょうか。それとも、今後も、先輩弁護士と同じように、ハードワークを続けることにもキャリア形成上の合理性が認められるのでしょうか。

 

2 対応指針

 法律事務所は、依頼者との関係では、「働き方改革」を言い訳にスピード感の乏しい仕事をすることはできません。アソシエイトが「最先端の案件」や「大型案件」に携わりたいならば、まずは、自己の「アベイラビリティ」を高めておかなければならず、それにはプライベート(友人との交友関係や趣味等)を犠牲にする時期も生じます。その期間に、専門性を磨き、依頼者又は先輩弁護士との間に信頼関係を築くことができれば、将来において、プライベート(育児や介護等)も尊重する生活をしながらも、仕事で良い案件を回してもらえる立場を確保できるようになる、というキャリアプランも存在します。

 

3 解説

(1) アベイラビリティ

 弁護士にとって、最も重要なのは「アベイラビリティ」である。これは、私が新人弁護士だった頃に事務所の創始者たるベテラン弁護士から教えられた言葉です。これには「クライアント・ファースト」の理念が背景にあります。依頼者の期待に応えるためには、クイック・レスポンスが求められます。依頼者の電話に応答できなければ、待っていられない依頼者はすぐに別の弁護士に相談してしまうかもしれません。依頼者を維持し続けるためには、日時と場所を問わずに、いつでも相談を受けられる体制を整えておかなければなりません。

 新人弁護士には「パートナーが自分の依頼者である」という認識が必要です。弁護士のキャリアは「関与した案件の経験」で決まるため、「どうすれば、パートナーから、できるだけ面白い案件、勉強になる案件のチームに自分を入れてもらうことができるか」を意識しなければなりません。何ら専門性を持っていない新人にとっての唯一かつ最大の武器は、「いつでも仕事を最優先して応答できます」という「アベイラビリティ」である、という見方はまだ根強く残っています。

(2) 専門性

 出産や育児、親の介護等のライフイベントが生じると、「生活における仕事の優先順位」を下げざるを得なくなります。依頼者は、アベイラビリティの高い法律事務所を求めて、事務所のパートナーは、アベイラビリティの高いアソシエイトを求めます。そのため、平凡なスキル・経験しか身に付けられていない状態でアベイラビリティが下がってしまうと、仕事を振ってもらえなくなり、いわゆる「干上がる」リスクが顕在化してきます。

 ハードワークは、仕事好きな弁護士だけが取り組んでいるわけではありません。むしろ「子供が産まれた後にワークライフバランスを保つために、それまではバリバリ働いて、同世代の他の弁護士との差別化を図りたい」という目的を掲げて仕事に励んでいる姿も見受けられます。特定の法分野の専門性を高めるためには、一定の「量」をこなすことが必要だろうと考えているからです。

(3) リレーションシップ

 小さいお子さんの育児を仕事と両立させることを課題とする女性弁護士からは、「出産してから、あたらしい職場を探すのは難しい」「出産前に、パートナーとの間に案件ルートを確立しておきたかった」という後悔を聞かされることがあります。保育園への送り迎えや予想できない病気や怪我への対応のために仕事のアベイラビリティが下がってしまうと、新規の依頼者(外部だけでなく、所内依頼者たるパートナーを含む)からの仕事を受けることが困難になります。

 これに対して、以前に一緒に仕事をした経験が積み重なっているパートナーとの間であれば、多少、アベイラビリティが下がったとしても、過去の「信頼関係の貯金」がそれを補ってくれることが期待できます。「仕事を最優先にできる期間」において、時間をかけて良い仕事をして、依頼者(外部及び所内依頼者)に対してその成果を認識しておいてもらうことは、「将来におけるアベイラビリティの低下の穴を埋めるための投資」になっている、と評することもできます。

以上

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